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友達が 1人もいない メッセージ ~拝啓カメラマン松浦君へ~

 私には友達が1人もいない。元気にしてるかな松浦君。中学のときの同級生の立花だ。覚えてるかな?まあ覚えてるわけがないよね。君はクラスの中心的存在で私は常に教室の隅。お弁当で例えるなら君はみんなが大好きなハンバーグで私は唐揚げの下に敷き詰められた味のしない付録的スパゲッティといえるかな。

 君とは中学を卒業してから一回も会ってないね。私は最近noteっていう自分で文章を発信できる魅力的なコンテンツに出会ったことで、自分の恥辱の過去や思想なんかを白日の下にさらして公然猥褻的なスターの道を歩んでいる完全に人生を間違っているところだよ。君はどうしてる?他のみんなとも会えてないけど元気にしてるのかな?なぜか分からないけど私の元には同窓会の話が一度も来ないんだ。それより聞いてくれよ。最近ずっと痛かった口内炎が治ったんだ。最高にハッピーだよ!・・・さて手紙をわざわざ書いたのは君にどうしてもお礼を言いたかったからなんだ。修学旅行のことをね。

 ちなみに私のような人間にとっての修学旅行ってほぼ出家と同じって知ってた?知らないよね。君たちのような人間からすれば修学旅行は学校生活の中での一大イベントで青春の教科書の表紙になるようなものだもんね。でも友達が1人もいない人間が2泊3・・・いや2懲3役もの間友達でもなんでもない自分以外全員が楽しんでいるイベントに強制参加させられる気持ちを考えたことがあるかい?誰にも理解されないけど修学旅行の前日は夢の中で黄泉の国の彼岸花が咲き誇るんだよ。

 実際に修学旅行の期間中はずっとノンフィクションな顔をするはめになったよ。なんだか時間が露頭に迷ったのかと思うほどゆっくりに感じるし、気の休まる場所がないから現実逃避にもそれなりの技術を要するからクタクタになったんだ。疲れてくるとどんどんネガティブが加速して自分が本当にこの大地を踏みしめていてもいいのかっていう気になってくるんだ。そんなとき君は話しかけてくれたね。「写真を撮ろう」って

 後でちらっと聞いたけど君は修学旅行中に同級生全員と写真を撮るっていう、触角が千切れた虫ぐらいバタバタしているこっちが恥ずかしくなるほど眩しすぎる青春を謳歌していたね。それに君が写真を求めるとそんなに話したことがないはずの同級生もすんなりOKしていたね。私はすでにそんなものは分娩台に置き去って来たけど君のその明るさはすごい才能だと思うよ。だから私もOKした。そしてその写真が私が修学旅行中に撮った唯一の写真だったんだ。

 だけど一つだけずっと気になっていたことがあったんだ。君が私に写真を撮ろうって言ってくる前にクラスメイト全員で鍾乳洞の中を見学したよね。鍾乳洞の中は自然が作り出した武骨なアート作品を見てるみたいで私は案外楽しめたんだけどやっぱり暑かったし、なにより暗かったよね。中には暗いのが怖くて泣きだしちゃう子もいたぐらいだ。そんな中でかれこれ30分くらいいたのかな。外に出てきたときは今まで暗いところにいた分太陽がいつも以上に眩しくてとても目なんて開けられなかったのを覚えてるよ。そのタイミングだったよね。君が私に「写真を撮ろう」って言ったのは。


もっと後でもよくなかった?


 出来上がった写真を見てびっくりしたよ。私のただでさえ細い目が眩しさのせいでスマホのSIMカードの挿入口ぐらい細くなってるんだから。もう一度言うけどそれが唯一の写真だったんだよ。

 ただ結果はあれだっけど君には感謝してる。その写真がなければ私の修学旅行の思い出は押し売り極まりないストリートミュージシャンに買わされて帰ったときにはバキバキになっていた自作のCDだけだったんだ。おかげで物理的な思い出を確保することができたよ。君がこれからどんな人生を送るか知らないけど一つだけアドバイスを送るよ。タイミングは大事だぞ。

 

 


 

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