見出し画像

銀座地下1階の世界で得た知見。-カレー屋さん日記#5-

何ヵ月ぶり?このシリーズ。
どうも、コーシです。

最近、インドカレーにおける挑戦を明らかに怠っている自分に怒りを感じていた。
いつも行っているインドカレー屋さんにしか行っていない。

正直な話、あそこが自分にとってのホームグラウンドすぎる。
安心感が半端じゃ無いのだ。
心も体も疲れていることが多い最近、インドカレーを体が欲しても心はホームグラウンドでのインドカレーしか許さない。

今日もそんな感じだ。
18時半くらいに大学の授業が終わり、自分が何を食べたいのか自問自答する。
考え始めた瞬間から、手札にはもう既に一枚のカード。インドカレー
いつもの、あそこのインドカレー。

心ではあそこの安心感を欲する気持ちと、刺激を求めない自分に対する冷え切った感情が交差する。

それからあまりにも多くのカードが手元に揃っていく。
沖縄料理、吉野家、マック、ラーメン、サブウェイ、タコベル。

一旦思考を放棄して、惰性で多摩モノレールに乗り込む。
頭は最近の悩みが押し寄せてくる。
そのうちの一つとしてあるのが、”エッセイが書けない”。
生活の何が楽しいのか、感じることができない

おそらくそれは、挑戦不足にあると考えられる。
最近はずっと、決まったことしかしていない。
待ち受ける挑戦はTOIECくらいだ。
それでも生活は変わらず、勉強して、たまに運動して、大学行って、勉強して。
そうありたい生活ではあるものの、ネタになるようなことが一個もない。

よし、決めた。
今日の夕飯は、エッセイのネタに捧げよう。
それを理由に何かしらの挑戦をしてみよう。
インドカレーというもう擦りに擦った選択肢からも一旦離れよう。
ずっと行ってみたかった焼肉ライク。1人焼肉なるものをしてみたい。

そう思った頃には、私は新橋に降りていた。
ここには本店があるらしい。
サラリーマンに紛れながら新橋を歩く。割と馴染みのない風景。
大嫌いな人混みの中でも、何かの目的があるとその心は弾んだりする。

しばらく歩いて、目的地の焼肉きんぐを見つけた。
が、私は直ぐに引き返した。
もう中はパンパンで溢れ出した人は行列を形成していた。

いやぁ、ちょっとこれはきつい。
というか私が完全に甘かった。
20時、仕事終わりのサラリーマンの味方である場所に、ただの大学生が足を踏み入れることができるはずが無かった。

私はもう特に心の中でもリアクションをすることもなく、スマホで近くのインドカレー屋さんを調べ始めていた。
慣性の法則だった。

ちょっと銀座方面に歩いたドン・キホーテの裏の方に、一見のインドカレーやさんがあることを確認した。

特に何の感情も持てず、インドカレー屋さんを目指す。
最近、勝手に思考が放棄されてしまう。
今、何を考えているか、どんな感情か、心で理解することができない。
自分の体調もあるが、どんな時でも自分を囲って付きまとう言葉や思想や習慣に、疲れてしまっている感覚があった。

ぼーっとネオンを眺めつつ、Google mapを横目に歩くと、目的地の看板が見えた。

しかし地上を見回すが、お店の姿は見えない。
立ち止まってキョロキョロすると、地下に続く階段を見つけた。
地下を指す矢印が描かれた看板には、目的地の店名が記されている。

本格インド料理 アナム

少しずつ、心が躍り始めた。
銀座の雑居ビルの地下一階、それもかなり年季の入った見た目の。
これは、面白そうだ。

地下に潜ると静かな空間、突き当たりの回らないお寿司やさんを左に曲がると、明らかに世界が変わった。
アナムだ。

お寿司やさんの目の前から二、三歩踏み出すと、そこはインドカレー屋さん。
今私が立っているこの場所は国境と言っても過言ではない


二、三歩を踏み出し、店内に入る。
するとそこには日本語が存在しなかった。
店員同士の会話も、お客さん同士の会話も、店員さんとお客さんの会話も、何語か解らない。
ずっと心の中で凝り固まっていた何かが、動き出す。

おひとり様もすんなり受け入れてもらえて、流暢な日本語で席に案内して頂いた。
メニューを吟味する。
やはり、初めていくカレー屋さんはバターチキンカレーを頼むのが鉄則だと信じている。

セットメニューを頼んで、インドカレーの到着を待った。

対面の前にトイレに行っておこうと席を立つと、とてもかっこいいスーツを身に纏ったインド人の紳士がトイレを案内してくれた。
先からやたらと目が合うので、インド大使館の人にインドカレー行きすぎ男として目をつけられているのか、とか妄想を膨らませていたが、オーナーさんだった。
彼は忙しく店内を歩き回っては、お客さんと(おそらく)ヒンディー語で会話をしている。

しばらくすると、料理が登場した。

机もすごい綺麗じゃない?

期待は高まりに高まっていた。
インドカレーといえばこれなんじゃね?というビジュアルだ。

いただきますをし、息を整えてチキンティッカを食べる。
おいおい、うますぎやしないか
絶妙なかみごたえといい、味の染み込み具合といい、完璧すぎる。
あと特筆すべきは茶色ソースだ。
何だか解らなかったけど、美味しすぎてご飯と一緒に食べてしまった。

もうこうなると、インドカレーを待つことはできない。
スプーンにすくって、口に運ぶ。
ぬおおおおお、、
うんま、、

トマトの味が濃い。
そして前代未聞の感想、みずみずしい
口の中で大方の予想を裏切るように、サラッと消えていく。
香りと整った味を残して。

日本語が聞こえないのを良いことに、いつもより集中して食べ進める。
すると、横から「カラサハダイジョウブデスカ?」と聞こえた。

見るとさっきの紳士が笑顔でグッドポーズと共に立っていた

私は、幼い頃からの憧れの人に会ったかのように「めちゃくちゃ美味しいです!」、と自覚するほど無邪気な声で答えていた。
「イツモハコノ時間ハ行列ナンダケド、オ客サンラッキーデスネ。」
「そうなんですね。だって美味しいですもん。」

インド紳士との会話は脳にかなりの刺激を与えていた。

「いつからこのお店はあるんですか?」
「ワタシガオーナーニナッテカラハ13年デスガ、コノオ店自体ハモウ60年前カラアリマス。ダカラ家具トカイイカンジデショ。」

コノ机トカ、という紳士の自信に満ちた振る舞いは見ていてとても幸せな気分だった。
もはや憧れすら感じる。

ゆっくり楽しもうと思っていても、結局はあっという間に食べ終えてしまう。
お会計を済ませ、階段を登る。

頭上に聳え立つ、ビルの山。
帰ってきたなぁ、とか思ってしまった。

生活において、煮詰まることも、刺激的な瞬間も、慣れてしまってつまらないことも、何度でも新鮮なことも、全てが関わり合ってやっと一つの感動が心に届く。
その一つの感動を味わえる自分だけの心を、労りつつ、酷使していかなければ。

そんな知見まで得て、私は帰路についた。

 フクダコーシ しそとツナ缶。
 Instagram @f.kohhhhhshi_(アート投稿中!)
 Twitter @FKohhhhhshi

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?