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木村伊兵衛 写真に生きる

木村伊兵衛。
作品をまとめてきちんと観たことがないな、と思って
この展覧会を楽しみにしていた。
2021年に出版された同名の書籍を元にした展覧会。

作家や画家のポートレートや歌舞伎の舞台写真を初めて観た。
スナップ写真のイメージが強かったけど
ポートレートもとてもよかった。
里見弴と泉鏡花のツーショットでは
2人の顔ではなく火鉢にかざした手元にピントがあっている。
気兼ねなく火鉢を囲んで談笑できる2人の仲が強調されているのかな。
河原崎長十郎演じる弁慶の、気迫あふれる瞬間の切り取り方に惚れ惚れ。

初めての渡欧で
パリ滞在時にアンリ·カルティエ=ブレッソンを写したショット、
ブレッソンさんのいたずらっぽい笑顔がたまらなくキュートで好き。
きっと「お互いを写そう」とか言って撮ったのでは?と妄想が膨らんだ。

今回一番の目玉は、
少し前に発見された、生前最後にプリントされた『中国の旅』の数点。
(最初に述べた書籍にも、新たにこの数点に関する内容が追加されたそうだ)
経年劣化でサビが出たり鈍色に光ったりしている。
『王府井の酒場にて』は、その劣化が酒場特有の仄かな哀愁を醸し出しているような感じになっていて
私はとても良いと思った。
もちろん、“それは木村伊兵衛の意図したところではない”という反論はあるだろうけど
実物を目にしたら、この劣化もこの写真が辿ってきた歴史だと突きつけられた。
『国慶節の花火』は、かなり絵画的な印象。
展覧会鑑賞後、ミュージアムショップで書籍を見たけど、書籍に載っていたのとは全然違った。

何気ない日常も、その人らしい表情も、
手軽ゆえに撮れるモノ。
“スマホで手軽に写真を撮れる”
それはあまりに当たり前になってしまって
“小型化したカメラだからこそ撮れるものがある”
という彼の信念は眩しい。


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