ストーリーが言葉に命を吹き込む
執筆:ラボラトリオ研究員 つきよみ
自分で決める
失敗は最高の教師
上の言葉を読んで、
「おおっ、そうか!
人生の真理を悟ったぞ!!」
と感動する人は、あまりいないと思う。
なぜかというと、言葉としては平凡すぎるから。
小中学生ならともかく、経験を積んだ大人にとっては、今さらという感じが強い。
大事なことには違いないけれど、こういう言葉だけをずらずら並べたところで、
「うん、分かってるよ。それで?」
と言われかねない。
自己啓発の本に触発されて、あちこちで受け売りしている煙たいおっさんみたいになるのですね~。
さてさて。
それでは、ここにストーリーが加わるとどうなるか?
実は先ほどの2つの言葉は、大ヒットしたハリウッド映画のセリフで、さりげなく使われている。
1.自分で決める
2018年公開「ボヘミアン・ラプソディ」より。
映画は、イギリスのロックバンド、クイーンの活動を描いたドキュメンタリー風の物語。
クイーンファンの方はご存じのとおり、リードボーカリストのフレディ・マーキュリーは1991年にエイズで亡くなっている。
フレディが他のメンバーたちに、自分がエイズウィルスに感染していることを打ち明けるシーン。
彼はこう語る。
I decide who I am.
(自分が何者であるかは自分で決める)
この「自分で決める」というのは、言霊を学ぶ上ではおなじみの考え。
自分が現実を創造する。
自分の意志が大事。
決めたらそうなる。
ところが、これが簡単そうで難しい。
自分で決めたつもりでも、よーく掘り下げて考えたら、その出所は他人の意見だったり、長年のしがらみだったり。
フレディは自分の余命が少ないことを悟った上で、
「悲劇のヒーローになるつもりはない。
残された時間をすべて音楽に捧げる」
と決意した。
覚悟を決めた人ならではの、凄みを感じさせる意志。
「自分で決めるって、シンプルだけど覚悟がいるんだな」
と思わされるシーンだった。
2.失敗は最高の教師
2017年公開「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」より。
ご存じ、スター・ウォーズのシリーズ第8作。
ルーク・スカイウォーカーは自らの失策でジェダイの再興に失敗し、ショックのあまり銀河の辺境で隠遁生活を続けていた。
そのルークが自分の弱さと失敗を恥じ、師であるマスターヨーダに懺悔したとき、ヨーダがかけた言葉。
Pass on what you have learned.
The greatest teacher, failure is.
(学んだことを後の者に伝えよ。失敗は最高の教師)
いや~、さすがは700年も生きたヨーダ先生。
いいこと言いますな。
スター・ウォーズといえば「統合」の物語。
善と悪の統合。
光と闇の統合。
正義が悪を倒すといった単純な構図ではないところに、ストーリーの深みがある。
ヨーダの言葉もまた、統合の大切さを教えてくれるものだ。
失敗は悪ではない。
失敗から得られる教訓は数知れず。
失敗があるからこそ、成功が意味を持つ。
そう考えると、そもそも「失敗」というもの自体があり得ないとも言える。
ルークはヨーダに言われたとおり、自分がいかにして致命的な失敗を犯したかを、新しい弟子のレイに伝える。
その勇気によって失敗と成功は統合され・・・。
えーと、この続きはシリーズ最終作「スカイウォーカーの夜明け」にてどうぞ。
これ以上書くと、勢いで最終作のネタばれをやらかしそうだな・・・。
ちょっと鎮魂します。
※10分経過
映画やドラマは、一流のシナリオライターが考えに考え抜いてストーリーを書いている。
観る人たちは一つひとつの言葉やシーンに自分を投影し、ストーリーに引き込まれる。
言葉だけ聞かされると、
「何で、あんたにそんなこと言われにゃならんのよ?」
といぶかしく思うのに、ストーリーの力が加わったとたん、他人事とは思えなくなる。
これこそがストーリーの持つ威力だと思う。
ストーリーによって、言葉は自分のものとなる。
また、多くの作品は複数のテーマを同時に扱っている。
その多面的なテーマを1つにまとめ上げるのも、ストーリーの力。
例えば、先ほどの2つの映画は、音楽、SFという異なる切り口から「家族」を描いた作品でもある。
ボヘミアン・ラプソディは、バンドという家族の物語。
ソロ活動を優先してバンドを離れたフレディ・マーキュリーは、やがてそれを後悔してクイーンの活動再開を望む。
他のメンバーたちがわだかまりを解けない中、フレディはこう訴える。
No family have fights all the time.
(家族なら喧嘩しても仲直りする)
その頃、取り巻き連中の裏切りに遭い、ひどく傷ついていたフレディ。
私利私欲のためにスーパースターのご機嫌ばかり伺う連中など、もう相手にしたくない。
それよりも、本音で向き合える家族の元に帰りたい。
「家族なら喧嘩しても仲直りする」
口調は静かだが、悲痛な叫び声のようにも聞こえるセリフだ。
やがて他のメンバーもフレディに同意し、分裂状態だったクイーンは活動を再開する。
そしてスター・ウォーズ。
アナキン・スカイウォーカーがフォースの暗黒面に転落したのは、家族への思いがあればこそだった。
そのアナキンを暗黒面から救ったのは、息子であるルークだった。
スター・ウォーズは、アナキンの孫であるベン・ソロに至るまでの、スカイウォーカー一族を中心にストーリーが展開する。
でも、このシリーズで描かれる家族とは、血筋に限定されたものではない。
血のつながりはなくとも、志を同じくする仲間は、等しく家族として描かれている。
血縁を越えた人たちが心を1つにして、さまざまな困難を克服する。
仲間と力を合わせることで、運命さえも越えようというメッセージ。
これ、netenが取り組む「終の棲家構想」にも通じますよね?
運命は変えられないけど、越えられる。
でも、それは自分一人では無理で、仲間の力が欠かせない。
それを教えてくれる映画でもある。
ということで、ストーリーとは実に素晴らしい。
と同時に、その威力はすさまじい。
ついでながら、
「神話は史実ではないから何の価値もない」
などとのたまう学者先生や評論家がいる。
こういう石頭は、今すぐ映画館に行って、ハラハラ、ドキドキ、ウルウルするとよろしい。
神話こそは、言葉に命を吹き込む最強のストーリーである。
Poroleに寄せられたストーリーが1つ、また1つと増えるたびに、新しい神話が創られていく。
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【つきよみ プロフィール】
netenのシステム担当。
小学生の頃は本の虫。中学生でギターに目覚め、高校時代はテニスに熱中。
「文武両道で行けるかも・・・」と甘い幻想を抱くが叶わず、替わりに「文理両道」を目指すようになる。
以来、自分の中にある文と理を止揚することに執念を燃やす。
しかし、執念を燃やしすぎて燃え尽きそうになったので、最近は火消しにも躍起になっているとの噂。
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