アイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」⑥(¶52~¶69)

私が翻訳したアイルランドの異教的伝承「マグ・トゥレドの戦い」(Cath Maige Tuired) をここに掲載していきます。

【前回】

前回は、追い出されたブレスが、父方の親族のフォモーレ族を探す旅です。

今回は、話がトゥアサ・デー・ダナンに戻り、とうとうルグ神が登場します。


¶52
そのころトゥアサ・デー・ダナンは、そのことについて議論していた。

¶53
ブレスの後、再びヌァザがトゥアサ・デー・ダナンの王位にあった。そのとき、トゥアサ・デー・ダナンは、タラの宮殿で大宴会をしていた。そして、ある戦士がタラを訪れた。その名をサウィルダーナッハ*1という。そのとき、タラには二人の門番がいた。その名を、フィガルの息子ガマルと、リアガルの息子カマルといった。カマルがそこにいる間、見知らぬ軍勢が向かってくるのが見えた。見目麗しい戦士が、王冠を被り、その軍勢の前に立っていた。

¶54
彼らは門番の前で、来訪を告げた。
門番は言った。「そこにいるのは誰だ?」

¶55
「そこにおわすのは、ディアン・ケーフトの息子キアンとバロルの娘エスネの息子である、ルグ・ロンナンシュクレッハ*2だ。この方はスペイン王マグモールの娘タルティウとドゥアッハの息子エオハズ・ガルヴの養い息子であらせられる」

¶56
門番はサウィルダーナッハに訊ねた、「お前はどんなわざを持っている? このタラには、特別な技芸を持たぬ何人も、入ることができないのだ」

¶57
「私に質問しろ」とルグは言った、「私は木工職人だ」
門番は答えた、「我々はお前を必要としない。我々には既に木工職人がいる。ルアハドの息子ルフタだ」

¶58
彼はこう言った、「門番よ、私に質問しろ。私は鍛冶師だ」
門番はそれに答えて言った、「我々にはすでに鍛冶師がいる。〈三つの新しい技術〉を持つコルム・クアレーネッヘだ」

¶59
彼は述べた、「私に質問しろ。私は戦士だ」
門番は答えて言った、「我々はお前を必要としない。我々にはすでに戦士がいる。エスニェの息子オグマだ」

¶60
ルグは再び言った、「私に質問しろ。私は竪琴弾きだ」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでに竪琴弾きがいる。シーの三神の男たちが選んだ、ビケルモスの息子アヴカーンだ」

¶61
彼は言った、「私に質問しろ。私は戦士だ」
門番は答えて言った、「我々はお前を必要としない。我々にはすでに戦士がいる。エフダッハ・バイスラーウの息子ブレサル・エハルラウだ」

¶62
そして彼は言った、「私に質問しろ、門番よ。私は詩人で、歴史の語り部だ*3」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでに詩人と歴史の語り部がいる。エソマンの息子エーンだ」


¶63
彼は言った、「私に質問しろ」と。「私は呪術師だ」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでに呪術師がいる。我々のドルイドと力ある者たちは数多い」

¶64
彼はいった、「私に質問しろ。私は医者だ」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでにディアン・ケーフトという医者がいる」

¶65
「私に質問しろ」と彼は言った、「私は酌取りだ」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでに酌取りがいる。デルトとドルーフトとダーセ、タイとタロムとトログ、グレーとグランとグレーシがいる」

¶66
こう言った、「私に質問しろ。私は腕の良い金銀細工師だ」
「我々はお前を必要としない。我々にはすでに金銀細工師がいる。〈金銀細工師〉のクレーズネだ」

¶67
彼は繰り返して言った、「王に聞くがいい」と。「これらの技芸の全てを一人で持つ者が、王のもとにいるどうかを。そしてもしいるのなら、私はタラの王宮に入ることはない」

¶68
それから門番はヌァザ王の館へ行き、王に全てを語った。
「王宮の門のところに来ている戦士」と彼は言った、「その名前はサウィルダーナッハといいます。そしてあなた様の人びとの役に立つ全ての技、それら全てを彼一人が持っており、ゆえに彼は全ての技芸を持つ者です」

¶69
ルグは言った、タラの盤遊戯フィドヘル*4を自分のところへ持ってくるようにと。そして彼は全ての杭〔=遊戯の駒〕を取り、それゆえ彼は「ルグの杭」をつくった。(しかしもしトロイア戦争の年代にフィドヘルが考案されたのならば、それはこの時代アイルランドにたどり着いていないはずである。なぜならば、マグ・トゥレドの戦いとトロイアの破壊とは、同じときに行われたからである)


*1 サウィルダーナッハ:「多くの技芸を持つ者」の意。
*2 ロンナンシュクレッハ:lonn-「激しい、強い、暴力的な」、aindsclech「好戦的な」。英雄神ルグの本質を表している。あえてここでよく知られたルグ・ラーウァーダの名を出さず、ルグを暗示する形容辞をつけて名を出したのは、読者(あるいは聴衆)の知識をくすぐる意図と考えられる。
*3 フィリ (fili) は詩人であり、予知能力があると信じられ、また言い伝えを語るため、歴史家でもあり、さらに法律も担当し(アイルランドの最初期の法文書でありSenchas Mórの中にはいくつもの伝承があり、それが過去の事例として引用される)、当然知識人である。「歴史の語り部」と訳したsenchaidも語り部であり、歴史家である。そもそも伝承と歴史の区別が名分でないため、言い伝えの類に詳しいことは、そのまま歴史に精通していることを意味するのだろう。eDILによれば、初期のfiliの語は、breithem「法律家」とsenchaid「語り部;歴史家」と明確に区別されていなかったという(s.v. fili)。
*4 フィドヘルはチェスに似た盤遊戯で、駒が杭になっている。フィドヘルの才能は王としての資質と結びつけて考えられる。「侵略の書」では、ルグがフィドヘルをもたらしたことになっており、ルグは王権とも深く結びつく。


【続く】

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