アイルランドの異教的伝承「エウェルへの求婚」(アルスター物語群)②:¶11~17

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「エウェルへの求婚」(Tochmarc Emire) をここに掲載していきたいと思います。

【前回】


今回は、クー・フリンがエウェルのいる丘に向かい、クー・フリンの色彩豊かな描写が行われ、実際に彼女に話しかけます。会話は長いので、途中で切れており、次回に続きます。


クー・フリンとエウェルの気取った会話

¶11
その日クー・フリンがエウェルへ話しかけに、そしてその美しい姿を彼女に見せに行ったのは、集会の車座の列であった。乙女たちがそこに、集会の丘砦にいたこと、その結果彼女たちは何かが自分たちに向かってくるのを聞いた——馬たちの嘆き、戦車の走行音、ひもの鳴る音、車輪の軋み、戦士達の競い合い、武器の金属音。「あなたたちの一人、見てきなさい。誰が私たちの方に向ってきているのかを」とエウェルは言った。

¶12
「あそこに見えますは」——とフォルガルの娘フィアルは言った——「二頭の馬です。同じ大きさ、同じ美しさ、同じ速さ、同じ跳躍力、とがった耳、頭は高く、精力的で、体が大きく、耳がとがっていて、鼻面は細く、たてがみはふさふさで、額が広く、体には斑があり、しなやかで、背が広く、狂暴で、巻き毛になったたてがみは長く、しっぽの毛も長い、二頭の馬。灰色の馬は、臀部が大きく、狂猛で、速く、活動的で、力強く、勇ましく跳ね、たてがみは長く、体は大きく、たゆまず、荒々しい音を立て、たてがみは弓なりで、頭が高く、胸が広く——力強いひづめが芝土を四つの蹄の下で燃やし、素早い鳥の群れを追い越し、道路に沿って険しい道を叩き、蒸気吐く馬が道を弾み、その馬銜の口から燃え出す激しい火の閃光——その馬は戦車の右の轅(ながえ)に繋がれています。

¶13
もう一頭の暗い色の馬は、固い頭で、丸く、脚は細く、蹄は大きく、素早く、たてがみには大きな房があり、足が速く、たてがみがふさふさとし、背が広く、尻が固く、大きく、力に満ち、怒り狂い、力強く歩み、飛び跳ね、たてがみが長く、巻き毛になり、尻尾が長く、尻尾のけが固く房になり、額が広く、素早い馬です。彼はその地で戦いを追って戦車を乗り回す。馬は芝地を素早く進み、破壊をまき散らし、谷底の平原を風のように駆けます。その戦車の進む道に凹凸はありません、この赤き道行きの恐怖の地では。

¶14
象嵌されたあか抜けた戦車。輝く青銅製の二つの車輪。質の良い真鍮製の飾り輪がついた白銀の轅。とても高い、キーキーと鳴る車体、それは歪んだしっかりした錫でできています。硬い金でできた彫り込みのあるくびき。硬い黄色の房のついた二本の手綱。尖って真っ直ぐな硬い車軸。

¶15
戦車に立つ、血に濡れた暗い男、エーリゥの男たちの中で最も美しい男。体に五重に巻き付けた、質の良い紅い外套。その白い胸の上には、襟のところに留められ、胸に勢いよくぶつかっている、象嵌された金のブローチ。大きく輝く赤金の縫い取りを持つ白フードつきの亜麻の布。その二つの目のそれぞれの表面にある竜石のような赤い七つの宝石。青白い二つの頬には赤いえくぼ。彼は炎の閃光と湯気を放つ。顔には愛の光が輝く。彼の頭にある宝石が光を放つように私には思えます。二つの眉はそれぞれ暗い瓦礫の側面と同じくらい暗いです。両の腿の上の、しっかり留められた黄金の柄を持つ剣。戦車の車体に据え付けられた留め具には、手にぴったり収まる赤紫色の投げ槍。それは禍々しく鋭い穂先が、赤く塗られた木製の柄の先端に付けられています。両肩には、金の動物紋様と銀の中央突起を持つ、紫色の盾。彼は勇ましい〈英雄の鮭跳び〉を繰り出します、素早い技の数多を、あの一台の戦車に乗る戦士が持っています。

¶16
彼の前に、その戦車に立つ御者、細く背中が長く、斑の人。巻き毛の赤い髪。額には、髪が顔にかからないようにしている、金と銀の合金でできた髪輪。その髪の毛を留めている、首の後ろにある外套の金の留め具。五分袖がある羽付きのフード。手には赤金製の突き棒」

¶17
そのような様子でクー・フリンはその娘たちがいる場所へたどり着き、彼女らに挨拶した。エウェルはその美しい顔を昂然と上げ、クー・フリンを認め、故にそこでこう言った。「南からあなた達の方へ我々は馬に乗ります」、すなわち、神があなた方の前途を平らかにせんことを、と。「彼女に欠けたるの全きことを」と彼は言った。すなわち、あなた方がいかなる不名誉にも傷つかぬことを、と。
「その方はどこから来たのでしょう」と彼女は言った。「インチヂゥ・エヴナからです」と彼は言った、すなわち、エウィンのマハ〔訳注:アルスターの中心地、エウィン・ウァハ〕から、と。
「あなた方はどこで夜を過ごされますか?」と彼女は言った。「我々が夜を過ごすのは」と彼は言った、「テスラの平原にいる牛たちを世話する男たちの家です」、すなわちテスラの平原にいる魚を釣る男たちの家のことである。
「そこであなた方は何をお食べになりますか?」と彼女は言った。「そこで我々のために戦車が焼かれます」と彼は言った、すなわち、(戦車が)料理されるのである。
「あなたはどの道から来られたのですか?」と彼女は言った。「二つの深い森の間の道を」(と彼は言った)。
「それではあなたはどこへ行かれるのですか?」と彼女は言った。「言うに難くはありません」と彼は言った、「〈海の暗闇〉から、〈デアの男たちの大いなる神秘〉を指して、〈エウィン・ウァハの二頭の馬の泡〉を指して、〈モーリーガンの野〉を指して、〈大きな豚の背〉を指して、〈大きな牛の谷〉を指して、神と預言者の間を通り、〈フェデルムの髄〉の上を行き、王とその妻の間を通り、〈デアの馬の洗い〉の上を行き、女神アヌの王とその従者の間を通り、〈世界の四隅の豊穣の食料庫〉を通り、〈大いなる罪〉の上を行き、〈大いなる宴会の残骸〉の上を行き、〈大桶〉と〈小桶〉の間を通り、フォウォーレ族の王テスラの甥の娘たちへ、ルグロフタ・ロガへ」、すなわち戦場へ。

【続く】

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