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映画『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』奥山佳恵さん(俳優、タレント)トークイベントレポート2023/12/3(日)新宿K’s cinema

俳優、タレントとしてご活躍されている奥山佳恵さんは、2013年に次男の美良生くんがダウン症であることを公表されていらっしゃいます。子育てをするなかでの実体験も交えて、奥山さんにお話を伺いました。

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みなさん、「あ、ここで終わるんだ!?」と思いませんでしたか?ハラハラしながら観ていて、「じゃあケース・モンマ君の一人暮らしはどうなってしまうのだろう⁉」と、思いましたね。見終わった直後、率直に「続編が見たい」と思いました。8年もの間、監督が家族に密着してきたということですから、さぞ編集が大変だっただろうなと思います。どうなるんでしょうね。きっと今後も、彼の姿を見られるんだろうなと思っています。

その人を知ることで「障がい」は見えなくなる

ケース・モンマさんの印象は、まず本当によくお話しになるな、と(笑)。でもそれが自閉症の方の特性なのかなとも思います。「障がいのある方に一人暮らしはできるのだろうか」という本作のテーマに関心があり「どうなるのかな」と思いながら観ていました。でも、その人自身について知ると、「障がい」って見えなくなりますよね。私たちももう、ケースさんのことを知っているじゃないですか。ケースさんも然りですが、最初私たちは「障がいのある方、自閉症のある方ってどんな暮らしなのかな」「果たして自立できるのかな」と思って見るわけですが、ケースさんその人を知ると、彼の個性がすごく可愛らしいし、「あ、こういう人なのね」とわかると、「障がい」って見えなくなる、そう思いました。

私は障がいのある子どもを育てている身ですが、障がいが重度であればあるほど、外に出て誰かとつながって、知ってもらって、その人の「障がい」が見えなくなるといいな、と思っています。私たちだってもう、ケースさんの「友人」みたいな感じですよね、彼のことを知ってしまえば。


 「できること」を奪ってはいけない

ケースさんの両親にとても深い愛がありましたよね。特にお母様。私はケースさんのお母さんの方がケースさんを離さない、という印象を受けました。お母さんはケースさんのことが心配だし愛しているから、ずっとそばに置いておきたがっていると私はお見受けしました。私自身は、早く子どもに自立してほしいと思っているタイプなんです。私の人生もあるので。それに、息子のできることを奪ってはいけないとも思っています。

次男がダウン症だとわかったとき、私自身は、できることは自分でやって、できないこともあるかもしれないけど、たくさんの人に助けてもらいながら、グループホーム等のフォローしてくれる施設で彼は育っていくんだろうと思っていました。ですが、やっぱり親って人それぞれ考えが違います。私の夫はとても心配性で、まさにケースさんのお母さんみたいなタイプなんです。次男に障がいがあるとわかった瞬間に、「山の奥に引っ越して、息子と蕎麦を打ちながら暮らす」と言って。蕎麦を打ったこともないのに(笑)。「え、そんな、山里に行ってしまうの⁉ 私はどうなるの!?」と思ったんですが(笑)。でもそれぐらい、ダウン症や障がいのある方は世間とは一緒には暮らせないというイメージがあり、だから夫は「ひっそりと、誰一人いないところで暮らす」なんてことを言ったんだと思います。ただ私は、「いやいや。一人でも多くの人と関わって、次男の味方をつけて、次男を知ってもらって地域で暮らしていかないとダメだよ」というタイプだったんです。次男は、小学校は、通常級に行っていますが、「出来の良いダウン症」というわけではないです。色々なことができません。でも、それは「彼を知ってもらうキャンペーン」の一環だと。私と夫は考え方が真逆なんですよ。

夫婦での考え方の違い

折り合いをつけながら、考えの異なる夫を説得していきました。細かい話ですが、息子の登下校で夫は朝の登校を担当しているんです。夫は朝しか次男と一緒にいる時間がないので。私は下校担当です。私は早々に、「次男は一人で帰って来られる」と思い、作戦を立てました。最初は教室まで迎えに行っていましたが、だんだんと私というコマを動かしていったんです。次は学校の入り口まで、次は通学路のところまで、というふうに。最終的に次男は自宅まで帰って来られるようになりました。なのでそれを動画に撮って、夫と学校の先生に見せて「彼は自分で帰れる」と説得しました。でも登校担当の夫は今でも次男と一緒に学校に行っています。「帰って来られるんだから登校も一人でできる」と私は言うのですが、夫は「いやいやそこは」と言う。ケースさんのお母さんとお父さんも考え方が全然違いますよね。次男も「僕はもう一人で学校に行ける」とは言わないです。彼も甘えられるところは甘えたいので。困ったことがあったら、何でも言うことを聞いてくれる夫のところに行くし、うまく使いわけているんです。これからどうなるかはわかりませんが、私自身は次男ができることは次男の力を信じて、次男を「知ってもらうキャンペーン」を続けていきたいと思っています。

次男は今12歳。小学6年生になりました。これから先、まずは中学の就学先の選択、それから就職先など次男が輝ける居場所を模索していくことになりますが、考え方が異なる私と夫の、両方の世界で彼は大きくなっているので、間口は広がっているのかなと思います。


「先が見えない」からこそ「今」を大切に生きる

障がいのある子を育てていて、私自身は、あまり先が見えていないんですよね。この子がどんなことができるようになっていくいのか、全くわからないので。それは生まれた当初にまず不安に思ったことです。ですが、先が見えないからこそ、不安に思うのではなく、今目の前にあることやものを大切にして、今日をしっかり生きていこうというようになりました。もちろん先々のことを見据えてということは必要だと思いますが、あまりにもわからないので、目の前の今日を楽しむことで、輝かしい明日が来るだろうと思って生きています。先生方にも、「18歳になったら」とか、「20歳になったらのことを見据えて」とは言われていますが、「すみません、わかりません」と。率直なことをお話させていただいています。

次男は障がいがありますが、すごく良い子なんです。21歳の長男は、未だに洗濯物をカゴに入れられないし、靴も揃えられないですが、次男は帰ってきたらすぐに明日の用意をして、みずから宿題をやって、「あとは自由時間でいいですか?」と聞いてくれます。ですから、障がいあるなしに関わらず、「人による」と思いました。できる子はやるし、やらない子はやらない。私は長男も次男も一律に育てているつもりです。これは「ダウン症あるある」かもしれませんが、ルーティーンをひとつ決めるとそれを守るという傾向はあるみたいですね。靴はそろえるものだよ、プリントは出すんだよ、と決めるとちゃんとそれをやってくれるので、私としては大学生のお兄ちゃんよりも育てやすかったです。

私たちだって誰かの手を借りる~<優しさの貯金>を積み重ねること

障がいのある子を12年間育てていて思うのは、実は、私たちもゆっくりと色々なことができなくなっていきますよね。ケースさんのお母さんが認知症の傾向があるというところでこの作品は終わっていましたが、私たちだって誰かの手を借りてきっとこの先も生きていくと思うと、「障がいのある方はどうやって自立していくのか」というだけではなくて、実は私たちもゆっくりと「少数派」になっていくという現実があります。一人でずっと生きていけるかはわからないので、今私たちが色々なことをできるうちに、障がいのある方が暮らしやすい生き方になるよう、手助けをする。そのことで、その「誰かのためにしたこと」が結局は自分にかえってくるのかなと思います。<優しさの貯金>だと思うんですよね。障がいのある方は特別、と見るのではなくて、「いずれ行く我が道」と考えると、そこでまた「障がい」というものが見えなくなるのではないかな、と。「私たちだって例外ではないよ」と思いながら、障がいのある方と私たちとを重ねて、これからも見ていきたいなと思っています。

<母の愛>の形ってさまざまですよね。私は「早く自立してほしいな、彼の人生を歩んで行ってほしいな」というふうに<母の愛>をとらせてもらっています。

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奥山佳恵さんのブログ、連載等を下記よりお読みいただけます。

 ★東京新聞の子育てサイト「東京すくすく」連載 『奥山佳恵さんの子育て日記』
 ★ブログ:奥山佳恵のてきとう絵日記
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映画『マイ・ファミリー~自閉症の僕のひとり立ち』全国好評上映中


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