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私は心を開けない。 (Ver.2)

このエッセイは、【写真展】 -あの頃の君へ、これからの君へ-で展示される写真に込めた内容を、心の整理のために書いたものです。写真展では100〜120字ぐらいのキャプションで記載されています。ちなみに一般社団法人 学士会の会誌 "NU7 (2021年3月号)" に記載された原稿を、加筆修正したものです。以下、本文↓

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 あなたは心を開かない。

 
 彼女は私にそう言った。
 分かってはいても、できない事もある。

 この言葉を過去に何度か受けた事がある。

 小さい頃「兄ちゃんはあまり弱音を吐かないけど、お前はすぐ口に出る」と言われた。比較されて悔しかったが、要領の良い兄の前に、繊細で不器用な私に抗う力はなかった。出した結論は”余計な事は言わない”。親に話す内容は、事前に仕分けていた。

 田舎の学校でいじめられていた。親が大学教員で、繊細で不器用な性格で、かつお利口な優しい子供はカモでしかない。誰かが仮面を被って、孤独な心を開かせようと企み、まんまとそれに乗れば、梯子を外されて崖から落ちるだけだろう。襲ってくる言葉の矢を避けるため、奥深くに作り上げた要塞へ逃げ込んだ。

 高校の時、県内有数の進学校にいた私は、深海の海底に沈んでいた。それでも息を吸おうと、休み時間も机で抗っていた。同級生は私の前で、「本当に無駄な努力が好きだな」と鼻で笑っていた。就活の佳境を迎えていた大学院生時代のある時、とある先生に「基礎学力が無い、違う大学から来た院生が、なぜ北大生と同じレベルの就活をするのか?」と言われた。

 どちらも言われる所以は無いが、なぜか飛んでくる言葉の矢を避けきれなかった。矢の雨が止むまで、笑いながら自信と口数を減らした。

 社会人になって気づいたが、生きていくために必要な能力は演技力で、その習得は極めて順調だった。しかし、それはどこか虚無が漂う。親友も好きだった人も、親しくしてくれた人も「あなたは心を開かない」と言った。残酷に好意を台無しにした。後で気づいてズキっと鈍く痛んだ事も数知れない。その度に、自分の優柔不断を呪いながら、しかし誰にも何も言わずに仕事に戻った。

 もう、自信を太陽の下に晒しても良いだろう。だから、せめて自分が切り撮る世界は美しくありたいと思う。





最初の原稿(Ver.1) はこちらです。
(一般社団法人 学士会の会誌 "NU7 (2021年3月号)" を加筆修正 )


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