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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第18話「炭火の魔力」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった… 


■ あらすじ

 「くそったれえ!!」 ドンガラガッシャーン

出だしの1コマ目がこれ。剣呑すぎる。

 夜の銀座に怒号が響く、なにやらわけのわからんことを喚きながらブティックのショーウィンドウを叩き割り、果ては懐から包丁を取り出して振り回す。「令和か?」と思うほどやばいワンシーンから今回の話は始まる。この男を取り押さえたのは、そばの回で活躍(?)した中松警部。お疲れ様です。
 中松警部が男の事情を聞くに、どうやら男は老舗の鰻屋「筏屋」の板前をしていた金三という者で、今度代替わりするという若旦那が、合理化のために鰻を割烹料理としてアレンジしたり、炭火からガス火での調理に変更することに腹を立ててあのような蛮行に及んだという。中松警部はメシのことなら山岡・栗田コンビだろうと男の相談に乗らせるのだった。新聞記者って更生コンサルタントか何かか?
 ともかく、話を聞いた山岡は金三の助けになろうと知恵を絞る。思いついた一策が、今度「筏屋」が出店するニューギンザデパートに、金三も臨時で店を出すこと。臨時とは言え、金三は世話になった「筏屋」を向こうに回すことなど出来ないと拒否感を強めるが、中松警部の脅迫によってしぶしぶ受けることになる…

美味しんぼ世界での司法は死んだ。

 そして実際にニューギンザデパートでの新生「筏屋」vs金三の対決が始まる。最初は「筏屋」は順調な滑り出しで、満席御礼となっているのをさらに高効率高回転で回していくので利益率も高そうだ。一方金三の店は閑古鳥が鳴いている。しかし、山岡の手伝いもあって次第に金三の店は味が評価されていき、ついに10日後には「筏屋」と金三の立場は逆転してしまった。
 自慢の効率経営が奏功しなかった上に、中松警部とニューギンザデパートの板山社長に詰められてついに「筏屋」の若旦那は折れる。金三に謝って戻ってもらい、昔のやり方でやり直すことを決めたのであった。

◆ 若旦那は大人にハメられた…?

 個人的にはこの回は腹落ちしないと言うか、若旦那が不憫に感じてどうもすっきりしない。
 刃物を振り回して暴れた金三がお咎めなしなのもそうだし、中松警部と板山社長の詰め方がねちっこくて好きになれない。2人のやりかたはこうだ。客足が遠のいた「筏屋」に訪れ、「客が少ないですな」と嫌味を言ったり、中松警部は怒声をまき散らす。

ここまで言っておいてウラでは金三とつるんでいるとか…総会屋かよ

 食の見地からすれば正しい指摘なのかも知れないが、若旦那が中松警部と金三はグルだと知っていれば、この指摘の受け止め方はどうだっただろう。そして板山社長は嫌味おかわりと言わんばかりに、なんと「筏屋」に金三の鰻丼を出前させる。当然板山社長もグルだ。

白々しい…ちなみにこのあとメチャクチャ激賞した。

 坊っちゃんは食の本質を疎かにしてしまった咎はあるかも知れないが、ここまでされる謂れはないはずだ。負けを認める際も潔く「たしかに客の数が全てを物語っています」と、自分の得意分野であるマーケティング上の敗北であることを認めるのだ。やりこめられまくった坊っちゃんは最後にはちいかわになってしまう。

もう言葉が出ない…ってコト

 同じフロアに同じく鰻屋が出店していなければ、もしかしたらマーケティング上は成立したかも知れないビジネスだったが、中松警部が刃物男を無罪放免し、しかもその理由が「筏屋の鰻をこの先食えなくなるのはつれえところ」だからという超個人的な理由で国家権力のターゲットにされてしまった、若旦那が不憫に思えて仕方がない。仕込みを使って精神をガタガタにさせて要求を通すのって悪質なマルチとか、ヤクザの手口だよね。

◆ 鰻屋は煙を食わすってね

 対決中に山岡が放った逆転の一手が「煙を食わす」こと。往々にして「鰻屋は煙を食わす」といわれ、鰻の焼けるその香気が人を惹きつけて離さないのだ。しかしここはデパートの一角、排気システムは当然万端整っているので客に煙は届かない。そこで山岡は、なんと換気扇の電源を切るのである。

なにやってんだおまえ

 「いいから…」
 いや、よくないよ?スプリンクラーが作動したらどうするんだ。この辺も、板山社長を抱き込んでいるから何をやっても許される感が出ていて好きになれない。

 何か文句ばかりになってしまったが、やはりこの話はいい話風に持っていこうとしても無理がある構成になっていると思う。ハデにやらかして耳目を集めて権力者に近づいて利を得る、という炎上系Youtuberやそっち界隈みたいな気持ち悪さが目立ってしまうからという令和のいま読む観点からの不満かも知れないな、と結んでいい話風にこのレビューも終わる。

・ 今さら読む『美味しんぼ』

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・ 私の本業は…

・実は、本業は…
 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
≠鉄道オタク の視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、もしよろしければ是非以下を…
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