小説「光の物語」第119話 〜王都 5 〜
「彼女をどう思います?」
ダンスの開始と共に人々はなんとなく散り散りになり、マティアスはナターリエに尋ねる。
それは少し離れたところで青年と話し込むブリギッテのことだとナターリエにもわかった。
「どう・・・とおっしゃいますと・・・?」
「彼女はあなたのご友人ですかな?あなたはそうお思いに?」
「友人というほどの関係では・・・今年社交界デビューした子で、よく話しかけてきますの。私に憧れていると言ってくれるのですが・・・」
疑問は抱いているらしいナターリエの様子にマティアスはやれやれと首を振った。
「彼女の言動をそのままテレーザに伝えてごらんなさい。もちろんアーベル殿にも。対策を練りたいと」
彼の言葉にナターリエは戸惑いの様子を見せ、マティアスはふっと笑みを浮かべる。
「これから領主として生きていくためにも、それなりのやり方を身につけないとね。本での勉強より大切なことかもしれない」
いたずらっぽい彼の笑顔にナターリエはうっとりしそうになり、それを隠すため小さく俯いた。
マティアスは今回も自分を守ってくれ、何かを教えてくれようとしている・・・でも、何を?
なんとなくわかるような気もするのだけれど・・・。
「失礼、ナターリエ嬢にダンスを申し込んでも?」
ナターリエの崇拝者の一人が現れ、彼女は彼とマティアスを交互に見てためらう。
だがマティアスは口元だけで笑い、彼女が青年と踊ることに意義はない様子だ。
ナターリエは落胆を押し隠して青年の手を取る。
ダンスフロアに出ていく二人を見送りながらマティアスは思う。
彼女と自分は似ている・・・暗い家庭に生まれ、健やかな人間関係を知らずに育った。
だが周囲と切り離され、親しい人間をほとんど持てなかった彼女には他人に対する判断基準が乏しいのだ。
そんな彼女に似合いなのは、明るい家庭で育った屈託のない男かもしれない。
胸の中にくすぶる苛立ちから目をそらしつつ、マティアスはそんなことを考えていた。
「じれったいな」
その様子を見ていたディアルはアルメリーアにこぼす。
「管理者としては当然のお振舞いよ。ナターリエは夫を選ぶためにここにいるのですもの」
「ああ。だが彼女に気があるならあるまじき振舞いだ」
じれじれした様子のディアルにアルメリーアは苦笑した。
「気がないのかもしれなくてよ・・・?」
そうだとしたら、ナターリエには気の毒なことかもしれないが・・・。
マティアスに片思いしながらでも着実に社交をする方が、ただ時間を費やすよりもいいだろうとアルメリーアは思う。
「あいつとは長い付き合いだ。気がなさそうな時に限って気があるのさ」
「だとしても、誰とも本気になりたくないのかも」
恋人を亡くした後のマティアスは訳知りな貴婦人たちと気楽な関係を楽しんできた。
まだその生活を手放したくないということだって十分あり得る。
「随分手厳しいな」
不満げなディアルの腕をアルメリーアはそっと撫でる。
「そうじゃなくて、あの方のお心がわかりませんもの・・・もしかしたら、誰も愛さないことをお望みなのかもしれませんわ」
たしかにその可能性はあるが、これが従兄弟が幸せになるチャンスなのだとしたら・・・ディアルには歯がゆくてならない。
「確かめるいい方法がある・・・きみが許してくれるならだが」
「まあ、なんだか怖いわ・・・どんなことかしら?」
「大したことじゃないよ。ただ・・・」
ディアルが耳打ちする計画にアルメリーアは目を見開いた。
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