アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑦(¶70~¶83)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、ついにこの話の主人公とも言えるルグ神が登場し、万芸に通じた「サウィルダーナッハ」としての特徴を示しました。

今回はルグがさらなる能力を示して王となり、そして神族トゥアサ・デー・ダナンが作戦会議を行います。

¶70
それから彼はそのことをヌァザに語った。「その者を宮廷に来させよ」とヌァザは言った、「これまでこの城にそのような男が来たことはなかった」

¶71
門番はルグを通し、そしてルグは城へ入り、賢者の席に座った。なぜならば、彼は全ての専門家だったからだ*1。

¶72
すると戦士神オグマが大きな敷石を投げつけた。それは運ぶのに20の4倍の数の軛〔につながれた牛〕が必要な重さであり、建物を通り抜け、外からタラに向かい合う形になった。それはルグに対する挑戦であった。ルグは敷石を投げ返し、それは王館の真ん中に置かれた。そしてその外に放り出された破片を王館の側壁に投げると、それらはぴったり元通りになった。

¶73
「竪琴の演奏を」と人びとは言った。するとその戦士〔=ルグ〕は人びとと王に、一夜目は眠りを誘う旋律を奏でた。彼らは翌日の同じ時間まで眠り続けた。次には悲しみを誘う旋律を奏で、彼らは悲しくなり、ふさぎ込んだ。今度は陽気な旋律を奏で、彼らは喜び、楽しくなった*2。


¶74
それからヌァザは、その戦士の多くの能力を見た時、次のように考えた。フォモーレ族による今の奴隷の隷従の状況を脱することができるだろうかと。それで、彼らはこの戦士について話し合いの場をもった。ヌァザが出した結論は次のようなものだった。〔王の〕座をその戦士に明け渡すことである。サウィルダーナッハは玉座へ行き、王〔=ヌァザ〕はその前に13日間立ち続けた。

¶75
翌日、彼は二人の兄弟、つまりダグザ、オグマと、ドラドの沼で会談した。それから、さらに二人の兄弟、つまりゴヴニュとディアン・ケーフトが呼ばれた。

¶76
彼らはその秘密の会合に丸一年を費やした。それゆえ、〈ドラドの沼の神々の意志*3〉という言葉が言われるようになった。

¶77
それからエーリゥのドルイドたちと外科医たちと戦車の御者たちと鍛冶師たちと裕福な地主たちと法律家たちが彼らのところに召喚された。彼らは秘密裏に話し合った。

¶78
それから彼は魔術師――その名はマスゲンという――にたずねた、彼がどのような力を使うのかと。彼は言った、私はフォモーレ族の足下のエーリゥの山々を投げつけ、その山頂を地面に落としてみせようと。そして彼らにはこう思われた、エーリゥの地の12の主たる山々がトゥアサ・デー・ダナンに従い、彼ら〔=フォモーレ族〕と戦うだろうと。その山々とはシュリアヴ・リアグ、デンナ・ウラド、ベンニ・ボルヒェ、ルリ、シュリアヴ・ブラーズミ、シュリアヴ・シュネフテ、シュリアヴ・ミシュ、ブリーシュリアヴ、ネムセン、シュリアヴ・マック・ベルゴドン、シェゴシュ、クルアハーン・アグレである。

¶79
次に彼は酌取りに、どんな力を使うのかたずねた。彼は、フォモーレ族の目の前で、エーリゥの12の主たる湖を動かし、どれだけ喉が渇いていても、やつらが水を飲めないようにすると言った。その12の湖とは、デルロッホ、ロッホ・ルムニグ、ロッホ・ノルブシェン、ロッホ・リー、ロッホ・メスクデ、ロッホ・クアン、ロッホ・ライグ、ロッホ・ネハッハ、ロッホ・フェヴァル、ロッホ・ジェヒェド、ロッホ・リアッハ、マールロッホである。彼らはエーリゥの主たる12の川に向かっていくだろう。その12の川とはブアス、ボアン、バンナ、ネム、ライ、シナン、ムアズ、シュリゲッハ、サウィール、フィン、ルルセッハ、シウルであり、そしてそれらはフォモーレ族全員から身を隠し、やつらは水の一滴も見つけられなくなるだろう。しかし、戦の中では七年の間、エーリゥの人びと〔=トゥアサ・デー・ダナン神族〕のところには飲み物がやってくる。

¶80
トゥアサ・デー・ダナンのドルイドであるフィゴル・マク・マーモシュは言った、「私は火の雨を三たび、フォモーレ族の戦士たちの顔に降らせ、そしてやつらの勇気と武器の技量と力の三分の二を奪い 、そしてやつら自身の体内の尿と馬のそれとを結び付けてしまおう。トゥアサ・デー・ダナンの出す息は、勇気と技量と力とを増すだろう。7年間戦場に立ち続けたとしても、一人も疲れないだろう」

¶81
ダグザは言った、「お前たちが自慢するそれらの力、儂はそれらを全て一人で使って見せよう*4」と。
「あなたはダグザ(良い神)だ!」と皆が言った。このときから彼は『ダグザ』と呼ばれているのである。

¶82
それから彼らは会議を解散した。3年後に再会することを約束して。

¶83
それから彼らは、話し合ったように戦の準備をした後、ルグとダグザとオグマはダナンの三神のところへ行き、そして彼らはルグに武具を与え、準備と武器の作成に7年を費やした。
それから彼女は彼に言った、「破壊の戦を初めよ」と。それゆえモーリーガンはルグに言った、「目覚め……〔テクストの意味が不明〕
ドルイドのフィゴル・マク・マーモシュは戦とトゥアサ・デー・ダナンの強化を予言しており、そしてこう言った、「約束しよう、火のような戦い……沸騰する海の……〔テクストの意味が不明〕」

*1 「賢者」と「専門家」と訳したのは同じ語である。巧みなダブルミーニング。ここでいう「賢者」とは恐らくドルイドのことを指していると考えられる。王の傍にはドルイドがつき、時には王よりも高い発言権がある。
*2 フィドヘルのプレイから竪琴を引くまでの一連の流れは、デュメジルの三機能説にきれいに当てはまる。
フィドヘルの実力:王の資質(第一機能)
賢者:宗教(第一機能)
オグマによる挑戦:力と技、則ち戦士の資質(第二機能)
竪琴:音楽の能力(第三機能)
*3 定型句?
*4 ダグザはこの話の中で「万能者」という特徴、秩序の擁護者という神話的性質などにおける類似が強調されており、一方でダグザだけ滑稽な描き方がなされている。


【続く】

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