アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑤(¶42~¶51)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、ブレス王がトゥアサ・デー・ダナンから放逐されるまででした。

今回は、追い出されたブレスが、父方の親族のフォモーレ族を探す旅です。


ブレスとエーリゥの旅


¶42
それから彼は、自らの母を訪ね、そして彼女に訊いた、自分の部族はどこにいるのかと。「私にははっきりわかります」と彼女は言い、かつて海から現れた銀の器を見た、あの丘へ向かって出発した。それから彼女はさらに海岸へと向かった。そして、彼〔訳注:ブレスの父、すなわちエラサ〕が残した指輪を彼〔ブレス〕に差し出し、その中指にはめた。すると、それはぴったりとはまった。彼女はそれを、誰にも売り物としても贈り物としても、渡さなかった。その日まで、その指輪がぴったりとはまる者は誰一人いなかった。

¶43
そののち、二人はさらに移動し、フォモーレ族の地へたどり着いた。二人は、大規模な集会が行われている広い平原に着いた。その中でも最も美しい集会、そこへ二人は行った。集会で、二人は自分たちについて話すよう求められた。二人は、エーリゥの人びとのところから来たのだと言った。すると今度は、犬を持っているかと尋ねた。なぜならば、その当時、別の集会を訪問した集団は、ともに競技をすることが習わしだったためである。「我々は犬を連れている」とブレスは言った。そして、彼らは犬を競技に出し、トゥアサ・デー・ダナンの犬たちは、フォモーレ族の犬たちよりも素早かった。今度は、競争させる馬を持っているか、とたずねた。二人は再び「持っている」と答え、そしてまた、二人の馬たちはフォモーレ族の馬たちより素早かった。

¶44
それから今度は、剣の扱いに長けている強い者がいないかたずね、〔訳注:トゥアサ・デー・ダナンのなかには〕ブレス一人を除いては見つからなかった。彼が手に持った剣を持ち上げた時、彼の父がその指にはまっている指輪に気付き、あの戦士は誰か、とたずねた。彼の母が代わりに答え、王に対し、息子だと言った。そして、我々が語ってきたような話が、余すところなく語り伝えられたのである。


¶45
それを聞き、彼の父は悲しく思った。父は言った、「どんな力によって、お前は自分が力で支配していた土地から追い出されたのだ?」と。ブレスは答えた、「私自身の不正義と、不遜さとに他なりません。私は彼ら自身の財産と宝と食べ物を奪いました。それまで、税も支払いも、彼らから奪われたことはありませんでした」と。


¶46
「それは悪いことだ」と彼の父は言った。「彼らの繁栄の方が、王座よりも良い。彼らの祈りの方が、不調和よりも良い。それで、お前はなぜ来たのだ?」と彼の父は聞いた。

¶47
「私はあなたたちに戦士たちを求めに来たのです」と彼〔息子ブレス〕は言った。「私はかの地を力ずくで奪うつもりです」

¶48
「お前は不正義によってそれを得ることはないだろう、誠によって得るのでなければ」と彼〔父エラサ〕は言った。

¶49
「ならば、質問があります。私にどのような助言をしてくださいますか?」とブレスは言った。


¶50
それからエラサは彼をかの戦士のところへ送った。すなわちニェードの孫バロール、島々〔ヘブリディーズ諸島〕の王のところへ。そしてインジェッハ・マク・ジェー・ドムナン、フォモーレ族の王のところへ。そしてロッホランにいた全軍を集めエーリゥへ西進した。税を課し続けるため、彼らを力ずくで支配するため。そして、一本の舟の橋を、ヘブリディーズ諸島からエーリゥへとわたした。

¶51
そのフォモーレ族の軍勢ほど、恐ろしく嫌悪をもたらす集団がエーリゥに襲来したことはなかった。ロッホランのスキタイと、ヘブリディーズ諸島の男たちとのあいだに、その遠征をめぐって、対立があった。


【続く】


記事を面白いと思っていただけたらサポートをお願いします。サポートしていただいた分だけ私が元気になり、資料購入費用になったり、翻訳・調査・記事の執筆が捗ったりします。