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『炎三態』 / 寺田鉄平インタビュー

日本屈指の窯業地である瀬戸。その中でも古くから茶陶に携わる窯元が多く並ぶ赤津地域。美山陶房の五代目として、土地の歴史と伝統に根差しながら革新を試みる寺田鉄平が切り拓く更なる新境地にぜひご注目ください。

ーまずは今回の織部のシリーズの見どころは?

 いつものことながら薪窯の窯変を狙った器をメインで出展しておりますけれども、特に白白庵好みしそうな、ちょっと窯変がよく出てる感じのものを取り揃えてみました。

寺田鉄平『灰被窯変織部茶盌』

ーDMの作品「灰被窯変織部茶盌」は白白庵向けの秘蔵の作品と仰っていましたね。

 あの灰被の茶盌は2年ほど前に焼けたものです。これはもう狙ってもできないですね。全然出ないです。窯変に関してはある程度「こんな風に」と狙ってやってはいますけれども、どうしても完璧には行かないんですね。ある程度までは予測できるんです。けれど灰の黒い表情の出た部分はなぜこうなったのかよく分からないですね。
 窯変が青白く出たものは、織部の釉薬の上にふわっと灰がかかって、ゆっくり冷めると灰の珪酸分で色が出やすいな、という風に捉えています。おそらくですが、灰がもう少し多くかかって、先に織部の釉薬が溶けているのに上の灰が溶けずに残る、そして表面に黒い表情が出たのではないか。それがあの灰被織部じゃないかな、という風に考えています。

ー出展作の中で赤い織部も印象的ですね。

 このところ窯変での赤が出にくくてですね。この間はそれをちょっと狙って焼いてみました。一時はよく赤く窯変していたんですけど、最近は赤を出すつもりで頑張らないとなかなか赤くならないですね。

 やっぱり薪窯ならではの窯変というか、全体が同じにならずに、火の当たり方にムラがあることによって赤いところとそうでないところのグラデーションができたりします。窯の中の炎の様子が一つの茶碗の中に現れているような景色に、僕も凄く魅力を感じますね。

寺田鉄平『窯変織部茶盌』

ー割合としては「良い窯変」はどれくらい取れるんでしょうか?

 うーん・・・難しいですね。ほとんど取れない時もあれば全部良い、という場合もあります。焼く点数はまちまちですので、向付とかと一緒に焼くと窯変が狙える場所も限られてくる。茶碗ばかり20個くらい同時に焼くときもあります。この薪窯で既に七十回以上焼いてるんですけど、たった一回だけですね。全部よかった、というのは。どちらかといえば良い窯変が取れないことの方が多いので。
 ただ僕の場合ですと、織部は焼き直しをすることもあるんです。先ほどお話した灰被窯変なんかも二回焼いてるんですね。織部釉を上からもう一回かけて焼いたりとか、変な窯変になってくるやつは何度も焼き直してるうちに出てきたものもありますね。薪窯でダメな時にガス窯の一番温度が低いところで焼き直したりもしてます。

 仮に最初の焼成で良くなくても、面白い結果が来るまで何回も焼き直しますので歩留まりで言えば悪くはないと思っているんです。ただ回数は焼かなきゃいけないので、打率にするとそんなに高くはないですね笑

 形と窯変の組み合わせも、ある程度考えてイメージはしていますけど、たくさん焼いた中から面白いものを拾い上げるような仕事をしているので、色々やって、色々組み合わせていけたら、というところです。今のところは。


寺田鉄平『瀬戸黒赭彩ぐい吞』


ー瀬戸黒赭彩ぐい吞についてお伺いします。

 前回の白白庵個展の時に1点だけ出展したのが最初でした。僕の中では鳴海織部に近いアプローチなんですね。鳴海織部というのは赤土を組み合わせることで、織部に赤やオレンジの部分が生まれます。そして瀬戸黒とか黒織部にも赤やオレンジを入れてみたい、とずっと思っていたんです。僕は瀬戸黒を焼くときに釉薬をかけ残してスッと縞を入れるやり方をよくしますけれども、そこに赤を入れたらビビッドな変化にならないかな、と思ったのがきっかけです。元々、縞のところが釉薬の影響を受けて赤っぽく出ることがあったのでそれをもっと強調したいというイメージもありました。
 そんな時に赤土を意味する「赭」という文字を見つけまして。それで赤土をイメージして「赭彩」という名前をつけています。赤土彩という意味ですね。実際には赤い下絵なんですけど、イメージとしては鳴海織部の赤土なんです。


寺田鉄平『炭化焼締新月壺』



ー「新月壺」これは今まで取り組まれてきた炭化焼締シリーズの最新作ですね。

 李朝白磁の有名な「満月壺」というのがありますね。フォルムが美しくていいな、とずっと思ってたんですけれども、僕の表現の中にはなかなか取り入れにくくて。何か自分なりにできないかなと思った時に、黒の炭化の壺であれを作ったら満月に対しての新月になるんじゃないかな、と思いついたんです。炭化の黒い壺はフォルムと土の表情を見せることが僕の中では大事なポイントになっているんですけど、その意味でフォルムの美しさを魅せる李朝白磁の壺はちょうど合致しますし、カウンターと言いますか、対比にもなるだろう、と。それで真っ黒に焼いてみました。そうすると白く残った部分がちょうど月に雲がかかったようになって、まさに新月が出来上がったんです。

ーでは最後に。今回の三人展の抱負はいかがでしょうか?

 やはり作家としてもそれぞれに個性的ですけど、同時に産地の特色があるなぁ、と思っています。お二方とも産地の特色がある焼き物で、かつ現代的なアプローチをされつつ、自分なりの土地のアイデンティティを背負っていらっしゃる。僕も僕なりの瀬戸をここで表現できたら良いなぁと思ってます。谷本先生は世代も上で胸を借りるつもりで、もちろんガチンコでぶつかりますけれども。とにかく会場でそれぞれの作品がどう見えるのかが楽しみですね。

寺田鉄平『灰被窯変織部飯碗』

寺田 鉄平 TERADA Teppei
(美山陶房|瀬戸)BIZAN ceramic factory / Seto
 1975 瀬戸市赤津の窯元に生まれる
 1998 東京造形大学彫刻科 卒業
 1998 アメリカ・オレゴン大学AEI 留学
 1999 美山陶房 入所、現在に至る。
 愛知県瀬戸市の「美山陶房」の五代目として制作活動中。
  teppeiterada_bizanpottery@instagram

~ 火 土 花 茶 酒 これぞ春の五大元素 ~

春爛漫・百花繚乱茶会 2024 『炎三態』

会期:3月30日(土)~4月7日(日) *木曜定休
時間:午前11時~午後7時
会場:白白庵、オンラインショップ内特設ページ


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