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「少し手が慣れてきてからかゝりましょう」

 『美しいレース編』から編んだ作品の紹介を続けさせていただきます。このドイリーはどことなくクンストレース風じゃないでしょうか?

デザイン・石原政子

 レース針の8号ではなく10号という、さらに1段階細い針を使って編んでいます。本の中でそう指定してあったからですが、10号針を使ったのはこのときが最初で最後ではなかったかと思います。使用糸は 「Anchor Mercer Chrocet 80 Col.1 (白)」……どこで買ったか忘れました。忘れるくらい昔ということです。
 記録を見直すと、これを編んだときは39歳でした。まだ老眼ではなくて、こんな細い糸が裸眼で編めたのです。今はもっと太い糸でも無理です。「こんな時代もあったんだな〜」という記念品です。
 花びらの中心に細い筋が通っていることにご注目ください。この部分で常に減目してあります。そして長編みの各段ごとに微妙な位置で増目して、花びらの膨らみを作ってあります。ふつうは花びらの輪郭のところで増減しますけれどね。編み図の一部をお目にかけましょう。

 これはなかなか高度なデザインですね。作品の説明文にはこうあります。

細い糸で編んだ美しい小物敷。長編の花びらの形がくずれないように編んでいたゞきたいもの。少し手が慣れてきてからかゝりましょう。

講談社『婦人倶楽部』昭和39年4月号付録
『美しいレース編』より

 つまり「編むのはけっこう難しいよ!」と書いてあるわけです。子どものころはこれを読んで、まるで「畏敬の念」みたいな感情を抱いていました。だから、編み上げるのに成功したときは「自分も大人になったもんだ」という感慨にふけりました。

本の中の写真です

 最近のレース編みの本には、なかなかこういうチャレンジングなデザインは載っていません。その意味でも貴重なものだと思います。
(つづく)


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