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DESIGN : ベネッセアートサイト直島 冒険ブック

「ベネッセアートサイト直島 冒険ブック」は、小学校中高学年向けに作られた鑑賞キット。その名の通り直島はもちろん、豊島、犬島や美術館以外の場所でも取り組めるワークシートがファイリングされています。それらを収納できるショルダーバッグもセットになっていて、夏休みにもぴったりなブックが仕上がりました。

「考えて知る」冒険ブック

石黒 : ベネッセアートサイト直島は、岡山に本拠を置くベネッセコーポレーションが、瀬戸内海に浮かぶ直島・豊島・犬島で展開する、現代美術に関わるプロジェクトです。あの辺りはアートな場所として今でこそ有名ですよね。このブックは今年7月から現地で取り扱いが始まったのですが、これを持って島を周り、色々なアートをもっと知ろう、みたいなプロジェクトですね。

出井 : 小学生を対象にした商品なのですが、小学3年生までに習う漢字が使われていて、それ以上の学年で習う漢字には振り仮名がついています。これを持っていればアートを身近に感じることができたり、より深く掘り下げられるようなブックですね。現地の美術館などで購入できるのですが、課外活動の一環として購入してくれた小学校もあるみたいです。夏休みの自由研究とかに使ってもらえたら良いですよね。

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石黒 : ブックの内容としては、島にあるアート作品を知るということもあるのですが、説明というよりも自分で考える内容がほとんどです。直島から行く人が多いと思うので、最初に船で到着したとき、海の色はどんな色ですか?とか、波の形を描いてみよう、とか。そこにあるものを探して書いたり、自分で考えたり。
なるべくスペースを空けているので、自分たちでどんどん書き込んでスクラップブックみたいにしていってほしいなって思います。あと、ポケットやチャック袋もブック内に付いているので、「葉っぱを入れよう」とかそういう時に使ってもらえます。どういう風に使って、どんな風にブックが作られていくのか楽しみですね。

ー 石黒さんと出井さんは、実際にこの場所に行ってみたことはありますか?

出井 : あります!このブックを作ってからはコロナのこともあって行けてないですが、私は岡山出身なので、犬島は実家からめちゃめちゃ近くて。すぐ港に行って、船で10分くらいで着くような。幼稚園の時から行っているので、身近に感じている場所ですね。なので私としては近い場所でしたが、東京からでも行こうと思うくらい、観光地として良い場所だと思います。

石黒 : デザインとかアートをやってる人はもちろん、いろんな人が楽しめる場所だと思います。見てもよく分からないものがあったりしても、そういう時にこういうブックがあったら知るきっかけになりますよね。

厚みを作るのはこだわりの積み重ね

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ー 作るときにこだわったのはどんな部分ですか?

石黒 : この本に対しては、こだわったところがたくさんありますね。小学生向けのものなので、ストイックにかっこいいってよりは、分かりやすさだったりとか、見ていて楽しい、ワクワクするとか。そういったところは絶対重要だなと思っていました。結構そういうのって難しいんですよね。

出井 : そうですね。ちゃんと見せながら、どうやって仕掛けとか面白さを入れていくのか。

石黒 : 最初のページの名前や日付を書くところは、普通だったらスクエアにしちゃうと思うんです。そこを雲形にしたり、海の中の魚にしたり。瀬戸内海にちなんで、全体的に海を意識したデザインになっています。
表紙・裏表紙も、表紙で文字になっているところが裏では船になっていたり、船の窓も表紙とリンクして「BOOK」と読めるようになっていたりとか、間違い探しみたいな感じで、ちょっとした気づきの部分は意識してますね。

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石黒 : カバー部分は海をイメージしていて、深くなればなるほど濃くなっていく。ここも直島、豊島、犬島の地図になってるのですが、海の中をイメージしているから、珊瑚礁っぽくなっていたり。見方を変えると、ちょっと地球のようにも見えたりとか。そういう遊び心やアイデアを、1ページずつ考えましたね。

出井 : 私がOUWNに入って驚いたのがこういうところなんです。
この、文字がカーブしてるところもそのひとつ。その時はファッションカタログをやっていて、スタッフクレジットをこれと同じようにカーブさせて入れてたんですよ。私はそれまで普通にまっすぐ入れてデザインしてたんですけど、石黒さんがモチーフに合わせてカーブさせていて。そういうのってありなんだ!って思いましたね。ポスターとかだったら分かるんですけど、「読む」部分でも、そういう遊び心を入れると面白くなるなって。それをよく覚えています。

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石黒 : 1つ1つ考えていくのは結構大変なんですけど(笑)、やらないとクオリティが上がっていかないっていう部分でもある。なのでそういうところに時間をかけて、最後までアイデアを盛り込んでいます。

出井 : 最初はカバーの海の色もベタのブルーだったり、水深も入ってなかったりとか、線もカーブしてなくてまっすぐだったりとか。でもやっぱりちょっとずつあしらいをつけることで、クオリティが上がっていくのを感じました。それも、ただのあしらいじゃなくてそれぞれに意味を持たせることで、物として厚みが出てくると思いますね。

石黒 : 袋の方も、「とり」や「ふね」を平仮名で入れてみたり、魚が一匹だけ違うのがいたりとか。気づく人は気づくし、「スイミーみたいだな」とか連想する人もいるだろうし。

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石黒 : あとはこの「バイオマスマーク」とか、入れなきゃいけないマークをどうやって入れるのかっていう部分。普通だったら右下とかに並べて入れちゃうと思うんですけど、そういうのはあんまり良くないなと。入れなきゃいけないから入れるっていうのがすごいダサい発想だと思っていて、要素の中に入れ込んで、デザインの中にちゃんと取り入れたい。ここは最後の最後まで突き詰めた部分ですね。

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ー これを入れる場所、かなり悩みそうですね…!

出井 : めちゃめちゃ悩みました。しかも最初は1つだったんですが、後からもう1つマークが来て(笑)。結構目立つのですごく悩みましたね。
あとはこういう遊び心をプラスするにあたって、心の余裕が必要だなと思いした。楽しみながら考えないと良いアイデアも出てこない。なのでこれはそういった面でもバランスよくできて良かったです。

ー 今回は中ページも全てやってるんですよね。デザイン部分はやっても、中ページの教材部分などはもらえることの方が多いのかなと思うのですが…

石黒 : そうなんです。全体のデザイン部分だけ担当する時もありますが、今回は本当に全てのページをやらせていただきました。アートにまつわるブックということもあって、全体のデザインがリンクしたりとか、面白い構図にして作りたいということもあり、まるっとやってほしいと言ってもらって。普通だったらこういう「?」や「!」マークもここまで大きくしないと思うんですが、ポイントにすることでグッと目を引いたり、「煙突がいくつあるか数えてみよう」って部分では煙突の形にした枠を置くとか。デザインから見る発想で作っていって、アートブックならではのものにできたらなと。

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石黒 : 中でも地図ページが大変でしたね。どこまで情報を削るとか、場所の呼び方の統一だったり。そしてこのファイル穴が開くポイントが難しかった!穴が開く場所に重要なポイントが入っちゃいけなくて、上にも下にも穴が開くとなると調節が難しくて悩みました。

出井 : できるだけ画面いっぱい地図にしたかったので調整を重ねるのですが、ちょっと移動するにもデータのレイヤーがすごくて(笑)。文字量も多いから、どこかズレたらどうしよう…!って、気をつけながら作業していました。笑

石黒 : だからデータの作り方とかも最初はどうしようか悩みましたね。でもデザイナーの力量ってそういうところに出たりもすると思うんです。いかに修正しやすいかとか、汎用性とか。

ー これはIllustratorで作ってるんですか?

出井 : イラレですね。イラレのアートボード上で、ある程度距離を置きながら、直島の部分、豊島の部分…って作っていました。

石黒 : 案件自体、トータル1年くらいは取り組んでました。一番最初の頃は、ビニールや袋の部分はどこの会社にお願いしようとか、質感はどうしようとか、そういうところからのスタートでした。ゆっくり色々進めていって、最後にデザインを詰め込んでいった感じです。

ー ブックを入れられるショルダーバッグも可愛いですね!

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出井 : 使ってもらうときに自由に発想してほしかったから、「こんなことしても良いんだ!」って子どもに思ってもらえるデザインにしたかった。片面はグリッド状で整った構成だけど、裏は「えっ」って、見た瞬間に驚いちゃうようなデザイン。自分が落書きしたようなものが最初から先にプリントされているっていうのが面白いですよね。なんでもありだよっていうのが伝わればいいなって。

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石黒 : 片面が海で、片面が地球で。これも僕のこだわりが強くて(笑)、手書きでぐちゃぐちゃに書いたところは、細いところと太いところがないとダメだって言ったんです(笑)。なのでたくさん書いて組み合わせて、この形までたどり着きました。
ぐちゃぐちゃに描いた落書きが文字に被っていてもアイデアが通ったので、嬉しかったですね。

出井 : 線は細いサインペンで書きました。このデザイン気に入ってるので、他の生地とかにもプリントしたいくらいです!

石黒 : 大変だったけど、ここまでやりきれたら「良いものができたな」って思いました。最後、めちゃくちゃ詰めたので。盛り込むほどに面白くなる案件だったなと思います。

正解がないから想像できる

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ー このブックは瀬戸内海ならではの取り組みですが、自分の地域にもそういうものってありましたか?

出井 : 私はまさに犬島だった気がします。幼稚園の遠足で行ったときは「普通の島」ってイメージだったのがどんどん開拓されて今の形になったので、新しいアートスポットになったなぁと。そういう馴染みのあるものだったり、地元の仕事ができたことはすごく嬉しいです。
あとは今回取り組んでいて知ったのですが、自分が居た時にはなかったものもたくさんできているので、一度行った人も繰り返し楽しめる場所になっているんだなと感じました。

ー 石黒さんは東京出身ですが、子どもの頃にそういう取り組みはありましたか?どういうことがきっかけでアートに興味を持ったのかなと。

石黒 : ここまでアートが身近で、取り組みとしてもしっかりしているものはなかったと思います。なので自分の場合は、些細なことの積み重ねで興味を持ち始めたかもですね。絵がよく褒められるとか、絵の教室が楽しそうだったとか、そういう小さいことの積み重ねだったと思います。

なので今回の冒険ブックを使う環境にいる小学生だったり、いろんなものに触れられる環境が近くにあるのは羨ましいですよね。小学生の時とかはきっと、「なんだこのオブジェ」くらいにしか思わないかもしれないけど、ちょっと大人になってきたら気づくこともあると思うし、それもまた良いと思う。でも自分は子供のとき、こういうノートは書けないタイプだったな(笑) 絶対真面目に取り組めないと思う……

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ー えっ!(笑)
でもそんな石黒さんがデザインしたからには、そんな子もやれるように作ってるってことですよね。

石黒 : そうですね(笑)!できるだけ面白く、飽きさせないように。すぐ飽きるでしょ?自分みたいなやつがいたら(笑)

ー 出井さんは真面目にやるタイプでしたか?

出井 : うーん、どうだろう……!
 イラストとかの部分は率先して描いて、答える系のところは飛ばしちゃってたかも。でも実際このブックには正解がないような質問ばかりで、自分で見て思ったことを書くところが多いので、どんな子も楽しめるんじゃないかなと思います。ブックに答えはついていないので、こういう教材としては珍しいですよね。

石黒 : あとは触れ合いとかも自然とできるような内容になってます。「畑の人に聞いてみよう」とか、「お店の人と話す」とか。人とのコミュニケーションも必要なので、現代に必要なものがこれ一冊で出来る内容になってるのかも。
学んでからその場に行くっていうのも大事だし楽しいけど、子どものときに何も知識がないからこそ見て感じられるものがあると思います。

出井 : でもやっぱり、できた時にモノになるのはいいなって思いましたね。プロダクトとして存在すると、人にあげられたり、共有もしやすい。人の生活に近いものって好きだなぁと思いました。

ー たくさん書き込んで、これが宝物になる子もいるかもしれないですね。

石黒 : そうですよね。でもほんと、宝物にしてもらえるようにと作り込みました。
担当の方とも話したんですが、使ったあと1人1人の本が全く違うものになればいいなって。綺麗に真面目に書き込む子もいれば、ぐちゃぐちゃになる子もいて。そのぐちゃぐちゃもいいよねって。自由に好きなように使ってもらえたらいいなと思います!

CL : Benesse Art Site Naoshima / @benesse_artsite
CD+AD+D : ATSUSHI ISHIGURO(OUWN) / @ai_ouwn
AD+D : YUMI IDEI(OUWN) / @ideiyumi

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聞き手 ・ 執筆 : 星 成美




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