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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第19話「和菓子の創意」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった… 


■ あらすじ

 栗田の無茶振りが全員を巻き込む騒動に…?

 ランチ休憩の帰り道、たまたま通りがかった和菓子屋で一服する風流&リッチな文化部4人衆(山岡・栗田・田畑・花村さん) 
 そこの菓子のクオリティの高さに驚き、また安価であることにも驚く。聞けば店の主人は、和菓子を贈答用ではなく日常に寄り添ったものとして扱いたいという思いから、貯金を切り崩して(赤字)までも安価で提供するようにしているという。不憫に思った栗田は「なにか名前を売る工夫がないかしら。山岡さん、何か考えて?」という無茶振りをかましてくる。食べて山岡に教えてもらうまでは和三盆糖の存在すら知らなかったくせに!ただ、山岡も何か思うところがあったのか、ひとつも口答えすることなく引き受け、陶人先生のツテを頼って下鴨流茶道(架空の流派と思われる)の茶事に推薦しようとする。

いつになくフットワークの軽い山岡

 山岡に頼まれて即、下鴨流の茶人・岸川氏を連れてきてくれる陶人先生の影響力の強さはハンパない。しかし岸川氏は、菓子の美味さを褒めつつ「うちの茶事には使えまへんな」とバッサリ。その理由は… 

京都人ってこんなハッキリ物言いますのん??ってくらい直截な指摘をする岸川氏

 陶人先生パワーをもってしてもこれまでか…と思われたが岸川氏は主人の才覚を認め「新しい味が出来たら私のところにもってきなはれ」とエールを送る。主人は試作を繰り返し、ときにやけ酒をくらって山岡に愚痴るまで追い詰められたが、山岡は嫌な顔一つせず付き合ってやり、一緒に京都まで行って新しい味をともに追い求めたのだった。試行錯誤の末に、とうとう下鴨流の家元にご試食いただけることになり、晴れてその場で「新しい味」を認められ、めでたく一座建立の席となった。めでたしめでたし。
「『究極のメニュー』のデザートがひとつ決まったな」と山岡はもっともらしい事をいうが、本心はそうじゃああるまい。不思議な満足感が山岡・栗田を満たしていたのであった…(栗田は何もしてないけどね!)

◆ そういえばこれが唐山陶人先生の初登場回だった!

 ボケーっと読んでいて気付かなかったのだけど、この回は実は陶人先生の初登場回だったのだ。

初登場コマがこれ。キマッてるジジイにしか見えない…この顔にピンと来たら…?

 陶人先生は、『美味しんぼ』ストーリーの根幹を成す(成していた)雄山・山岡の父子の相克、エディプスコンプレックスとそのデタントに深く関わる重要人物である。

雄山の陶芸の師匠であり、山岡にとっては祖父的な存在だ。

 以後、この人間国宝クラスのじいさんが事あるごとに器の大きさを見せたり見せなかったり、雄山・山岡の父子関係の修復に世話を焼いたりと様々な展開をすることになる。しかしそれはまた別の、お話…

◆ 山岡の根っこにあるもの

 山岡が売られた喧嘩でも打った喧嘩でもないのにここまで情熱を注ぐのは珍しい。DNA的にもグルメ戦闘民族の側面が強いのは確かだが、やはりこの男の本質は人情家なのかもしれない。

◆ この話の気に入らないところ(イチャモン)

 キレイにまとまっている話ではあるが、前回に引き続き私はあんまり納得いっていないストーリーライン。主人は贈答用の菓子ではなく身近で日常的な存在としての和菓子を展開したいと思っていた。その想いと現実のギャップを埋めるための解決策が「茶道大家の茶事で用いられること」なのか?ということがかなり疑問だ。実際に下鴨流の家元に認められてから客は増えており、近々の結果としては間違っていないのだが、茶事での出来事を知っている人間なんてそう多くはないだろう。

下鴨流家元に認められてからの店は繁盛している

 ここに詰めかけている人たちというのは、主人の思うような、和菓子を贈答用等にしか買わない人たちではなく日常使いしてくれる人というふうには思えないなとイチャモンをつけたい。
 
志あっての老舗の権威パワーの克服、勝利というストーリーラインに、新たな権威の傘の中にはいっちゃダメなんでは?というちょっと屈折した感情を抱きつつ、今回のレビューを終わらせていただく。

・ 今さら読む『美味しんぼ』

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 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、もしよろしければ是非以下を…
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