新型コロナ禍だからこそ学びなおす「ヘルスケア×危機管理」の心得|事例から紐解く「失敗の本質」(後編)
前編では、今の時世だからこそ知っておくべき「ヘルスケア×危機管理」をテーマに、組織における危機管理の捉え方や、危機発生時に求められる広報部門の役割について整理していきました。
後編では、実在のケースをもとに、組織が危機対応に失敗してしまう原理原則を「失敗の本質」として分析していきます。
(筆者が対応した事例も含まれ、複数事例を組み合わせて意図的にぼかした記述であることをご理解いただければ幸いです)
危機対応「失敗の本質」
① 情報が上にあがらない、横に共有されない(筆者実例)
医療従事者とメーカーの不適切な関係性に端を発し、複数メーカーへ当局の捜査が及んだ事例では、営業部門と本社管理部門、また広報部門での情報連携が適切にされず、広報は一切情報を把握できていませんでした。
そのような状況のなか、メディアが捜査当局からのリーク情報をもとに広報部門への取材を行いました。広報としてはまさに「寝耳に水」の状態であり、その受け答えや今後の方針に関して、急遽弊社がアドバイスを求められ、状況を整理しました。
受け答えによっては、メーカーに対する捜査当局や世間の疑いの目が強まってしまう危険性があるシチュエーションでした。
② 現場の判断で部分最適に動く(筆者実例)
新型コロナウイルス感染症の全容が見えない時期。各地の病院でクラスター化する事態が頻発し、ある地域の基幹病院でも複数の陽性者が発生していました。
一方、その当時、病院では利用者や地域住民に不安を与えることを考慮し、対外的に陽性者が発生していた事実の公表を行わないで診療を続けていたのです。
その後も陽性者が増え続け、行政と保健所からクラスター認定を受けることとなり、事実を公表せずに注意喚起を行わなかった事態を追及される結果となりました。
地域住民への説明責任の観点から、記者会見開催の要請が病院に対して出され、弊社がサポートを実施しました。
③ 意思決定者が不在、ポジショントークが続く(筆者実例)
残念ながらお亡くなりになった小児をめぐり、家族と病院の関係性が悪化しました。
病院としては当時の状況から正当性を主張しつつも、弁護士を交え示談に応じるよう家族と交渉を続けていました。
家族は病院からの謝罪がないことに腹を立て、SNSを使い交渉の状況を公表しつつメディアに対しても情報をリークし、実際に報道がされてしまった段階で弊社に相談がありました。
その後の経営層が出席した会議において、診療科、経営企画、総務の各部門から様々な意見が出されるも、病院としての対応を意思決定することができず日数が経過し、後手に回るうちに家族からの発信が増え、更に印象が悪化してしまう事態となりました。
④ 事業上のメリットが優先される(筆者実例)
プロモーションに用いたキャラクターが「性的である」「女性蔑視である」とSNSで炎上し、人権派の弁護士やジェンダー意識の強い議員まで巻き込む事態となり、TV、週刊誌、ネットニュースで報道が止まない状況に陥っていました。
弊社が参画した段階で、既に第2弾、第3弾の企画が進行し、中止することは収益へのデメリットが大きいため事業部は継続意向が強くありました。
そのため、企画やクリエイティブに関する社内ガイドラインを部門連係で策定し、進行中のプロジェクトも含めクリエイティブの見直しを行い、第2弾の発表とあわせガイドライン策定の事実を公表しプロモーションは継続することができました。
⑤ 利己主義の正当性を主張する(筆者実例)
地域の総合病院同士の統廃合計画が行政を主体として進み、M&AコンサルがPMOとして入りながら診療科の整理、引き受け先含む職員の処遇検討、母体となる医局との調整などが行われていました。
道筋が見えてきた段階で、一般公開される会議体での状況報告に加え、地域住民に向けた説明会の開催が検討され、弊社にコンサルティングの依頼がありました。
当初M&Aコンサルが用意していた説明内容および想定される質疑応答の資料では、医療財政の合理性のみが論点として扱われ、地域住民や職員の不安を煽る内容であったため、急遽コミュニケーション方針を見直すこととしました。
⑥ グローバル本社にお伺いを立てないと動けない(報道等をもとにした事例)
外資系企業で起こった不祥事では、関わっていた病院が先んじて事実を公表しましたが、日本法人は社としての対応についてグローバル本社との合意を得ることができず、その後も沈黙を続けることとなりました。
グローバル本社のスタンスとしては「実態がすべて把握できるまでは何も話さない」「謝罪もしない」というもので、不祥事の当事者に対する日本の文化的背景や感情とは相いれないものでしたが、日本法人はそれに応じるしかありませんでした。
いよいよ日本法人に対する批判的な世論が強まった結果、説明会見が開かれましたが、その内容が不十分であったために紛糾し、2回目の会見でグローバル本社のCEOも含め謝罪する顛末となりました。
「失敗の本質」まとめ ~根本的な組織体質の問題(報道等をもとにした事例)~
医薬品メーカーが起こした、本来混入するはずのない成分が入った薬を使用した人々に健康被害が生じ、死亡事例まで発生した事件に関する第三者特別委員会による報告書を読むと、企業不祥事は「少数による意図的な不正」ではなく「組織に根付く病巣」によって生じるということが理解できます。
ここで詳細に言及することは割愛しますが、そこには、人々の健康や生命にかかわる医薬品を扱う企業としてあるまじき様々な組織的問題が記載されており、経営者の責任に加え、「自社の成長」や歪曲された命題である「安定供給」を優先させる様々な部門や社員の「自己都合」が横行している姿が浮き彫りとなっています。
しかし、その報告書の終章には厳しくも真面目に働く社員に向けたメッセージも込められていました。危機管理に携わる者が失ってはならない重要なものであると考え、一部を抜粋して記載します。
終わりに
以上のように、危機管理のケーススタディの多くが「組織ガバナンス」に由来し、発生もしくは深刻化していくことは一目瞭然で、筆者が「危機管理は組織の総合力が試される」と考える理由でもあります。
「外の視点」を持つべき広報部門は、リスク・クライシスの局面に際し、その特性を生かしながら意思決定に積極的に参画するだけでなく、レピュテーション回復期においては正しい組織運営のために正しい組織運営を行うようリードする役割までも担う、重要なポジションとなり得る存在であると考えています。
ともするとヘルスケア産業は、その規制の厳しさゆえに「ルールをきちんと解釈して則っていれば良い」という思考に陥りがちですが、新型コロナ禍により、国民の健康意識やヘルスケア産業に対する関心は高まる一方です。
今こそ「世の中がどのように受け止めるか」という発想に基づき、危機管理体制を見直すことで組織の総合力を高める機会が訪れているのではないだろうか、と改めて感じます。
本コラムが、皆様の参考になれば喜ばしい限りです。
【資料】危機発生時における“レジリエンス(早期回復)”を実現するには?
コラムを執筆した佐藤がリードする『ヘルスケア本部・危機管理コンサルティングチーム』が、これまでのサポート実績をもとに、リスク・クライシス事案発生時における組織レピュテーションを早期に回復させるため、平時からの組織体制構築、有事を想定したトレーニング、実際の事案発生時には対応方針の策定、メディア等の対応へのアドバイスを包括的に実施する『危機管理レジリエンスプログラム』の提供を開始いたしました。
<プログラム例>
●体制構築・プロセス設計(手順書作成)
●危機管理勉強会(座学)
●メディアトレーニング(座学+模擬記者会見)
●クイックリサーチ(類似ケースの報道・論調調査)
●スポット相談(アドバイス+資料チェック)
●コンサルティング(対応方針検討+アドバイス+資料チェック)
●記者会見運営サポート
この度、危機発生時に取り組むべきことや検討すべきことを解説した資料をご用意いたしましたので、ご要望の方は下記申込フォームより、必要事項をご記入のうえご請求ください。
https://forms.office.com/r/eAdamD7FGA
>>> 前編はこちらからご覧ください
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