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誰のための種苗法?

最近種苗法改正が話題になってますね。ふと、農業大国フランスでは種苗に関してどのような決まりがあるだろうと気になったので調べてみました。調べる前は「ブランディングが上手なフランスのことだから、がちがちに法律があるに違いない!」と踏んでいたのですが…真実やいかに!

本当に困った

フランス語で書かれている種苗法関連のニュース記事を5つほど読んでみて、混乱しました。種苗に関する法律は複数存在していて、それぞれ重複したり相反したりな状態で、さくっと理解するのは難しかったからです。当初参考にした記事は記者なりの視点やくせが盛り込まれていた、ということも後からわかって…。理解したと思っていたのに実は理解できていなかったということも知らずに記事を投稿してしまい、読んでいただいた方から間違っているとご指摘をうけたので再調査・校正しました。(6月17日現在)ご意見を頂いた方には感謝です!

悪名高き特許法

一言でいうと特許法は悪名高きものと位置付けられおり、モンサントなどのグローバル企業が利益を掌握するために作られたシステムだとか、遺伝子組換種と農薬を売りつけるための戦略だなんて語られることが多いです。

「特許=遺伝子組換種を売るため」ってイメージが強いのですが、実は開発した品目の特有性からでも取得することができます。10年ほど前のことですが、大手の品種開発企業が「甘さと苦みのバランスがよい」という特徴を根拠にEP1587933という名前の新種メロンの特許を取得しました。

そしたら「うちらは昔から甘さと苦みのバランスがいいメロンの生産してたわ!」とメロン農家たちから大ブーイングをうけました。確かに、昔からメロンを生産していた人たちからしたら、なんで後から参入してきたグローバル企業に今更金を払うのだ、と怒るのも当然です。

特許で保護されている品種改良はNG、栽培した植物から採取された種を元に自家栽培するのも禁止です。 そして種苗は開発者から直に購入する義務があるというのも特徴になります。

たぶん特許法自体が悪いものではないのでしょうが、グローバル企業の利益のみを重視した戦略の匂いがプンプンしているため嫌われているのでしょう。

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UPOV条約 (植物の新品種の保護に関する国際条約)

特許法の外にUPOV条約というものがあります。両方とも新種を知的財産として一定の期間は開発者を守るという目的は共通しています。特許のもと、開発者に与えられる権利を著作権と呼び技術や特徴に対して適応されます。UPOV条約のもと、開発者に与えられる権利をCOV(植物育成権)と呼び、品種に適応されます。

UPOV条約の役割1

UPOV条約は1961年にフランスで制定された条約で、長期的で継続的な品種改良を生産者に促すことと品種の多様性を促すことを目的としています。特許法と違い、こちらは農家や消費者のことを考えて制定されたというイメージです。ちなみにヨーロッパ連合や日本をはじめ75か国が加盟しています。

UPOV条約の役割2

UPOV条約に加盟した国は自国で生産されているすべての作物を登録し、一つのカタログにまとめなければいけません。カタログには品目だけでなく、開発者、登録年度、その特徴や短所など細かな情報も記述されます。購入者の記録も保存されます。そうすることで売買のトレーサビリティー(透明性)を確保しています。

今、日本で話題になっているのはこの登録しなければいけないシステムは善か悪かというところですよね?

現在、登録されている品目は4万品種にも上るそうでして、そのうちの9000品目がフランス産です。ちなみにフランスは毎年450の新品種を登録しているそうでして、そのために使われる投資額がフランス全体で毎年63億円…なんと薬品開発より高いとのこと…。

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COV(植物育成権)とは

UPOV条約のもと、開発者に与えられる権利をCOV(植物育成権)と呼びます。

COVには有効期限があります。品種によって25年~30年です。育成者権が有効な期間は育成者に種苗の独占販売権が与えられます。開発費用を回収してもらうというのが理由です。当然、といえば当然ですよね。

期限切れになった品目はパブリックドメイン入りします。パブリックドメイン品目は自家再生産してもよくなります。ただし有効期限に関係なく、農家同士で自家栽培した種苗を交換することは禁止されています。

しかし例外がやまほどありました

例外1 上段で「有効期限に関係なく、農家同士で自家栽培した種苗を交換することは禁止されています。」と、かいたばかりなのですが、オーガニックであれば農家同士で自家栽培した種苗は交換し自由に栽培・販売していいそうです。理由はオーガニック栽培を盛り上げるため。

例外2 新種の開発目的で種苗を必要とする場合(つまり作物の販売が目的でない種苗購入の場合は)育成者にに許可を申請する必要はないし、育成者権料を払う必要もありません。これ、どうやって購入者の真意を把握するの?と思う人もいらっしゃるかと思います。なんと、それは種苗購入者の自己申告とのこと。購入する種苗の量が少ないというのが目安です。

例外3 今まで穫高のよい品種を優先生産しすぎたために、穫高のよくない品目(特に穀物)が絶滅の危機に面しており問題視されています。そのような品目は保護認定をうけています。(2020年で34種品目)保護認定されている品目は種苗の自家再生産品種改良も自由におこなっていいそうです。※ただし収穫高に応じた額を育成者に支払わなければいけません。

収穫された食物を同じ場所で再生産し続けると、土壌や天候、その地域の特色に適合しながら自然と品種も変化していき、地域に適合した育成しやすい食物を農薬に頼らずとも生産できます。農薬に多くを頼らなくていいのであれば私たちの体にも環境にもよい。だからどんどん自家栽培と品種改良しましょうというわけです。

収穫高に応じて育成者にはロイヤリティーを払わなければいけないと書きましたが、年間の生産量が92トン以下であれば、育成権が有効な品目であっても育成権料は払わなくていいしという免除があるのです。だから小さい企業の開発事業へのモチベーションアップにもつながります。

例外4 趣味で農園している人も種苗の再生産OKです。

例外5 新種を育成した人が育成権をいらないといえば、育成権を支払う必要はありません。

例外だらけの理由

種苗登録制度、実は10年くらい前までフランスでは厳格に守られていなかったようです。しかし今は99%以上の農作物が登録種苗から栽培されています。残りの1%はCOV法に反対する人たちがいて登録を拒否しているからです。(=本来は罰せられるはずなのですが、アナーキーな農家もけっこういるので容認されています。)

情報を管理し、かつ例外多発作戦をとることにより多様な農業を盛り上げることを優先しています。みんなが新種の開発をできる環境を作ったほうがいい、また品質の高い品種が増えれば農家としてもたくさんの品種の中から選べるというメリットがあります。

和牛が海外で勝手に飼育されて、みんなおこってたけど、結果的に和牛という名前が世界にひろがり日本産和牛に対する関心が高まったという感じでしょうか。もちろん、日本の畜産業にもっとメリットになる方法があったにはあったのでしょうけれど…。

ミレー2

さいごに

特許法を駆使するグローバル企業が原因で特許・著作権に対するイメージが悪いという現状があります。そのため農業と農家を守るための種苗登録システムにもネガティブなイメージを持ってしまう人がいるのかもしれません。

農家を長期的に発展・継続させるためのルール作りがあれば、みんな自律的で生き生き活動をするようになります。フランスは管理下のもと、放任するというシステムを導入することによって成果をだしはじめています。

2020秋からフランス国内の展示会視察や企業訪問をしながらレポート記事を投稿していく予定です。現在その資金が必要なのでサポートをお願いいたします!