DESIGN : 日本酒・三好【古代の辛口 - 九十の黒】
以前もOUWNのnoteで紹介した日本酒の三好。前回は5年計画のイヤーボトル【HANA】について話しましたが、今回もまた新しい三好が誕生します。
今までの味わいとはガラッと異なり、デザインもチャレンジングなものになりました。
精米歩合90 × 苦渋の過程で作る日本酒
石黒 : スタートは今年の春。三好の蔵に行った時に、「今度はちょっと難しいお酒を作ろうと思ってます」って話を三好さんから聞きました。精米歩合が90で10%だけ殻を落とす、使用するお米をほとんど磨かない手法で新しい日本酒を作る、と。
ー 通常の三好(GREEN・BLACK)は50%精米ですよね。
石黒 : いつものは大吟醸ですね。
他にも市場にある、全然磨いていない日本酒だとしてもせいぜい80%とかじゃないかな。90%で飲みやすいものを作るっていうのはかなり難しいみたいで、三好さんも周りの蔵の人に「大丈夫?」って心配されたって言ってました。
ー お米の素材感が残って、渋みやえぐみが出やすいんでしょうか。
石黒 : そうですね。精米しないことでお米が水を吸わなかったり、それぞれの工程時間も読めず、作り方も通常とは異なって本当に苦労したみたいです。新しいチャレンジをするのってワクワクしそうな気もするけど、三好さんの話を聞いてるとすごく大変そうで。それでも「こういうのが新しい発見に繋がるから」って話していて、モチベーションが高くてすごいなと思いました。
石黒 : 同時にネーミングについてもディレクターの村上さんと一緒に考えて、精米歩合90って部分を立たせたいから【九十の黒】っていう名前を提案しました。[精米歩合90]と、作る大変さでの[苦渋]って言葉をかけて販促していったらどうかな、と。あえてつらいってことを言っていく。
三好さんが「昔ながらの製法を使いながら現代版にアレンジにして作ってる」って言ってたので、そこから[古代]ってワードが出て、【古代の辛口】というワードに落としていきました。商品名が九十の黒、味が古代の辛口って感じですね。
グラフィックと色味も挑戦的に
石黒 : その話を持ち帰って、ラベルのデザインを考えました。精米歩合90%、黒ずんだお米、作る葛藤や苦しみ…っていうキーワードから、なんとなく全体的に「黒」でいこうって決めてました。
逆にすごく磨かれたもの、大吟醸(精米歩合50%以下)ってスッキリした印象だから、白いラベルのものが多い。今回は作り方やコンセプト、商品との親和性を求めると黒だなって。ちょっとおどろおどろしい感じにしたいと思って、デザインを考えていきましたね。
ー このモチーフは何を表しているんでしょうか。
榎本 : これは人がお酒を酌み交わしているイメージです。
石黒 : 一般的な綺麗なグラフィックってよりは、「なんだこれ?」みたいな、ちょっと心がざわざわっとするようなイメージ。昔のオリンピックやスポーツセンターとかにありそうな人物のグラフィックで、黒ベタで密度があると、かわいいとはまた違う感情が生まれるなと。グラフィックの探求としても榎本さんと色々作ってみて、これがコンセプトにフィットすると思いました。人なのかも分からないような、ちょっとお化けみたいにも見えるような。一見なんだか分からないから、不気味さがある。
ー なんだかちょっと夢に出てきそう…(笑)ちょっと文字のようにも見えますね。
石黒 : 榎本さんと同じこと言ってる(笑)ちょっと不気味だよね(笑)。
こういうデザインって、角度を合わせたり対称的にすれば良いわけじゃないし、デザインのセオリーが通じないから、感覚的なセンスが問われてくる。ラインの美しさや余白の取り方を細かく調整したよね。
榎本 : 規則的じゃないので難しかったですね。真ん中には雫を置いていて、雫はくり抜きで瓶の色が見えるようにしています。
石黒 : 他の三好シリーズも真ん中に雫があるので、それをキーにしています。今回はチャレンジングな商品で、みんなが手に取りやすいものではない。三好を既に飲んだことがあったり、どちらかと言えば玄人の人が飲んでみようかなって思うもの。生産も限定数で常に流通していくってものではないから、ラベルも挑戦的なデザインになりました。
マットな黒いボトルに黒い紙、黒い箔押し。紙はできるだけボトルに近い色を選んだので、正直くり抜いてもほとんど分からない。だけど雫はお酒を表しているから、そこを見せたくてくり抜きにしました。一升瓶は200本くらいの生産数なので、思い切って箔もマットに。マットにすると指紋もつきやすいけど、光をあまり感じないものにしたかったんです。720mlの方はもう少し流通するので、いろんな場所を経由することを考えて箔はツヤにしました。
ー 写真だと分かりづらいかもしれませんが、直接見るとくり抜かれているのが分かります。
石黒 : 三好さんがこの日本酒を作るとき、「どうなるか分からなくてドキドキしてる」って言ってて。見えない雫を演出としてデザインに入れることで、作り手もどうなるか見えないって部分が表現できていると思います。
ー ラベルの端にかなり長体の文字がありますね。
石黒 : 激見にくいよね(笑)。この絵柄をいかに強く、おどろおどろしいように見せられるかって考えたときに、字も潰れてるくらいで絵が象徴的な方が良いんじゃないかなと思いました。
石黒 : ラベルに入っている平仮名の「から」は、辛口の意味です。ほぼ出回らないと思うけど、「あま」「うま」もあります。
ー【古代の辛口】の「の」は片仮名のノですか?ラベルは平仮名にも片仮名にも見えます。
石黒 : ラベルは片仮名ですね。【古代の辛口】ってワードはディレクターの村上さんが出してくれて、いくつかのコピーライティングで見せてくれたときに、平仮名も片仮名も入れてくれてたんだと思います。それでバランスを見て、平仮名だとちょっと甘さが入るなと思い、差別化の意味も含めて○にノを入れました。
石黒 : 最終的に完成したものを見て、コンセプトがしっかり乗って、すごく良いデザインになったと思います。ここまでコンセプトが乗った日本酒って意外とないんじゃないかな。作りもデザインも一貫してる。三好シリーズは大体コンセプチュアルだけど、今回は一層際立っている感じがします。
気になる味わいは?
ー 味は実際に飲んでみていかがでしたか?
榎本 : 想像よりもスッキリしていて、かなり辛口です。
石黒 : お米の味をダイレクトに感じるのかなと思ってたけど、辛さが立ってる感じだよね。香りも独特な抜け方があります。
自分と三好さんがよく行く日本酒のバーがあって、そこでお店の方と一緒に試飲させてもらったとき、お店の方も「精米歩合90なのにスッキリしてますね」って言ってました。やっぱりそれくらい美味しく作るのが難しい中で、これだけスッキリしてるのがすごいんだと思います。
お店でストレート以外の飲み方も試させてもらったんですが、炭酸や水で割ったりかぼすを絞ったりすると、重みが和らいでより飲みやすかった。
ー どんな料理が合うと思いますか?
石黒 : 三好さんは3杯目とかに飲むのがおすすめって言ってたかな。イタリアンで言うグラッパみたいな、食後酒のイメージが近いと思います。ちょっと癖のある味で、ナッツのようなイメージもあるので、食前酒のような飲みやすさじゃない、ちょっと強めのもので香り高くシメる的な。シェリー酒や、ジンのようなカクテルの雰囲気も感じました。食後にぴったりだと思います。でも炭酸などを入れれば、またそれはそれで食中としても面白いと思います!ストレートはガツンとくるって感じる方もいるのかな。
榎本 : ガツンとくる、が一番伝わりやすいかもしれないですね(笑)
石黒 : 【古代の辛口 - 九十の黒】は、12月15日に発売しました。多分720mlはオンラインでも買えるんじゃないかな。そんなに数が多くないから、すぐなくなっちゃうかもだけど…
いつもの三好とはだいぶ違う味わいになってると思いますよ。デザインも合わせてお楽しみください!
三好 【古代の辛口 - 九十の黒】
発売時期 : 2022年12月15日
◯ 詳細は三好のSNSにて
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聞き手 ・ 執筆 : 星成美