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東京タワー 豊潤な空虚

【日日是考日 2020/10/17 #005

先日、東京タワーに登った。
地上250mの夜景からは、殷賑と閑散とを表す光と闇が無数に繰り返される様子が俯瞰された。
点々と輝く光は、絵画のように調和して全体の光景を成している、というより、個々が我よ我よと群衆の中から抜きん出ようとしたがっているように見えた。
いかにもこの個人主義の時代を眺めている気分になって、
僕には無口なはずの光達はどうにも喧しく聴こえたのであった。

電車に乗って帰途につく。
車内にはアトランダムな顔ぶれが並び、僕をさっき俯瞰した闇の方向へ運んでいった。
一時間ほどでうちの最寄り駅につく。
駅周りの光も歩を進めるにつれ徐々に霞んで、闇ばかり深まっていく。

なんとなく適当に流していたlo-fi、vaporwaveと言われる音楽が感傷に効く。
どことなく、あの擦り切れていたビデオ、アナログテレビのスノーノイズを掻き分けてそれを見ていた幼少期を想起させるのであった。

それが本当の記憶であるか、捏造の記憶であるかはわからない。
覚えていない。
だが、なんとなく心地良かった。

東京タワーから眺めた夜景、
それは努力して成り上がったお金持ちがタワマンの高層階から毎日眺める光景に似ているのだろう。
それは、多くの人が憧れる幸福の形態である。

だが、やはり僕には薄暗い地上を薄暗い気分で歩んでいるのが落ち着くのである。

そう思うと、
資本主義の勝者になる優越感や幸福
よりも
質素な生活に「侘び寂び」の悦びを見出して手に入れる幸福
の方がはるかに手の届きやすい所にある気がするのである。

僕は、そんな大金もそんな精神も持ったためしはないし、
どちらも容易く手中に収まるものでもない。
ただ、豊潤な虚しさを味わった一日であった。

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