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「しらふ」を好む若者——世界的に起こっているアルコール離れ。求められる「酒」感覚とは?

by パケトラご意見番 北山晃一

はじめに

ビールを販売している4社の発表によると、2019年のビール系飲料の販売実績は計3億8458万ケース。前年比で1.4%減となり、15年連続で減少となっています。ビールをはじめ日本の酒類市場は長きに渡り不振縮小の傾向が続いています。10月には酒税改正も控え、各社の思惑も含めた方針が伺えます。

一方で、ノンアルコール飲料が成長しつつあり、一見その対極にあるストロング系のRTD(レディ・トゥ・ドリンク=サワー等のカクテル缶飲料)が伸びて市場で存在感を増すという面白い現象が起こっています。

酒類低迷の原因を若者の酒離れとする論説は多くあり、それを示すデータも目にします。確かに飲酒量は減っているのでしょう。その若者の酒離れの理由についても各所で語られています。

主たる原因としては経済的理由で、非正規雇用社会の進展による若い世代の低所得層の増大というもの。そして働く世代人口の減少が挙げられ、酒類への支出が減少しているとしています。あわせて、勤務先などでの付き合いやノミュニケーションが激減して、居酒屋などに行かなくなっている——と言うところが挙げられるでしょうか。「忘年会スルー」と言った流行語も象徴的です。

全世界的に起こっている若者のお酒離れ

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Photo:Image by silviarita from Pixabay

実は筆者は、この第一の若者の経済的理由については多少あるにせよ、それほど当てはまらないのではないかと考えています。

筆者の知る学生達はRTDを飲みますが、それらの商品は彼らのよく買うソフトドリンクとそれほど価格は変わらないと感じていて、どちらかというとRTDより美味しいソフトドリンクの方を多く飲んでいると感じます。価格というより味の嗜好性で選ばれる機会が減っていると思われます。ヒアリングすると、苦いビール系飲料は好まれない傾向にあると言えます。

もうひとつの大きな原因である「ノミュニケーション」について、勤め先の上司や同僚とのコミュニケーションの変容が言われています。昔はスマホもSNSもなく、会社や職場で毎日会う人が仲間であり、その人達とのコミュニケーションが大きなウエイトを占めていたと考えられます。それは今やSNSで親しい人と常に繋がっている状態にあるため、目の前の人達と流れで飲みに行くという形は大きく減退しているのでしょう。

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Photo:Image by Анастасия Гепп from Pixabay

酒の主たる特徴であり、価値である“酔う”ことについてはどうなのでしょうか。酒を飲める人(アルコールに弱くない人)の比率は恐らく変わらないだろうと想像します。そうした中、若い世代においてはお酒を習慣的に飲む人が減ってきています。

厚生労働省の調査によると、飲酒習慣のある「20~29歳」の男性は、わずか10.9%しかいません。男性で最も多いのは「50~59歳」で46.1%。以下、年齢が下がるに乗じて一貫して減り続けています(厚生労働省「国民健康・栄養調査」2016年)。

飲めない訳ではないのに飲まない。ひとつは、食生活や嗜好の変化で美味しいものは多様化し、相対的に酒を美味しいと感じる率も下がってきたからでしょう。

また、酒を飲み始めても、習慣的に飲むようになる前に酒から離れてしまう傾向があります。私の世代がそうであったように、サークルでも職場でも仲間や上司と一緒に酒を飲む機会が多くあり、徐々に習慣づいてきました。今はその習慣づくような機会、場がないのが現状です。酒がなくても全く問題ない状況なのです。生活における酒のポジションが下がっているということでしょうか。

日経電子版の記事で、トレンド評論家・牛窪恵さんの若者の話が紹介されています。引用しますと、恋にも消費にも消極的な若者「草食系(男子)」(主に今の30代)、その下の「ゆとり世代」(主に今の20代)の彼らに取材で「ビールって、飲んで何になるんですか?」と言われたことがある。行動する前に「終電がなくなる」「翌日の仕事に差し支える」と結果を先に考える。「それなら初めから飲まない」。自己責任に敏感で、賢くリスクヘッジするのが特徴だと語られています。

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Photo:Image by Stefano Ferrario from Pixabay

ここに至るまでの時代に、社会が若者に刷り込んできたことも原因に挙げられます。泥酔などの酒による失態を嫌うこと・・・過去のジャニーズアイドルの泥酔事件報道などもそうです。一気飲みなどの飲酒事故報道、大学の学園祭行事などの場での禁酒、飲酒運転による社会的地位喪失、酒は体に良くないという健康志向も大きく影を落としています。

今の若者は「しらふ」を好む傾向が強まっているのではないでしょうか。

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Photo:Image by Alexas_Fotos from Pixabay

イギリス、アメリカではそうした流れが先行しています。ミレニアル世代のアルコール摂取量が減少傾向にあると報じられており、若者のアルコール離れは全世界的なトレンドになっています。

ネットメディアFastGrow(日本)で海外の若者の酒離れの事情について、以下のことが紹介されています。

英国統計局(ONS)の調査によると、2016年にアルコール飲料を飲んだと回答した人は16-24歳では24%で他の年齢層に比べてアルコールを摂取する人の割合が最も低い(45-64歳では46.2%)ことが報告されています。

ニールセンのオーストラリア人対象の調査(2016年4月-2017年3月)でも、前月にアルコールを摂取した人の割合として、18-34歳のミレニアル世代は53%となり、それ以上の世代を大きく下回っている(35-54歳(X世代)=65%、55歳以上(ベビーブーマー)=72%)と報告されていました。

そして世界規模でのアルコールの抑制基調も拍車をかけます。WHO(世界保健機関)が2010年に「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を採択し、欧米を中心に様々な規制を導入する国や地域が広がっています。2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」には、「アルコールの有害な摂取」を防止することが盛り込まれているわけです。

「しらふ」を好む若者とノンアルコール市場の成長

一方で、英調査会社ユーロモニターによると、世界のノンアルコールビールの市場規模は2018年に約126億ドルあり、2013年比で1.5倍に拡大しているということです。

また蒸留酒世界最大手の英ディアジオ社は、ノンアルコールカクテル向けの蒸留液の企業を傘下に入れ市場参入しているという状況です。イギリスのノンアルコール飲料商品の例として、ロンドンのSeedlipが出す植物製ノンアルコール飲料「Garden108」、同じくロンドンのShrubが出す植物製ノンアルコール飲料「/shrb」などが情報として見ることができます。

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Photo:Seedlip「Garden108」(Seedlip公式サイトより)

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Photo:Shrub「/shrb」(Sturb公式サイトより)

欧米を中心にノンアルコール専用のバーも増えつつあります。伊藤里香ライターのレポート「ニューヨークのノンアルコールバー「ゲッタウェイ」が生み出す、新しいソーシャルの場」には、そんなノンアルコールバーが注目されているニューヨークの現状が報告されています。

NIKKEI STYLEの記事によれば、ロンドンやニューヨークでは「モクテル」という新世代カクテルを楽しむ人が増えているといいます。「モック(疑似)」と「カクテル」を組み合わせた造語で、欧米ではここ数年でモクテル専門バーや、モクテルを充実させる店が増えているということです。

アルコール依存者・中毒者へ警鐘、公共の場での飲酒禁止などモラル的な背景、そして健康志向の高まり、さらには泥酔による失態などを避けるため、「Sober(しらふ)」を好む傾向が強まっているとの報告が。そのノンアルコールの波が今、日本にも徐々に押し寄せてきています。

ノンアルコールのおしゃれなドリンクが登場したことで、アルコールを飲む人達の中でも「浮かずに」雰囲気を楽しむことができれば、様相は変わります。日本でもそうしたバーなどが増え始めてきています。とあるバーのオーナーは「お酒を飲む人も飲まない人も、同じ空間で楽しめる店をつくりたかった」と語るように、酒離れ傾向にある若者世代との「ノミュニケーション」が期待されます。

ノンアルコール飲料の広がり方の中に「お酒の未来」のヒントも

国内のノンアルコールビール出荷量は、2018年までの10年間でおよそ4倍に拡大しました。まだまだ日本では、酒を飲む人が買っていると思われるノンアルコール飲料ですが、キリンの「お腹まわりの脂肪を減らす」機能性表示食品のノンアルコールビール「カラダフリー」や、サントリーのノンアルコールビール「オールフリー」ブランドの内臓脂肪を減らす効果がある「からだを想うオールフリー」など、健康機能を売りとした商品が次々ヒットしており、新たな飲む意味(目的)が見えてきました。

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Photo:キリン「カラダFREE」

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Photo:サントリー「からだを想うALL-FREE」

先の見えないアルコール飲料ですが、若い世代に小さいながら新たな兆候も見受けられます。

ボジョレーヌーボーは20代女性に飲みたい支持が高いというデータがあったり、注目された銘柄「十四代」など若手の醸造家の造るこだわり日本酒を若い人が飲みだしているという話や、クラフトビールの店に若い人が多いということなどが報告されています。

若者にとって製品としての酒の価値が低下した今、結局酒の味(モノ)ではなく、飲む場面、飲む意味(コト)が重要になっているということです。いずれかのビール会社が表明しているように、ビールを売るのではなく、飲むことの価値を提供することが大事で、従来概念の居酒屋が苦戦し遠ざかっている今、そうした場面をどう作るかが大事でしょう。

先行している欧米のノンアルコール飲料の商品作り、飲む店、飲む場面作りの中に、現代の若者の求める“酒”感覚が見えるように思えます。

▼参考
ビール市場、15年連続で前年割れ 「第三」初の4割 (日経電子版)
生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合 平成29年国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)
クラブパーティーさえ酒は不要。ミレニアル世代でノンアルコール飲料大ヒットの背景とは?(FastGrow)
飲めない人も「もう一杯」 ノンアルに酔える本格バー (グルメクラブ NikkeiStyle)

ビジネスのヒントに。「パケトラ」

by パケトラご意見番 北山晃一


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