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クリア・エアー・タービュレンス:イアン・ギラン・バンドが織りなすジャンル越境の名盤

■Ian Gillan Band / Clear Air Turbulence
■収録曲:Side 1 - 1.Clear Air Turbulence(7:35) 2.Five Moons(7:30) 3.Money Lender(5:38) // Side 2 - 1.Over The Hill(7:14) 2.Goodhand Liza(5:24) 3.Angel Manchenio(7:17)
■パーソネル:Ian Gillan(vo) Colin Towns(key,flutes) John Gustafson(b,vo) Ray Fenwick(gu,vo) Mark Nauseef(dr)
■リリース:1977年4月
■カバー・アート:Chris Foss

 「レコードを買い初めて32番目に買ったレコードは何?」って聞かれて、それを即答できる人はかなり特別な人だと思います。でも、普通、初めて買ったレコードから始まって、2枚目、3枚目、4枚目、5枚目くらいまではしっかり記憶にあるのではないでしょうか?

 このレコードは、レインボーの虹をかける覇者、イエスのこわれものに続いて3番目に買ったレコードです。このレコードを買った時は、まだ、ディープ・パープルは聴いたことがなかったのではなかったかと思います。

 やはり、最初のうちに買うレコードは、中身の評判もさることながら、ジャケットのインパクトも大事だったわけです。ホワイトアルバムよりは、この3枚の方が見て楽しくないですか。そんな単純な理由。当時はMVなんかありませんでしたから、ジャケットを眺めながら音楽を聴くしかなかったんですよね。
 もちろん、雑誌のワンポイント評は見ましたが、このアルバムの中にどんな音が入っているかなど判らないで、ただただジャケの迫力に目を奪われて買ってしまった訳です。

最初の3枚は全部ジャケ買いでした!

 しかし、結果的に、趣味嗜好とピタッと重なり、いまだに聴き続けている稀な一枚に巡り合うことが出来たのでありました!

 イアン・ギラン・バンドのこのアルバムは、ハードロックとファンクとフュージョンとプログレが絶妙の均衡を保って一体化している、類まれな音として非常に重要な意味のあるアルバムです。アルバムのタイトルはクリア・エアー・タービュレンス、邦題は「鋼のロック魂」です(最悪の邦題!)。

 ロック・バンドが制作するアルバムを縦断的に見てみると、長いキャリアの中で突然変異的に制作した異色作が素晴らしく良いということがたまにあるように思います。しかも、そうしたアーチストは前後の時期にいい加減ブレイクしていて、総じてその谷間で制作されたアルバムは、世間的には大した評判にもならず、ロックの歴史の中ではほぼ完全に埋もれてしまっていたりするものです。

 このアルバムは、イアン・ギランの前後の活動からするとかなり異色です。しかし、このアルバムは、個人的にハマってしまって長年のヘヴィー・ローテーションになっています。何十年と音楽を聴き続けた人たちなら1枚や2枚、世間の評判に関係なく兎に角感性にピタッと合ってし待って、ずz〜っと聴き続けているこうしたアルバムがあるに違いないと思うのですがどうでしょう。私の中でこのアルバムは、カンサスの永遠の序曲やイエスのこわれものや危機と並ぶくらいの位置付けです。

 ディープ・パープル解散後、ギランは音楽活動の幅を広げるため、ジャズ、ファンク、プログレッシブ・ロックなど様々なジャンルを取り入れた新しいスタイルを模索しました。この多様性が『Clear Air Turbulence』に色濃く反映されています。

 このアルバムは、曲調を分析すればただのファンクかディスコミュージックなのかもしれないし、ちょっとラテン色加えてみました系のハードロックなのかもしれないのですが、そうした、ありそうな手法で作られたアルバムではありながらも、民族色豊かな、なかなか雄弁なタイプのミクスチャー・ミュージックに仕上がっているのではないかと思うのです。

 コズミック・エナジーたっぷりのClear air Turbulence、クイーンの華麗なるレースを想起させる導入部から、ジェイムズ・ブラウンばりのファンクに突入し、レイの職人的に華麗なギターワークへと繋がる展開の速さに目が回りそうです。
 そして、曲間を空けずにインディアン・フルートで始まるファイブ・ムーンズ、美しすぎです!サックスのソロが曲想によくマッチしています。 続くマネー・レンダーでのイアン・ギランのキメのシャウト。曲がパープルとは異なり、かなり玄人っぽくというか職人っぽく練りこまれていますので、思いっきりのシャウトも曲の流れの中で実に自然に無理ない感じです。
 オーバー・ザ・ヒルでは、フュージョン系の正確なタッチのリリカルなピアノのソロやケチャ風のコーラスまで登場します。なんて凝り様!
 グッド・ハンド・ライザのアフリカンなビートはほぼ民族音楽です。
 エンジエル・マンチェニオ冒頭のキラキラとした美しすぎるギター・・・もう目が放せないくらい随所に見せ場が散りばめられたスピード感溢れるアルバムです!

 バンドのメンバーの経歴を見てもハードロック人脈は皆無で、それぞれ職人気質です。
 ベースのジョン・ガスタフソンは1960年代初頭、リヴァプールのロックンロール・バンド「The Big Three」で活動し、1960年代後半から1970年代にかけて、よりプログレッシブな音楽スタイルを追求し「Quatermass」に加入します。そのサウンドは、オルガントリオ編成のハードロックとプログレッシブ・ロックを融合したサウンドでした。

quatermass

 ギターのレイ・フェノウィックは、1960年代後半に「The Syndicats」というバンドで名を馳せ、その後「The Spencer Davis Group」、「After Tea」に参加しました。特にThe Spencer Davis Groupでは、スティーヴ・ウィンウッドが脱退した穴を埋めバンドのサウンドに大きく貢献しています。
 キーボードのコリン・タウンズはメジャーでのキャリアはこのバンドが初めのようですが、その後、映画音楽の作曲に専念し、「コリン・タウンズ・マスク・オーケストラ」を結成し、ジャズとオーケストラの可能性と追求、教育者としても幅広く活動したそうです。

 パープル黄金期のボーカリストのソロ作品だなんていう先入観を振り払って素直に聴くべき大傑作です!

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