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私たちにも責任、不利益は当たり前。連帯を

 現代にこんなに理不尽な侵略が起こるとは、本当に予想外だった。いてもたってもいられず、この記事を書き始めた。

 2022年2月24日、国連常任理事国のロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻を始めた。世界中の人々や国々から非難の声が上がり、ロシア国内も例外ではないし、もちろん私も例外ではない。決して認められない。本当にあってはならないし、怒りがこみ上げてくる。ただ、それだけでは何の解決にもならない。私たちにも責任があるのではないだろうか。

▼原料高や金融不安

 ロシア侵攻に対して、アメリカやヨーロッパ、日本などが強調して国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からの排除をはじめとする強力な経済性制裁を加えた。経済制裁によって、私たちの生活にも大きな悪影響が出ている。原油や穀物といった原料の高騰が続き、侵攻以前からの流れだったガソリン価格の上昇や、食料品の値上がりが今後さらに続くだろう。生活には大きな打撃だ。ガソリン代は180円近くまで高騰していて給油のたびにげんなりする。

 積み立てNISAやiDeCoの普及する中、株価の暴落のような金融不安で、金融資産が損害を被っている人も少なくないだろう。例に漏れず私もそのうちの1人で、これまで好調だった分の利益が半分ぐらいに目減りした。

▼世界の責任の一端

 でも私は今回の事態は、当たり前だと感じている。この経済がグローバル化された世界で、戦争や経済制裁が私たちの生活に影響がないはずがない。私たちは国際社会の一員で、世界中で起きることの責任の一端を担っている。

 もちろん最も重い責任があるのは言うまでもなく理不尽な侵略をしているロシアだ。ただロシアによる侵攻が始まった当初、バイデン米大統領が、侵攻は「ロシアだけに責任がある」という声明を出したが、大きな違和感を覚える。ロシアの侵攻を止められなかった側の私たちにも、ロシアに戦争を始めさせてしまったという一定の責任はあるはずだ。

 当初数日で降伏するとの観測があったウクライナの奮闘を賞賛し、感心している場合ではない。ウクライナ人に武器を取らせてしまうという選択肢しかない状況に陥らせてしてしまった。元々コメディアンだったウクライナのゼレンスキー大統領に、国民を動員させるようなメッセージを送るよう仕向けさせてしまったのだ。

 「だってここは日本だもん。東ヨーロッパの戦争なんて関係ないじゃん」という声も聞こえてきそうだが、そんなはずはあるわけがない。例えば全世界に占める小麦輸出では、ロシアが約20%で1位、EU、カナダ、アメリカ、オーストラリアに次いでウクライナが約9%で6位だ。(出典:https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/monthly/attach/pdf/r3index-1.pdf)戦場となっているウクライナで生産が滞るのは、当然だし、ロシアが国際的な金融決済ネットワークのSWIFTから除外されれば、ロシア産の小麦を取り扱えなくなるのは当たり前だ。小麦輸入国の日本は、価格の高騰で大きな影響を受ける。同様にロシアは世界有数のエネルギー輸出国だ。これ以上説明は必要ないだろう。

 「そんなこと知らないよ」なんて言ってられない。関心がないのが最も良くない。日本は1974年のオイルショックで、高度経済成長が終わったという歴史がある。オイルショックの原因は第4次中東戦争だ。つまり戦争が起きれば大きな経済的影響が出るというのは学習済みだ。

▼軽視と無知

 では今回、ロシアに侵攻を思いとどまるよう日本を含む国際社会は本格的に働きかけたのか。交渉を続けたのか。侵攻直前まで私を含む多くの人は、侵攻は起きないと思っていた。私たちは軽く考えていた。

 私は恥ずかしながら、事ここに至るまで、北大西洋条約機構(NATO)に対するロシア軍の抵抗感の強さを知らなかった。侵攻開始までロシアが荒唐無稽な要求をしているように見えた。冷戦時の東側の軍事同盟ワルシャワ条約機構は、既にないが、NATOは存続した。さらにNATOは旧ワルシャワ条約機構加盟国や旧ソ連域にまで広がっている。これにロシアの恐怖心が一定あったのは間違いない。なんといってもNATOは世界最大の軍事同盟だ。その仮想敵国は旧ソ連だった。NATO加盟国や西側に分類される日本は、ロシアの危機感を理解し切れていなかった。

 もちろん、いくら恐怖心があったからといって、今回の侵攻が許されるはずはない。ほかの背景として、2年後に迫ったロシアの大統領選に向けてプーチン・ロシア大統領が成果を得たいという焦りもあった。政権維持への焦りというエゴなんて論外だ。

 かといって、許されないから断罪さえすればいい訳ではない。私たちにも責任があるのだから、その代償として私たちは経済的な不利益を甘んじて受けるべきだ。侵攻に対抗して経済制裁をしなければならない状態にしてしまった責任は、特に民主主義の国に生きる私たち一人一人が強く感じなくてはならない。

▼安易に緩和を求めるな

 特にウクライナ侵攻は、まだまだ終わる気配はない。経済制裁が長期に及べば、ロシアへの打撃はひるがえって日本経済にも及んでくるのは間違いない。その時に「もう良いだろう」とならないように予め自戒しておかなければならない。私たちはウクライナ侵攻を止めるために、経済的な犠牲を払うことにためらっては、これまで実施してきた制裁の意味がないだけではなく、ウクライナ人の命を危険にさらしてしまう。それこそ、自分が生活できなくなるほどの経済的な打撃は、日本では考えにくい。「その程度」の経済的打撃には、我慢し続けよう。ウクライナは経済的ではなく、人命への打撃が間近に迫っているのだから、日本政府が経済制裁を緩める方向に動かないよう、政府に声を上げなければならないし、少なくとも制裁を終えるよう求めてはならない。我慢できないと声を上げれば上げるほど、ウクライナ人の生命に危険が及ぶことをしっかりと覚えておこう。

 核の脅威も急速に高まっている。最も核兵器を持っているロシアが、核兵器による脅しを公然と発信したり、ウクライナ南部ザポロジエ原発へ攻撃したりと考えられない事が起きている。そこで広島と長崎で現場を投下された唯一の戦争被爆と、福島第1原発での事故の両方を経験した日本が、ロシアに思いとどまらせる役を担えないだろうか。幸い、NATOには加盟しておらず、これまで14年のクリミア併合時には厳しい態度を取らなかった。サハリンのガス田を巡る経済協力も今のところ維持したままだ。アメリカの核の傘にあり、日米同盟のある日本だが、可能性がない訳ではない。模索してもらい、1日も早く戦争を止めてほしい。

▼差別は絶対違う

 最後に、ロシア人を責めたり、差別したりといった風潮が日本でも広がっている。それは絶対に間違っている。ロシアという国家が間違っているからと言って、ロシア人を個人的に差別して良いとは一切ならない。

 全く相似形ではないことは承知で、私の経験を紹介する。何人かの被曝者に「アメリカ人が憎いか」と聞いた事がある。「アメリカという国は憎い」と答えた人はいるが「アメリカ人が憎い」と答えた人は1人もいなかった。ましてや「アメリカ人は日本から出て行け」や「アメリカ人、死ね」といった人は誰もいなかった。過去に目を覆いたくなるような想像を絶する惨劇を経験した被曝者に、その姿勢を是非学んでほしい。もちろんロシア人が今回の戦争に全員反対しているわけではない。だからといって差別的な発言をぶつけたり、迫害したりするような言動は、侵攻と同様とまでは言わないが、これまた許されない。


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