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2023年3月 - 今月のスナップとエッセイ

時候の挨拶

 春がやってきた。太陽のまぶしさに目を細め、風の温さに身を包まれる。そしてわたしは、冬物のコートを脱いだ。

 とはいっても、三寒四温。また寒くなるだろうと思い、コートはクリーニングに出さずに、置いていた。しかし、もう出番はなさそうである。桜が散り始めているニュースを見ると、心は冬に取り残されている気さえする。

 ぽとり。道端の地面に、赤い花が落ちた。椿だ。
 ひらり。アスファルトの隙間に、紫の花が顔を出した。スミレだ。
 ふわり。綺麗な庭に、黄色い花が咲いていた。フリージアだ。

  1年前の自分の文章を読んだ。まったく同じことを書いている。どうやらわたしは、同じような感性で春を迎え、ひとつ年を取ったようである。

 色鮮やかな季節がやってきた。
 しとしと降る3月の雨音を聞きながら、今これを書いている。

夢日記

「ここからどう帰るんだろう?」  

 見慣れない場所に立っていた。手元のスマートフォンで、Yahoo乗換案内を開く。案内されたルートによると、"まずはバスに乗れ"とのことだ。
 顔を上げると、近くにバス停があった。きっと、あれかな?

 川沿いの街。わたしは、何故ここにいるのだろう。広がる青空に、申し訳ないほどの雲がふわふわと浮かんでいる。

 そうだそうだ。
 わたしは新幹線で、今日中に帰る予定だったのだ。

 考え事をしているうちに、バスが来た。

 バスは難しい。地域によって、前乗りだったり後ろ乗りだったり、先払いだったり、後払いだったりする。電車と違ってレールもないし、ちゃんと目的地に着くか不安になる。
 あっ、ここは後ろ乗り後払いなのね。整理券を取って、席に座る。

 バスは苦手だ。知らないところだと、余計に苦手だ。アナウンスの声は聞き取りづらいし、バスの運賃表も遠くからだと見えづらい。

 一体、駅にはいつつくのだろう。
 外には相変わらずふわふわとした雲が浮かんでいた。わたしはそれを、ぼーっと眺めた。

 しかし、走れど走れど、駅につく様子はない。もしかして、乗るバス間違えた?冷たい汗が頬を伝う。
 このバス、気がつけば、山道を登っている。さすがにこれはやばい。スマートフォンを開き、現在位置をマップで確認した。ここはどこだ?

 すると、なんと隣県まで来ていた。駅からも遠く離れてしまったようだ。これは大変なことになった。急いで戻らないと。でもどうやって?とりあえず降りなきゃ。

 私は急いで降車ボタンを押した。トンネルの手前のバス停。財布を開くと、小銭は1円玉1枚と5円玉1枚。えーっと、運賃は183円。これだけ乗ってて183円?って端数の3円って何?
 両替機に1000円札を入れた。すると、何ということだ。すべて1円玉で両替されているではないか!
 延々と1円玉が出続ける両替機を、半狂乱で見るわたし。早くこのバスから降りたい焦りと、乗客を待たせてる焦りで、気が遠くなった。

 それでもなんとか払い、わたしはバスを降りた。時は、夕方になっていた。さて、とりあえず歩いて戻ろうか。

 登ってきた山道を下る。すると、観光案内所が見えてきた。ここで何か聞けるかもしれない。
 辺りは、暗くなってきた。建物から漏れ出る光に、ホッとする。

 カランカラン。ドアを開ける。そこは、木のぬくもりを感じるおしゃれな空間が広がっていた。カウンターに足を運ぶと、ひとりの中年女性が出迎えてくれた。

「あら、こんな時間に。この辺りに宿泊ですか?」
 柔らかい声で聞かれた。わたしはリュックサックの肩紐をぎゅっと握った。
「いえ、バスを乗り間違えちゃって。新幹線が乗れる駅に行くには、ここからどうすればいいですか?」
「ああ、それは大変。ここを出た道をまっすぐ行くと、場所が開けて、そうすると高層ビル群が見えるの。その方角を目指していけば着くわよ」
 え、歩いていけるの?!と思ったが、その言葉を飲み込み、「ありがとうございます、行ってみます」と礼を言った。

 言われたとおり、外に出て道を真っ直ぐ歩いた。
 鬱蒼とした薄暗い森を進む。この道であっているのか?漠然とした不安に襲われる。車も人も通っていない。わたしの足音だけが響いていた。

 どれほど歩いただろうか。
 いきなり、パッと視界が開けた。すると、なんと美しい景色だろうか。
 そこは、夕日に照らされ、街が一望できる高台だった。右側に海が広がり、左側に高層ビル群が見え、それが少し霞んでいるその様も、言葉にしがたい美しさがあった。
 わたしは、リュックサックからカメラを取り出した。
 ファインダーを覗く。迷う旅も、悪くはないのかもしれない。こんな素敵な景色に出会えたのだから。

 そこから一気に駆け下りると、いつの間にか駅についた。「おーい!待ってたぞー!」と、遠くから声が聞こえる。すると、わたしに向かって手を振る仲間が見えた。

 …あれ、わたしひとりだったような?
 まあ、ひとりじゃなかったんだな、多分。

 そう思ったところで、目が覚めた。

PHOTOGRAPHY_202303

 今この瞬間を写真に残す。それが良かったと思えるのは、ずっと先のことだろう。
 まだ、カメラを学んでいなかった頃。残しておきたい気持ちだけで撮っていた写真。10年以上経った今、当時の写真を見て思うことは、「あの頃、撮っていてよかった」。これに尽きる。

 少し目を離せば、時代の流れに取り残される。僅か数日、インターネットから離れると、浦島太郎状態である。
 目まぐるしく変わり続ける世界で、日々を生きている。情報量の多さのせいか、自分の周りにある出来事が、霞んでいるように感じた。
 現実と非現実の狭間のような世界で生きている。そんな我々が、目の前にあるものに向き合うために、未来の自分に届けるために、写真は必要だと考える。そのような点においても、写真文化は、後世に残していきたいものである。

 静かな夜の公園。七分咲の桜の下で、夫と花見をした。今の思いを、ぽつりぽつりと口にしながら、酒を交わし桜を眺め、写真を撮った。
 ここは、桜の名所ではない。しかし、シャッターを切るごとに、この2023年の春を、記憶や感情とともに残せているような気がした。

 10年後、この写真を見返したとき、わたしは何を思うだろうか?
 今のわたしにはわからない。しかし、きっと撮ってよかったと思えるだろう。写真とは、そういうものである。


今月は、書けないと思った

 毎月20日頃になると、この月末noteを書き始める。箇条書きにしておいたエッセイの"骨"に"肉"をつける作業をしたり、写真をセレクトしたりして、毎月末に間に合うよう仕上げてきた。

 今月は、書けないと思った。それほどの出来事があり、今もその渦中にいる。

 それでもどうにか書いている。
 書くことによって、わたし自身が救われているような気がするのだ。だから、どうにか今月も書いた。書くことができた。
 今現在のことも、いずれ書き記すであろう。

 ということで、今月はこのくらいで。来月のことは、来月考える。
 今は、目の前のことをひとつひとつこなしていくのみである。

 ここが、人生の頑張りどころ。そう、心の中で呟いている。

 それでは、良い写真生活を。

過去の3月 - 今月のスナップとエッセイ


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