題名読書感想文:36 誤解は動物の描き方でも船の衝突でもできる
題名をチラ見しただけで読書感想文を書きあげる離れ業、それが題名読書感想文です。アホらしくて他の誰もやらない離れ業とも言います。
今回のテーマは「まだできる誤解」です。以前、題名読書感想文で他の意味に誤解されやすい題名をご紹介いたしました。
そして、頑張れば誤解できる題名がまたいくつか見つかりましたので、またここでご紹介いたします。
まずは挨拶代わりに「ジェニファー・ベルのたのしい動物の描き方」です。
ジェニファー・ベルさんはこの本の作者でございます。それはともかく、ポイントは「たのしい動物の描き方」です。「たのしい」がどこにかかっているかで、意味が大きく変わるわけで、すなわち誤解する余地が出てくるとも言えます。
普通は「たのしい『動物の描き方』」でございまして、「動物を描くのは楽しいですよ」と訴える題名になっていると思うんです。ただ、この題名は「『たのしい動物』の描き方」とも読めるんです。見てるだけで楽しい動物の描き方をレクチャーする本にも思える。
当然ながら本の題名は著者や編集者など、制作にかかわる人たちが一生懸命考えた結果、出来上がるものでございます。緻密な計算が組み込まれているものもあるでしょう。それでも、誤解を挟める題名が出てきてしまう。題名を考えるのも楽ではありません。
こんな題名もございます。「いまから始める地方自治」です。
地方自治とは、都道府県や市区町村といった地方自治体が行う政治を指す言葉です。
上記題名を素直に読むならば「地方自治の勉強を今からやってみよう」という風な意味にとらえられると思うんです。「地方自治に今からかかわってみよう」とか。ただ、この題名だと「地方自治を今から始めよう」という意味にも読み取れるんです。
「地方自治を今から始めよう」なんて誘いは、今まで地方自治が存在していない風に聞こえて仕方がないんです。つまり、地方で政治らしい政治がおこなわれていないという、かなり混沌とした状態で出てきた、現代日本では極めて特殊な誘いなのではないかと。
行政が機能していないため、その辺の暴れん坊がやりたい放題しているような、たまに漫画やアニメで見る悲惨な状態になっている。そこへ民主主義の可能性を信じる者たちがコッソリ集まってこう言うわけです。「いまから始めるぞ、地方自治を」と。
地方自治の入門書だったはずが、妙にドラマチックなものになってしまいました。
続いての題名はこちらです。「ちょっと待て自己破産」です。
副題の「借金を合法的に消滅して、人生をやり直す法」から考えても、上記題名は自己破産するのを「ちょっと待て」と言っていると思うんです。「自己破産以外にも手段はあるぞ」と言いたいはずなんです。
でも、これだと自己破産に向かって「ちょっと待て」と声をかけているようにも読めるんです。「ちょっと待てよ、自己破産。1杯目からスピリタスじゃあ、すぐ潰れるぞ」なのか、「ちょっと待てよ、自己破産。ここに留まって救助を待った方がいいだろ」なのか。とにかく自己破産にどう待ってもらいたいのかが分かりませんが、そういう風にも読める。
ちなみに、先ほど「ちょっと待て」で検索したら、おびただしい量の「相席食堂 ちょっと待てぃ!!ボタン」が出てきました。
自己破産も千鳥の音声が出てくるボタンを押しまくったら待ってくれるんでしょうかね。
意味不明な話になってきたところで、次の題名です。「ロールズとデザート」です。
ロールズと言えば、哲学者のジョン・ロールズと相場が決まっているようです。代表作は「正義論」でございまして、これによりロールズは政治哲学の分野で20世紀を代表する人物とまで評されています。
そして、ここでいうデザートは「desert」、すなわち「砂漠」などの意味で知られる単語です。ただし、「desert」は「当然の報い」のような意味もあり、更に転じて「功績」という意味でも使われるようです。
しかし、「ロールズとデザート」なんて、ロールズと一緒にプリンでも食べてるかのような題名に見えて仕方がありません。20世紀を代表する政治哲学者とプリンなんか食べて楽しいのかどうかは知りませんが、とかく日本語では「デザート」は砂漠か甘いもんかの区別がつきづらく、しばし誤解を与える表現になってしまいます。
最後はこちら、「船舶衝突法」です。
アマゾンの書籍説明を確認すると、条約や判例など、船舶衝突にかかわる法律について書かれた本のようです。船も時に衝突しますし、互いに異なる船籍同士でぶつかる場合も考えられる。そうなれば、損害賠償なり何なりと法的な問題が出てくるわけで、そこに特化した本なのでしょう。
しかし、題名の「法」が誤解を呼びます。この題名ですと船舶を効率よく衝突させる方法が書かれている本のようにも読めるんです。もしそんな本が存在したとすると、内容はだいぶ恐ろしいことが書いてあるでしょう。「とにかく船に向かって舵を切れ」とか「霧などの自然現象を活用せよ」とか、効果的に海難事故を呼ぶ行為しか記されていない。
そんな恐ろしい本じゃなくてよかったと我々は神に感謝すべきなのかもしれません。
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