小説「光の物語」第22話 〜見習 3〜
「まあ、パトリック?驚いたわ。そんなところでどうしたの?」
サロンのすみに隠れているパトリックに、置き忘れた扇を取りにきたアルメリーアは声をかけた。
少年はアルメリーアに気づいて立ち上がったが、下を向いて顔を隠している。
「どうしたの。泣いていたの?」
少年の顔が涙で濡れているのを見てアルメリーアは驚いた。
パトリックは激しく首を横に振って否定した。
手には何やら白い紙を握りしめている。
アルメリーアは一緒にいたばあやと顔を見合わせたが、やがて少年の背中に手を当てて優しく話しかけた。
「こちらへいらっしゃい。どうしたのか教えてちょうだいな」
ソファにかけ、涙をハンカチでふいてやるうちに少年はぽつぽつと話し出した。
城へ来てしばらくは見るものすべてがめずらしくて楽しかったが、このところ母親が恋しくてたまらないのだという。
折しも今日その母から手紙が届き、家のことを思い出して泣けてきてしまったのだと。
けれど皆の前で泣いては弱虫になってしまうので、誰もいなかったこの部屋で隠れていたのだと言った。
「そう・・・おうちが恋しくなってしまったのね」
少年の短く切りそろえた栗色の髪を撫でてやりながらアルメリーアは慰めた。
パトリックは城にもなじみ、皆に可愛がられているが、まだ小さい男の子だ。
家族から離れての見習い暮らしに寂しさが募る日もあるだろう。
故国を離れて暮らすアルメリーアにもその気持ちはよくわかった。
しょげていた少年はお菓子を振るまわれ、アルメリーアとばあやに囲まれて甘やかされるうちにだんだんと元気を取り戻した。
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