おやつ庵
中近世ヨーロッパの架空の国が舞台。隣国リーヴェニアから嫁いできた王女・アルメリーアと、王子ディアルの物語。政略結婚の相手として出会った二人は、互いの立場を自覚しつつも芽生えた恋を育んでいき・・・。ほんわか甘酸っぱい気持ちになれる、激甘ラブストーリー!
イギリスドラマ「コール・ザ・ミッドワイフ」のレビュー記事をまとめています。
小説「光の物語」の目次と、各話の一言あらすじです。 💕があるものはラブいシーンあり😍 先読みはこちら→ブログ「おやつ庵」 1. 婚約 1 王子と王女、初対面 2. 婚約 2💕 思いがけないキス 3. 婚約 3 ばあや、怒る 4. 婚約 4 従兄弟のマティアス登場 5. 婚礼 1 婚礼の日 6. 婚礼 2 祝宴と姫君 7. 婚礼 3 王子の葛藤 8. 婚礼 4💕 婚礼の夜 9. 春 1 新婚の二人 10. 春 2 新婚
「なんて・・・賑やかなんでしょう」 ナターリエは半ば呆然とつぶやいた。 初めて見る王都の広場には人々が行き交い、店からは呼び込みの声、元気な女性たちが店を切り盛りする姿もそこここで見られた。 「まずは見て回りましょうか。何か気になる店があればお知らせを」 見る物全てが新しいナターリエはマティアスに導かれるまま歩く。 家出をした日にも王都を歩きはしたが、暗い明け方にびくびく通ったのと同じ街とはとても思えなかった。 外出の日、マティアスは彼女を王都のマーケットに連れてきた。 広
「なんだ、もうシエーヌを追い出されたのか?」 王城に姿を現したマティアスをディアルが笑って迎える。 「人聞きの悪い・・・」 久しぶりに会う従兄弟の軽口にマティアスは顔をしかめた。 マティアスが王都に来たのは、シエーヌの現況と新たな国境線の守りについて話し合うためだ。 水場を隣国に奪われぬよう今のうちから守りを固めておく必要がある。 しかし国を挙げた道路整備は始まったばかり、大きな街道から作業を進めないと人手が足りなかった。 「まずは主要道ではないか?」国王グスタフがマティ
「さて困ったな・・・あなたがこんなに忙しくしていようとは。余計なことをしてしまったかもしれない」 マティアスは考え込むような仕草をした。 「え?」 ナターリエはさっきから彼が抱えている袋が気になっていた。 まるく膨らんだずだ袋が彼の身なりにどうもしっくりこない。 それに、なんだか動いているような・・・? 「まあ!」 袋からひょこっと顔を出した白猫に彼女は目を丸くした。 「あなたに会いたそうにしていたのでね、連れてきたんですよ」 驚きのあまり言葉もない彼女にマティアスは笑って
数日後に迫るクリスティーネの婚礼に出席するか、ナターリエはいまだに悩んでいた。 婚礼は王都の大聖堂で行われることになっている。 この修道院からも近いところだから、出席するならばただそこへ行けばいいのだ。 そしてクリスティーネにお祝いを伝えれば。 それだけのことなのに、外に出ることへの漠然とした怖さが拭えない。 「ナターリエ様、これはなんて読むの?」 彼女が読み書きを教えている少女の一人、ニーナが横から聞いてきた。 「ナターリエ様、私も、私も教えて」 他の少女たちも口々に声を
アルメリーアは故郷から届いた大きな包みを前にため息をついていた。 形からして中身はおそらく絵だろう。母が描いた・・・。 思わずふたたび大きなため息がもれる。 「姫様、ご覧にならないので・・・?」 ばあやが傍から遠慮がちに尋ねる。 「そうね、見ないわけにもいかないわよね・・・」 アルメリーアは答え、包みを解くようにと合図した。 現れたのは故郷の城を描いた風景画だった。 母がいつもいたサロンから庭に出る大きな窓と、その先に見える庭の景色だ。 このサロンもこの窓も、アルメリーア
マティアスは王都への旅支度を進めていた。 シエーヌの近況報告と、新たな懸案事項である湖の守りについて詳しいことを打ち合わせるためだ。 急ぎの旅にはなるが、今年は暖冬で雪が遅いことが出立を後押しした。 「できるだけ早く戻るつもりだが、それまで留守を頼むぞ」 家令と打ち合わせをしながらマティアスは言う。 「お任せくださいませ」 この家令は長年ベーレンス家に仕えた男で、亡くなったベーレンス夫妻やナターリエのこともよく知っていた。 「ナターリエ様はお元気でお過ごしでしょうか」家令
「私、出席できません・・・」 クリスティーネの婚礼への招待を知らされたナターリエは、小さくかぶりを振ってそう言った。 「まあ、どうしてでございます?」 彼女の複雑な心中を察しつつ、アーベルはあえてざっくばらんに尋ねる。 「出席して気分を変えられては?うんと美しく装って・・・」 「だって、あんなことがあった家の娘ですもの。お祝いの席になんて・・・不吉ですわ」 ナターリエは泣きそうな声で言葉を絞り出した。 「不吉?」アーベルはあっけに取られたように聞き返した。「なにが不吉なので
行儀見習いの侯爵令嬢、クリスティーネの結婚が本決まりになった。 相手のラッツィンガー家との結婚交渉もまとまり、国王の許可も下り、いよいよ本格的な式の準備に取り掛かる。 「婚礼衣装のことが頭から離れなくて・・・」クリスティーネは華やいだ様子で言う。「母は心配いらないと言いますけれど、気になりますの・・・だって、リヒャルトに綺麗だと思ってほしいんですもの」 「彼はもちろん思ってよ」アルメリーアは苦笑する。「心配いらないわ」 クリスティーネはさっきから同じようなことを10回は言っ
「ナターリエ様・・・ナターリエ様」 ある夜、小さく自分を呼ぶ声でナターリエははっと目を覚ます。 寝台の横には、彼女が読み書きを教える少女の一人が寝巻き姿で立っていた。 「まあ、ニーナ・・・どうしたの?」 窓からの月明かりでよく見ると、少女の顔は涙で濡れている。 「怖い夢を見たの・・・ナターリエ様、一緒に寝てもいい?」 まだあどけない少女は手で涙をこすりながらそう答えた。 夜の修道院は真っ暗だ。 寝室を抜け出し、自分の部屋からここまで来るのも怖かっただろうに・・・。 ナターリ
「マティアスからの報告によると、ベーレンス領の混乱は思ったほどではなさそうだ」 ディアルは書斎でアルメリーアに語りかける。 「まあ、よかったこと」 「ただ、別の懸念はあるようでね」 「別の・・・?」 「ブルゲンフェルトだ。山あいの湖の先が国境だが、ここの守りをどうするかだな。平時に近隣住民が行き来するのは問題ないにしても・・・」 アルメリーアは小さく頷きながら聞く。 「ここを大軍が通るのはまず無理だが、水場欲しさに小競り合いを仕掛けてくることはありうる。あの好戦的な国のことだ
マティアスはシエーヌの地を知るため、家臣の案内で領内の各地を視察した。 この地は国内でも気候が厳しく、山や岩場も多い。 人々は無口で警戒心も強いが、いったん親しくなると情が厚いようだ。 農作物がとれるのは点在する低地だけで、主な農業は山岳地での酪農なのは他の地域と同じだ。 国をあげて始めた土地整備が進めば、農作物の収穫量ももっと上がる。 早くその日が来ることをマティアスは期待した。 険しい山道を越え、隣国ブルゲンフェルトとの国境近くにある湖にも足を伸ばす。 この湖はシエー
ナターリエは修道院での静かな暮らしを続けていた。 日々を祈りと日課の中で過ごし、時には修道院の畑を手伝ったり、アーベルに教わって編み物をしたりした。 華やかな王城での暮らしとはかけ離れていたが、彼女はこちらの方が性に合うと感じる。 淡々と過ごすうち、本当に修道女になるような気さえしてくるほどだった。 アーベルや修道女たちに見守られ、両親と恋を失った打撃からも少しずつ回復してきた。 悲しみに打ちのめされて動けない日も徐々に少なくなっていった。 時には涙で眠れない夜もあるが・・
シエーヌに到着したマティアスはさっそくベーレンス領の現状をつかみにかかる。 彼の身分と魅力はそれに大いに貢献した。 女性陣はすぐに彼を気に入ってくれたし、ベーレンス家の親族や家臣たちもマティアスには礼を尽くさざるを得なかった。 王家の管理が入るのは疎ましいが、彼らにとってはベーレンス家の所領が安堵されただけでも儲け物だったのだ。 それだけ今回の出来事は衝撃的だった。 ベーレンス伯爵夫妻の事件はできる限り内々に処理したが、召使いの中には事件を目撃したものもいる。 彼らをいたわ
「しばらくですね」 王立修道院へナターリエを訪ねたマティアスは、応接室に現れた彼女に声をかける。 「ここでの暮らしはいかがです?もう慣れましたか」 「ええ、アーベル様もいてくださいますし・・・とても静かで落ち着きますわ」 ナターリエは伏し目がちに小さく答えた。 「シエーヌの管理にお行きになるとか・・・」 シエーヌとはベーレンス領がある地方の名だった。 「ええ、王のご命令で。しばらくは王都と行き来することになりそうです」と彼女に微笑みかける。「何かお家にご用があれば承りますよ
あるじを失ったベーレンス家の領地は、ひとまず王家の直轄となった。 いずれはナターリエが結婚して後を継ぐことになるが、それまでの間は代理で運営するものが必要だ。 領主不在が続けば権利を主張するものが出てきて騒動のもとになる。 またベーレンス家の領地は隣国ブルゲンフェルトとの国境にほど近く、乱れたすきをついて野心など起こされては厄介だった。 「マティアスよ、おまえに任せる」 国王グスタフは任命書を渡しながらそう言った。 「困難な仕事だが、おまえならやれるだろう。よろしく頼むぞ」