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『学力格差の処方箋』



様々な事由により引き起こされる「学力格差」

本書は、「なぜ学力格差が起こるのか」「その実態はなんであるか」「各家庭で何をすれば格差を埋めることができるか」について、さながら医者が処方箋を出すかのごとく、膨大な調査と分析により結論を提言してくれる一冊となります。

■こんな人にオススメ

・お子さんの教育方法に悩んでいる方
・特に小学生のお子さんをお持ちの方
・引越しによる転向を検討されているご家族
・学力という観点で、お子さんとの接し方に苦慮されている方

■本書の特徴

テーマごとに定義・前提条件等を丁寧に記載し、その上で分析結果とまとめを記載するという構成。

論述調であることも相まって、読み慣れない方にとっては少しストレスを感じる構成になっているかもしれません。

他方、ロジカルに事実ベースで記載されており、事実と筆者の感想が明確に整理されていることから、非常に納得感があります。

■本書の読み方

日頃から統計資料を読んでいたり、グラフや表を読むことに苦手意識のない方は、苦労なく頭から読み進めることができると思います。

そうでない方は、各章の末尾に記載されている「まとめ」を読むだけでも、十分に有益な情報を得ることができます。

※下記は本書のまとめを、私なりに更に要約したダイジェストになります。

■本書のダイジェスト

(1)
学力は、児童生徒の社会経済的背景と学習時間によって規定される。
すなわち、社会経済的背景が有利な程、そして学習時間が多い程、学力は高くなる。

(2)
学習時間のみで家庭背景の不利を克服することは難しいが、学習することが高い学力の獲得につながることは間違いない。

(3)
「宿題」をする児童生徒ほど、高い学力を獲得することができる。

(4)
世帯年収300万円未満の世帯(Lowest層)のような、経済面で困難を抱えた家庭の中でも、子どもが高学力を達成している家庭には特徴がある。

【特徴1. 親の働きかけ】
①子どもの基本的な生活習慣の形成を促している。

・毎日子どもに朝食を食べさせている。
・スマホの使い方についてルールを作っている。

②子どもに文字文化に触れさせ、知的好奇心を喚起する取り組みを行っている。

・子どもに本や新聞を読むようにすすめている。
・子どもと読んだ本の感想を話し合ったりしている。
・子どもと何のために勉強するか話している。

③子どもの自己肯定感を高めるよう関与している。

・良いところをほめる等、自信をもたせる。

【特徴2. 文化施設の利用】
美術館や劇場、博物館や科学館、図書館等を積極的に利用している。
特に、大都市における学力格差を克服している家庭では、この特徴が強くみられる。

(5)
家庭環境の不利を克服するには、どのくらい勉強する必要があるか。

最も高い社会経済的背景グループの児童生徒が全く勉強していない場合、他のグループ(Upper middle層、Lower middle層、Lowest層)がどのくらい勉強すれば同程度の正解率を獲得できるかを分析した。

①小学6年生の場合
他のグループは「1~2時間」程度勉強することで、正答率を追い越すことができる。
ただし、Lowest層は「3時間以上」勉強しても追い越せない場合がほとんどであった。

②中学3年生の場合
他のグループは「2時間以上」程度勉強することで、正答率を追い越すことができる。
ただし、Lowest層は「3時間以上」勉強しても追い越せない場合がほとんどであった。

つまり、学年が向上するほど、学力の社会経済背景による格差は広がっていく。
そして、家庭背景の不利を児童生徒個人の学習時間のみで克服することは困難であることが分かる。

また、相対的に恵まれた家庭背景の児童生徒ほど、学習時間が学力の獲得につながりやすい。
同じ時間勉強しても、家庭背景が恵まれている児童の方が学力効果が高い。

(6)
学力格差を縮小する学校の取り組み
家庭学習や宿題を教員側がきちんと確認するとともに、児童生徒にフィードバックすることが極めて重要。

家庭学習の大切さを家庭に伝え、家庭学習の手引きを配布し、家庭学習に取り組めない子には放課後等で細やかに関わることで、学力格差は縮小する。


(7)
親と学校の関わり
学校の保護者の多くが積極的に学校や地域に関与することで、学校が家庭に支えられ、子どもの教育が地域に見守られているという規範が醸成され、その結果、学校全体として落ち着いた環境の中で教員が児童生徒を指導することに専念できるようになる。

■最後に

人により読みやすい/読みにくいが別れる一冊だとは思いますが、有益な情報もたくさん書かれていますので、愛する我が子のためと思い、ぜひ一度チャレンジしてみては。

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