見出し画像

【旅レポ】英国道中膝栗毛 ロンドン・ロンドン・ロンドン その⑨

前回 ↓

前回までのあらすじ;年末の浮かれた空気に充てられたお湯は飲酒しすぎ、頭痛と吐き気に苛まれていた。そんな中、過重にスケジュールを詰め込みたがるマツジュンの魔の手が迫りくる。

その18「お湯とマツジュン、ロンドンの車道に堂々と立つ事件」

 もうお昼過ぎを迎える頃でしたが、理由は忘れたのですが昼食は後回しにし、我々は次の目的地であるアビーロードスタジオへ向かいました。

 アビーロードスタジオは、ビートルズの「アビイ・ロード」はもちろんのこと、ピンクフロイドの「The Dark Side of the Moon」がレコーディングされたことで有名な、英ロック好きならマストに訪れるべき聖地です。詳しくはWikipediaをご覧ください(丸投げ)。

 マツジュンもビートルズが好きということだったので利益が一致し、非常に有意義な巡礼となりました。スタジオ内には入ることはできませんでしたが、ショップにて関連グッズをしこたま購入しました。

 ご満悦になった我々は「例の場所」へ向かいます。

 アビーロードで「例の場所」と言えば、もうあそこしかありませんよね。

 そう、ビートルズがジャケットを撮影した、あの横断歩道です。

出典:Amazonより

 「映画けいおん!」では、唯ちゃん達が例の横断歩道の場所だと気づかずにスタスタと通り過ぎてしまうというギャグが繰り広げられていましたが、実際に現場を訪れてみると、横断歩道スルーギャグがいかにフィクションであるかを思い知らされました。

 横断歩道で記念撮影をしようと、並ぶ、人、人、人。ちょっとした人気ラーメン店並みの長蛇の列です。こんな大人気スポットを気づかずに素通りするのは無理があります。

 僕とマツジュンは一瞬、顔を見合わせましたが、ここまで来て記念撮影しない手はありませんので、その人々の列の最後尾に並ぶことにしました。

 並んでいる人たちの人種は、アジア系やアフリカ系、東欧っぽい言葉を喋る方々、それはさまざまで、いかに時代と国境を超えて人々がビートルズに憧れを持っているかを思い知らされました。

 ※

 さて、ジャケットがあまりに有名なのであまり意識していなかったのですが、例の横断歩道は撮影のセットではありません。アビーロードにある、普通の道路なのです。つまり、車の往来があるということです。

 しかも、信号がありません。

 どういうことかというと、記念撮影をする人たちは、車が行ったり来たりする合間を縫って、自己判断で急いで写真を撮らないといけないのです。

 ぼやぼやしているといつの間にか背後に迫っていた自動車にクラクションを鳴らされ、ドライバーに睨みつけられてしまうということです。

 しかも悪いことに、その横断歩道はバスの巡回コースになっているらしく、定期的にバスが通っては高らかにクラクションを鳴らして観光客を蹴散らしていくものだから、なかなかに心穏やかに過ごすことができませんでした。

 「もし自分達の順番にバスや自動車がめちゃめちゃに来たらどうしよう…」

 そんな不安と共に時間が過ぎていきました。

 車の通行待ちなので列も遅々として進まず、寒空の下で30分近く待たされたように記憶しています。

 やっと次が我々の番だ、という頃合いになりました。

 すると、前に並んでいた(たぶん東欧系?の)おじさん達の一行がこちらを向き、

 「すまんが、スマホで我々を撮ってくれんかね。全員で写りたくてね」

 と言いました。

 「もちろん、構いませんよ」

 僕は写真には多少の心得があったので、快諾しました。

 「代わりといっちゃなんだが、君たちの番には君たちの写真を撮ってあげるよ」

 別にその人達を疑っている訳ではありませんでしたが、海外ではあまり他人にカメラやスマホを預けたくはありません。それに、アルバムのジャケットと同じ画角で撮影したかったので、自分でカメラをかまえたくはありました(写るのがマツジュンだけになるとしても)。

 「あー、僕は大丈夫ですよ」

 「じゃあ、お願いします」

 「え!?」

 横からマツジュンがインタラプトしてきて、勝手に撮影をお願いしてしまいました。

 「いや、僕が撮影したかったんだけど…」

 「どうせなら一緒に写ろうよ。せっかく撮影してくれるって言ってるし、スマホなら僕のを渡すから」

 「うーん」

 「それに、お湯と僕が一人ずつ撮ったら時間がかかってクラクションを鳴らされるリスクも上がるし」

 それはその通りでした。構図にこだわりはありましたが、こうなっては仕方ありません。

 ひとまずめちゃくちゃ楽しそうにしているおじさん達の写真を撮ってあげ(アルバムのジャケットの構図を完全再現できた、自信のある一枚が撮れました)、僕らはおじさん達の写真の腕が確かであることを祈りながらマツジュンのスマホをおじさん達に渡しました。

 「…? 君は、何をやっているんだ」

 マツジュンが道路脇でゴソゴソしていると思ったら、ブーツと靴下を脱いでいました。

 「こんな寒空の下で裸足になるなんて、どうかしている」

 マツジュンはしれっとしています。

 「知らないの? アルバムのジャケットはポールだけ裸足なんだよ」

 それは知りませんでした。なんのこだわりだ、と心の中でツッコミつつ、ちょうど車も途切れたところだったので横断歩道に足を踏み入れます。

 ロンドンの車道に、堂々と立った瞬間でした。

 日本でも車道に立ちはだかるなど、あんまりやりません。車が来ないうちにああでもないこうでもないとポーズを決め、おじさん達に合図を送ります。

 「じゃあ、撮ってください」

 「オッケー!!!」

 おじさん達は何回かシャッターを押し、ニコニコで近寄り、マツジュンにスマホを渡しました。

 「じゃあ、良い旅を!」

 そう言って彼らは楽しそうにどこかへ去っていきました。

 思いがけず異文化交流できたことに若干の感動を覚えつつ、急いで車道から退避し、僕は靴を履き直すマツジュンに尋ねました。

 「どう? うまく撮れたかな」

 「こんな感じの写真だね」

 スマホの画面には、全然アルバムのジャケットの構図とは違う、ただ日本人の男二人がロンドンの横断歩道を裸足で渡っているだけにしか見えない写真が表示されていました。

 「あー…あのおじさん、あんまり写真うまくなかったんだ…」

 でも、よいのです。

 その場で国籍を超えたファン同士が、楽しく聖地の写真を撮ることができた。そして、実際にジョン達が歩いた場所で、僕たちも写真を撮ることができた。

 その事実以上に、必要とするものがあるでしょうか。

 「…いや、やっぱ多少、寄せては欲しかったかもしれないな」

 そんな贅沢なことを思いつつ、時間もないため、我々は正月から長蛇の列をなし、クラクションを鳴らされ続けているビートルズファン達を後にし、次の目的地へと向かうことにしたのでした。

なんの変哲もない通りもオシャレだ。

(その18「お湯とマツジュン、ロンドンの車道に堂々と立つ事件」終わり)

その19「焼きそばにしか見えないが、焼きそばの味がしない”何か”を無理矢理腹に詰め込む事件」

 昨晩、ロンドンアイが大花火で大盛況を迎え、観光客が取っ組み合いの大ゲンカを始めたウェストミンスターへ我々は舞い戻りました。

 というのも、このメインストリートでは正月に盛大なパレードが敢行されるというのです。それを見物に来たというわけでした。

 通りはこれまた人につぐ人だかりで、「人がゴミのようだ」でお馴染みのムスカ大佐も言葉を失うだろうという具合でした。

 パレードは景気のいい音楽に合わせて進行し、僕はというと二日酔いで相当グロッキーで、人混みと大音量の音楽にすっかり頭痛がひどくなってしまい、「申し訳ないが早々にここを立ち去りたい」と要望しました。

 せっかくのパレードでしたが仕方がありません。ウェストミンスターからほど近い、大英自然史博物館へ向かうことにしました。

 もう現地時間で15時を過ぎるところでした。僕はフラフラになりながらスタスタと歩いていくマツジュンに着いて行きましたが、フラフラの原因が今日はまだ昼食を摂っていないことにも一因があるのではないかと思いいたり、手頃な店で遅めのランチをすることを提案しました。

 「せっかくだから現地でしか食べられないものが食べたいな」

 僕は「海外の日本食」フリークなところがありました。日本食は日本ではいくらでも食べられますが、海外の現地の人が想像し、これが「日本食だ」と思い込み親しんでいる謎日本食を食べたいという願望を強く持っている男でした。

 好例が、ソーホーで食べたWagamamaのココロ・ボゥルという謎ドンブリです(その2「SOHO 英国式日本食事件」参照)。あんなもん、日本で見たことも聞いたこともありません。

 マツジュンは食に関心のない男だったので僕の意見に軽々しく賛同し、ここ数日間で何度か見かけたチェーン店の「Wasabi わさび」で軽い昼食を摂ることにしました。

 街中でフラリと入ったWasabiで僕たちが選んだのは、Hot Bento(ホット べんとう)の一つ、チキンテリヤキアンドヤキソバヌードルズというお弁当でした。お弁当といえど、店内でいただくことができそうだったので、その場で頂戴することにします。 

 ちなみにWasabiのメニュー一覧がこちら。絶妙な違和感にまみれた日本食の数々にドキドキが止まらない。

https://www.wasabi.uk.com/our-food/

 余談ですが、マクドナルドのテリヤキバーガーは日本限定食らしく、照り焼きというのが日本独自の文化であることが窺い知れます。だからこそ、Wasabiでもテリヤキチキンをチョイスしたというものです。

 いざ、実食。

 焼きそばにしか見えない、そのヤキソバヌードルを口に放り込みます。

 「うん…」

 ほんのりとその料理の風味が鼻をついたのですが…。

 「うーん、うん?」

 なんだ、これは?

 僕は確かに焼きそばのビジュアルをしたものを口に含みました。

 しかし、一向に僕の知っている焼きそばの味がしてきません。なんというか、本当になんと形容すればよいのかわからない、謎の味がただただ広がるのみです。

 強いていうならば、焦げ? の味のような…。

 日本の心、テリヤキチキンも食してみます。

 「うん…うーん、いやこれ焼きそばと同じ味やないか」

 驚くべきことに、焼きそばとなんら味付けが変わらないのです。やはり、強いていうならば、焦げ? の味。

 「なんだ、これは?」

 おいしいとかまずいとか、その次元の話ではありませんでした。ただただ、謎。

 もはや味わうとかどうこうの行為ではなく、カルチャーショックにおののく、という行為に近いイベントである、と悟りました。

 僕らは焼きそばの姿をした“何か”を黙々と胃袋に詰め込み、英国式の日本食の洗礼第二弾をしこたま「味わい」、ごちそうさまをして、「同じ日本食でも、こうも認識に差があるものなのか」という発見を胸に、Wasabiを後にしたのでした。 

(その19「焼きそばにしか見えないが、焼きそばの味がしない”何か”を無理矢理腹に詰め込む事件」終わり)

 次でやっと長かった元旦のエピソードが幕を閉じます。次回その20「アニオタ気質を発揮した日本人、大英自然史博物館を高速で徘徊する事件」。ご期待ください。

次回 ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?