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友達が 1人もいない 突然に ~提案・悪口はルールを守って言いましょう~

 私には友達が1人もいない。そのせいで人との会話の経験が乏しいため、たまに人と話をすることがあっても話に花が咲くことはなくやんわりと会話が終わり枯れ果てたような沈黙を引き起こした責任を内心で擦り付け合ったすえお互いにちょっと嫌いになって終わるのがオチとなる。

 そのため職場で私は仕事以外でほとんど喋ることはなく他の従業員たちが私以外の従業員同士で喋っているのを見て最初は疎外感を味わったものの段々慣れて精神がムキムキとなり私の神経が競輪選手の太ももぐらいの太さになった結果全く気にならなくなった。

 ただ気にならなくても従業員たちの会話は自然と私の耳に入って来る。誤解しないで欲しいのだがこれは決して私が他人の会話を盗み聞きするほど野蛮の神髄を極めたわけでは決してなく、他の従業員たちが大阪出身だからなのか、おばさんだからなのか、そういった染色体の持ち主なのか理由は様々だが横隔膜の歯止めが聴いていないため声量がアホなのである。そのためこの職場で働くようになってから否が応でも聞きたくもない世間話が入って来るため、人生で初めて鼓膜がいらないと思った。

 おばさんたちの話は様々だがその世間話の内容の大半はもっぱら誰かの悪口であった。しかも会話のテーマが悪口になるとまるで悪口を生業にしているかの如く口調が噺家のように流暢になり今まで興味を示さなかった私が思わず耳を傾けてしまうほどに引き込まれるようなダイソンが羨む吸引力の話術を見せつけだすのだった。思わず聞き惚れていた私ではあったがこのままでは人間として大事な部分を失うと思い一度トイレに向かったのだがそこで聞こえてしまった・・・私の悪口を。

 私としたことがうかつだった・・・悪口とは話相手の存在と対象の人物がその場にいないという条件さえ満たせばいつでもすることができるという国民にモラルと引き換えに愛された娯楽だということをすっかり忘れていた。そして他の従業員たちが己の声のボリュームがトイレの壁をゆうに貫通するほどのとんでもない能力を持っていることに自分で気づいていない王道のジャンプの主人公のような要素を持ち合わせていることも忘れていた。

 突然の夜襲にも似た悪口に一瞬啞然とし瞼ごしに眼球に触れたときぐらい目の奥がチカチカしたがなんとか持ちこたえた。こんなものこれまでに味わった死屍累々のもはや亡骸同然の記憶たちに比べればなんともないと思いトイレから戻ったのだがある重要なことが気になってしまった。私が休みの日は何を言われているのだろうということだ。

 もちろんそれは知る由もないし夢の国の裏側ぐらい決して知ってはいけない部分だと百も承知だし被害妄想をこじらせていると自覚はあるのだが、本人が近くにいるにも関わらず悪口を言われるというむごたらしい加害現実を味わったばかりのため確実によりひどいことを言われているということが確定してしまったむごたらしい事実に発狂しそうになる。

 だってこんなにむごいことがあるだろうか?

 今の感情を例えるなら初期のころのワンピースで鷹の目のミホークの強さを目の当たりにした後に七武海の存在を聞かされたルフィが「あんな強い奴が7人もいんのか!」と目を輝かせていたのだがそのときのルフィのちょうど相反するような感情である。ようするに私はムゴ人間だ。

 そのときの言葉は未だに脳裏と鼓膜にこびりついて精神に支障はきたさないもののしっかりと残っているがこれを別のエネルギーに変えて生きていこうと思う。望むところだ。

 


 

 

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