見出し画像

小説「光の物語」第24話 〜降誕祭 1〜

降誕祭の季節になった。
社交のために王城を訪れる諸侯も増え、城は日に日に賑々しく華やかになってくる。


「妃殿下、あのかた素敵じゃありませんこと?」
宮廷に出入りする貴公子たちにクリスティーネは少女らしい胸をときめかせていた。
その様子を微笑ましく思いつつ、ふと以前聞いた噂をアルメリーアは思い出した。


「いやなことだけれど、殿方の中には誘惑者も混ざっているという話だから・・・
結婚前の淑女にふさわしいお付き合いをしてね」
「まあ、妃殿下ったら・・・」クリスティーネは赤くなり、気恥ずかしさに耐えかねて逃げ出してしまった。


大広間を行き来する貴公子たちを見るともなく見ながら思う。
未婚の娘を誘惑し、身籠らせて逃げる・・・そんな男がこの中にいるのだろうか?
そう思うとアルメリーアの心は暗くなる。



「アルメリーア」ディアルが背の高い青年と連れ立って現れた。
その表情からして、一緒にいる人物とはそうとう親しい間柄のようだ。
「妃殿下、お久しゅうございます」
胸に手を当ててお辞儀をする姿には見覚えがあった。
「まあ・・・マティアス様?」


婚礼の時にディアルの付き人をつとめていた彼の従兄弟だ。
言葉をかわす機会はほとんどなかったが、いたずらっぽい笑顔が印象に残っていた。


「妃殿下にはますますお美しく。再びお目通りがかない、この上ない喜びに存じます」
マティアスはアルメリーアの手に挨拶のキスをした。
「マティアス様もお元気そうでなによりですわ。しばらくお会いできませんでしたわね」
「王子殿下の命にて遠方での任にあたっておりました・・・
とはいっても、じっさいは暇をつぶすのが仕事というありさまでしたが」
ディアルもアルメリーアも笑いだした。


「ご冗談ばかり」
「いえ、まことに・・・。私の魅力が妃殿下におよぼす影響を殿下はご心配なされたようで。
田舎に追い払われて泣き暮らしていたのですよ」
「なにを言ってるんだ」
ディアルに横から小突かれてマティアスは笑う。


アルメリーアも笑い、夫と従兄弟の仲の良さに憧れを抱いた。



降誕祭 2へつづく


見習 4へもどる


第一話はこちら

この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?