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【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その⑧

前回 ↓
https://note.com/oyulog08/n/nea08e59274fb

前回までのあらすじ;グリニッジ天文台で時間的にも物理的にも置き去りをくらったお湯だったが、無事にマツジュンと再開することが出来た。二人は花火で新年を迎えるため、テムズ川へと向かう。

その14「マツジュン、お祭り会場で突如としてWake up ,Girlsの楽曲を聴き込みだす事件」

 年末、ロンドンでは大観覧車であるロンドン・アイ周辺で大花火大会が開催され、盛大に新年を迎えることが出来ます。

 うつで慢性的に気分が沈んでいましたし、(人生的に)先行きも不透明な中で新たな年の到来を祝う気にもなれませんでしたが、せっかくなので参加することにしました。

 なお、花火大会に参加するには事前にロンドン市のHPから先着順でチケットを購入しておく必要があります。チケットの販売は10月と、10月にチケットを買えなかった人のために12月の、2つの期間に渡って実施されます。ロンドン時間で正午から発売が開始されるので、日本では午後8時ごろにインターネットに張り付いてF5連打でアクセスを勝ち取らないとチケットを購入することはできません。

 花火を見ることが出来るエリアはいくつか別れているのですが、僕たちは幸運にもロンドン・アイの真ん前で花火を見物できる、一番いいエリアのチケットを確保することが出来ました。

↑ ちなみに花火大会開場まではこのように歩行者天国になる。

 花火の開始は当日24時からでしたが、人混みでごった返すことが予想されたため、22時すぎにはウェストミンスターに到着することにしました。

 それでも花火大会のために歩行者天国になったウェストミンスター駅周辺からテムズ川に向かうまでの道筋は見物客で溢れかえっており、僕は「クローバーフィールド HAKAISYA」の避難シーンを思い出しました。

 簡単な手荷物検査をクリアし、テムズ川の岸辺に到着すると、僕たちと同じようにチケットを確保した客が既に前の方の場所を占めていました。ただ、早めに着いたので、ものすごく快適にロンドン・アイが一望できるというわけではありませんでしたが、まずまずの立地を確保することが出来ました。

 会場にはおそらくはイギリスのヒット曲のような洋楽がズンズンと流れており(たぶんその年のヒットした曲でしょうか? 僕は一瞬だけ流れたQueenの曲しかわかりませんでした)さながらライブ会場のようで、その場を盛り上げるのに一役買っていました。ロンドン・アイは青色や赤色に光り輝いたりして、その時を待っています。

 周辺ではイギリスだけでなく、各国から集まったであろう若者を中心とした集団が自撮りをしたり、わめいて騒いだりして(とは言っても平和的に)、年末のお祭り気分を味わっていました。

 時計を見ると22時20分前後でしたから、花火が始まるまでにはあと1時間半以上もあります。寒空の下で身体が冷え、トイレに行きたくならないか心配でしたが、ホテルで念入りに済ませて来たので大丈夫だと信じ、流れている音楽や周囲のうかれた空気に身を委ね、時が経つのを待ちます。

ロンドンアイは色とりどりにその姿を変容させて目を楽しませてくれる。

 その場特有のライブ感のある雰囲気は存外に楽しく、時間は体感よりも早く過ぎていきました。

 マツジュンとはとりとめもない雑談をして時間を潰していたのですが、話すこともなくなり、無言の時間が続くと、マツジュンはイヤホンを取り出し、携帯で音楽を聞き始めました。

 「何聞いているの?」

 「Wake up , GirlsのアルバムをAmazonミュージックで聞いている」

 と彼は答えました。

 知らない人のために簡単に説明すると、Wake up , Girlsとはアニメと連動した日本のアイドルグループのことです。マツジュンは顔はいい男でしたが、いいのは外面だけで、その内面は極めつけの陰の者でした。そんな陰の者であるマツジュンは、周囲のお祭り騒ぎ感に耐えることが出来ず、日本のアイドルグループの曲をたっぷり1時間ほど聞き続け、内側にこもって年越しの時間を待っているのでした。

 「イギリスにゆかりのあるロックバンドやポップスではなく、なぜいま日本のアイドルの曲を!?」と面くらいましたが、時間の過ごし方は人それぞれです。僕は特に小うるさいことは言わないことにしました。

 5分前になると、カウントダウンの準備です。自分の世界に閉じこもっていたマツジュンもイヤホンを外し、来たるべき瞬間に備えました。

 そして、カウントダウン。場の全体が一丸となって、2020年を迎えます。

 2020年になった瞬間、盛大な音楽とともに花火があがり、ロンドンアイの周囲を数多の花火が埋め尽くします。あまりに花火を打ち上げるものだからもう煙もモクモクで、終盤になると煙を見ているんだか花火を見ているんだかよくわからない様相を呈して来ましたが、とにかくお祭り騒ぎでした。

 普段は実家でテレビでも見ながら慎ましやかに新年を迎えるのが通例でしたので、このように大イベントに巻き込まれながら新年を祝えるのは非常に貴重な体験でした。こんな体験を提供してくれたマツジュンには感謝してもしきれません。

 …そう、その時が来るまでは…!

(その14「マツジュン、お祭り会場で突如としてWake up ,Girlsの楽曲を聴き込みだす事件」おわり)

その15「旅行客、お湯たちの目の前で殴り合いのケンカをおっぱじめる事件」

 花火は新年を迎えてから10〜15分もの間発射され続けます。そんな花火も終盤を迎えたころ、二人連れの旅行客がぐいぐいと人混みを押しのけ、前方へ割り込んで動画を撮影しだしました。

 ずっと前から並んでいた僕は「きちんと並ばないなんて、自分勝手な客だなあ」「デカいから邪魔だなあ」なんて思っていましたが、トラブルになるのもいやでしたし、日本人の中でもこじんまりした身長しかない僕は戦っても勝ち目がないだろうと判断し静観することにしました。

 その旅行客たちはさらに前に行こうと、人混みをかきわけようとしました。するとちょうど前に陣取っていたカップルの男のほうが「てめーなにやってんだ邪魔だろ」的なことを言い(あくまでお湯の想像です)、以下、次のようなやり取りが繰り広げられました。(セリフはお湯の想像)

自分勝手な旅行客「おいおい、なにマジになってんだよ! この年末を楽しもうぜ」

カップルの男「割り込むな!ちゃんと並びやがれ!このケツの穴野郎!!」

カップルの男、自分勝手な旅行客を突き飛ばす。

自分勝手な旅行客「へいへい、まあ落ち着けって」

自分勝手な旅行客、スマホでカップルの男と自撮りのツーショットを撮ってその場をなごませようとする。

カップルの男「勝手に何撮ってんだッこのボケッ!!」

カップルの男、自分勝手な旅行客を殴り飛ばす。

吹き飛ばされ、地面に倒される自分勝手な旅行客。

 その場は一事騒然となりました。足の踏み場もないほど人がごった返していましたが、そのケンカが始まってからは巻き込まれないように、そこだけ人が捌けてしまいました。

 マツジュンは危機感のない男だったのでその様子をボケーッと眺めており、僕は巻き込まれないように咄嗟にマツジュンの身体を引き、その場から引き離しました。

 ふと振り返ると、「NEW SCOTLAND YARD」と書かれた文字の建物がそびえ立っていました。なんとそこは、ニュー・スコットランド・ヤードの建物の真ん前だったのです。そんな場所で殴り合いのケンカを始めるなんて、交番の前でゲロを吐く酔っ払いのようなものです。

 警察が到着して面倒事が始まる前に、僕たちはその場を離れることにしました。触らぬ神に祟りなしです。

 それにしても血の気の多い年明けを迎えてしまったものです。

(その15「旅行客、お湯たちの目の前で殴り合いのケンカをおっぱじめる事件」おわり)

その16「お湯、ジョジョ第三部のDio様になる事件」

 テムズ川からアールズコートへ地下鉄を乗り継いで帰った僕たちは、新年を迎える祝杯を上げるため、駅前のごった返すファーマシーで日本ではお目にかかれないブランドのビールとスナック菓子を買い込み、ホテルに戻りました。

ちなみに帰り道も歩行者天国となる。警備のスコットランドヤードの警官は気さくに記念撮影に応じてくれます。(業務の妨害にならないように!)

 日本では馴染みのない企業のアルコールやお菓子を食べるのも、旅の醍醐味の一つでしょう。

 缶を開け、乾杯をします。なんという種類のビールだったか忘れてしまいましたが、スッキリとして飲みやすい味でした。せっかくなので500mlの缶を買ったので、それなりにボリュームも楽しめます。ナチョス的なスナック菓子も塩気が効いていて、つまみにするには最高でした。

 結局、一缶まるまる空けてしまい、酔いの回った脳みそで、その晩は気分良く熟睡したのでした。

 さて、最悪なのは翌朝でした。

 絶え間なく襲い来る頭部の鈍痛、こみ上げる吐き気。

 部屋に漂う空き缶からのアルコールとスナック菓子の残り香に、僕は「うっ」とうめき声を漏らしました。

 まぎれもない二日酔いです。そう、お湯はお酒にあんまり強くもないくせに、その場の雰囲気で調子に乗ってつい飲酒してしまう癖がある男でした。マツジュンの方を見ると、ケロッとした顔で今日の観光の準備をしています。彼の空き缶をチェックすると、彼は自分の飲酒ペースを把握していたのか、相当な量の飲み残しがありました。

 僕は一日、まさしく↓の状態で観光に繰り出さなくてはならないのでした。

 2020年1月1日。なんとも先が思いやられる幕開けを迎えたのでした。

(その16「お湯、ジョジョ第三部のDio様になる事件」おわり)

その17「マツジュン、探偵の格好をしているのに万引き犯と間違われる事件」

 新年あけましておめでとうございます。2020年1月1日をロンドンの花火で迎えました。日本でも同様ですが、年末年始は開いている施設が限られてくるものです。

 正月から開いている施設をマツジュンがリサーチしてくれ、どうやらその日はシャーロック・ホームズ博物館には行けそうだということで、支度をし、二日酔いの頭を抱えてフラフラとホテルを出ました。

 マツジュンは生粋のシャーロキアンというわけではないのですが、「探偵オペラミルキィホームズ」というアニメ作品が大好きで、僕の家に原作漫画を置いていったくらいのファンでした。なので、↓のようなシャーロック・ホームズ扮装セットをわざわざ持参して来ていました(だからスキーウェアを廃棄する羽目になったのでしょうが…)。

 マツジュンは持参した鹿撃ち帽と虫眼鏡を手に、意気揚々と曇天のロンドンを歩いて行きました。

ホームズ先生の銅像がお出迎え。

 日本人のにわかファンでこの有様なのだから、ベイカーストリートに到着すればさぞかしマツジュンのようなシャーロキアンで溢れかえっているのだろう、と想像していましたが、意外に彼ほど気合いの入ったファンはほとんどおらず、マツジュンは浮いていました。さしずめ向こうからは「よほどシャーロック・ホームズのことを熟知したアジアのファンが来たのだろうな、しかも正月っぱらから」と思われていたでしょうが、そんなことはありません。なんなら原作よりも「探偵オペラミルキィホームズ」の方が詳しいアニメオタクの男です。ロンドンの人に「君は余程のシャーロキアンなんだね」と言われても「実は私『探偵オペラミルキィホームズ』のオタクでして」と返すよりなく、「オペラ? アニメ? いきなり何の話をしているんだ? 頭がおかしいのでは?」と思われるだけでしょうから、僕は他人のふりをするしかありませんでした。

 シャーロックホームズ博物館はホームズの住処とされていたベイカーストリートB221にあり、ホームズの物語に出てきたアイテムが所狭しと飾ってあるファン垂涎の施設です。

 入館すると一番上の部屋で当時のメイドさん? お手伝いさん? の服を着たお姉さんが施設の概要や部屋に飾られている小物のガイドをしてくれて、「おお、本物の使用人さん(本物ではない)が喋っている…!」と謎の感動を覚えました。ディティールにこだわった演出が非常ににくらしかったです。

 僕はめちゃくちゃ詳しいというわけではありませんでしたが、探偵小説にハマっていた時期があるので原作も読んだことがあり、ある程度「これはあの話のやつ」「これはあの話のやつ」という風に楽しむことができました。

あの犬もこの通り。

 キリッとしたホームズと棺桶に入ったおじさんがツーショットで撮れるというカオスな展示の部屋などで記念撮影をし、一通り博物館を楽しんだ後、我々はお土産コーナーへ向かうことにしました。

 土産も当然、ホームズにゆかりのあるアイテムで溢れかえっていて、僕はロバートダウニージュニアの演じていた筋肉シャーロックホームズが、師匠が好きだったことを覚えていたので、師匠への土産はここで買うことに決めました(色々悩みましたが、スプーンを買いました)。

 親切なことにシャーロックホームズなりきりセットみたいなものも置いてあって、そこである程度金を払えばホームズ然とした出立ちでベイカーストリートを練り歩ける環境も用意されており、「商売上手だなあ」なんてことをマツジュンと話していましたが、ショップを出る際に、こちらを呼び止める男性の声が聞こえました。

 「やあ…君たちちょっと待ってくれるかな」

 「あ、こんにちは」

 「ちょっと聞きたいんだけど…お会計は済んでいるのかな? 店の中でずっと身につけていたけど」

 最初は何を言われているのかわかりませんでしたが、ふと気づきました。マツジュンが自前で用意したホームズコスプレがけっこう様になっているものだから「土産品コーナーのグッズを身につけたまま堂々と金も払わずに店外に出ようとしている」と勘違いされているのではないか、と。

 マツジュンも同じタイミングで気がついたらしく

 「いや、あの…これは私物です」

 と弁明していました。

 男性は最初怪訝な顔をしていましたが、「彼はホームズの大ファンでして、ホテルを出る時からずっとこの姿なのです」と説明すると納得してくれたようでした。

 「そ、そうですか。引き止めてすみません、では…」

 まさか気合いを入れて探偵の格好をしてきたがために、万引きの犯罪者の疑いをかけられるとは予想もしていなかったので僕たちはびっくりしましたが、何とかことなきを得てその場を後にしました。

 しまいに、通りを挟んだ向かいのロックバンドグッズショップでピンクフロイドのアイテムをしこたま購入し、(すごくたくさんのご当地ピンクフロイドグッズがあり、僕は大変興奮してウキウキでショッピングをし、店員のいかにもロック好きそうなパンクな見た目のお姉さんに「いやあ、僕はピンクフロイドが大好きでして」と話しかけましたが「そうですか」と冷たく一蹴され(ただのパンクな格好をしたバイトなだけでロックにはさほど興味がなかったのかもしれない)「そ、そうなんです」とぎこちなく返事をした)僕たちの正月の午前中は過ぎていったのでした。

(その17「マツジュン、探偵の格好をしているのに万引き犯と間違われる事件」終わり)

次回、アビーロードスタジオを訪れたお湯とマツジュンを待ち受ける試練とは!? 「お湯とマツジュン、ロンドンの車道に堂々と立つ事件」など。お楽しみに。

次回 ↓
https://note.com/oyulog08/n/nb34a895506b4

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