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王神愁位伝 第2章【太陽の泉】 第26話

第26話 ココロの推察

ーー前回ーー

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『そうだね。もう消えて1年は経ってる。当初は、シャムスをあげて捜索したんだけどね・・・。コウモリ部隊あんたらが言うように、本当に何の形跡もなく消えてね。手がかりも何にも見つからなくて。それからいたるは必死に色んな情報を集めて、探し回ってるんだ。情報を集めては、サーカス団員たちと一緒に探しに行ったりね。』

(うーん・・・)

太陽の泉のある氷山の東側。
夕貴と別れたココロと幸十は東側の地区に入り、消えたシャムス軍の隊員たちを探し始めていた。

"シーーーーーン・・・・"

元々無口な幸十と、何やら考え込んでいるココロの間には沈黙が流れていた。無言でとりあえず歩き続ける2人。
その沈黙を先に破ったのは幸十だった。

"ツン、ツン"
「・・・ココロ。」
「ん?何?」
じーっとココロを見ながら、幸十はココロの歩く前を指差した。

「そのまま歩くとぶつかる。」
「え?・・・っうわ!」
ココロは改めて目の前を見ると、そこには大きな木で道が塞がっていた。
そのまま歩いていたら、顔面から突っ込むところだった。

「・・・ぼーっとしてる。どうしたの?」
どこか腑抜けたココロの様子に幸十が聞くも、ココロは話を変えた。

「——いや・・・なんでもないよ。それにしても、結構歩いたな。人気も感じないし・・・。ここからコウモリの翼でって・・・」
ココロは幸十を見て思い出し、頭をかかえた。

「そういえば・・・コウモリの翼、上手く飛べないんだったな・・・。」
そう、幸十はコウモリの翼を乗りこなせていない。

「すっかり忘れてた。」
「もう一度やってみる?」
「いや・・・もう夕方だし、時間かけてたら夜になって見えなくなるから。・・・とりあえず俺だけで見てくる。幸十は・・・ここ一帯で誰かいないか地上から探してくれ。」
「わかった。」
「頃合いみて帰ってくるから。あんまり遠くまで行くなよ。」

そう言うと、ココロはブローチの金具を引っ張り、広がったコウモリの翼で雪の舞う空に飛んでいった。
その様子を、地上からじっと見つめる幸十。

(・・・悪いけど、まだ幸十を信用していいのか俺の中で定まってない。あんまり俺の考えを伝えすぎてもな・・・)

ココロは空中に飛ぶと、地上からこちらをじっと見つめる幸十の方をチラッと振り返った。
(それにしても・・・。話を聞いてると、シャムス地方のロストチャイルドは酷いな。こんなに子供が消えてるのに、”治安が悪くなった”で済ませるのはかなり難しい。そこら辺の犯罪者による人攫いみたいなものなら、誰かしら子供が見つかってもおかしくないんだが・・・。一人も痕跡もなく消えるなんて。やっぱり坂上さんの言う通り・・・何かおかしい・・・・・・。)

ココロは夕貴の話を思い出し、改めて坂上の証言の方が筋が通っていると考えた。
(それに・・・シャムス軍の食堂で見たロストチャイルド発生を印した地図。・・・どこかで見た記憶があるんだよな。どこだったっけ・・・)

食堂でかがりに見せてもらった地図が、ずっとココロの中で引っかかっていた。
「うーん・・・。絶対何か見逃してる気が・・・」

ココロは、今まで夕貴やかがりに聞いた話を整理してみた。

いたるさんの子供が消えたのは1年前。”

”イタリアサーカス団は、いたるさんの子供を探しながらシャムスを巡回してる。”

いたるさんは子供を探すため、坂上さんに会いたがっていた。”

”ロストチャイルド現象が頻繁に発生するようになったのは半年前。”

”その中で一番多発している地域が太陽の泉。”

”太陽の泉では、子供だけではなく、シャムス軍の隊員たちも消息不明になっている。ついでにマダムも多数発生。”

”見覚えのあるロストチャイルド発生場所を記した地図。”


「あれ・・・?」
整理していた時、ふと疑問が浮かぶココロ。

「——そういえば・・・坂上さんに会いたがってたはずなのに、コウモリ部隊俺たちと会った時、いたるさんは何故何も触れてこなかったんだ・・・?坂上さんから聞きたかったのは、ロストチャイルド現象の手がかり・・・のはずだよな・・・?」
ココロが疑問に思っていた時、同時にポツンとたたずむ古い小屋・・・・が視界に入った。

(・・・?氷山に小屋?)
この寒い氷山の中に、ポツンと古い小屋があることを不自然に思ったココロは、その小屋のある場所に降りることにした。

"シュン"
降りてコウモリの翼を閉じると、ココロは木の影からその小屋を観察した。
小屋は薄い木の板で作られたお粗末なものだった。隙間がいくつもあり、近くに行けば中が見えそうだ。

シャムスの冷たい風が入るような古びた小屋を、誰が使うのだろうか。
そして何より不自然なのは、屋根に雪が積もっていない・・・・・・・・・・・・

シャムスの土地は雪が年中降る。今だってそうだ。
誰かが管理してなければ・・・・・・・・・・・、屋根に積もる雪を下ろすなんてしないだろう。
しかし、現在この地域一帯は立ち入り禁止だ。入れるのはシャムス軍くらいだろう。

(——誰かいる・・・。消えた隊員たちか・・・?)
ココロは、なるべく気配を消しながら小屋に近づいた。
幸いにも地面は雪のため、足音はなるべく立てずに行けそうだ。

"——ゴクンッ"

小屋に近づくにつれ、ココロに緊張がはしる。
ココロが来た方角からは小屋の入り口が見えず、近づいた小屋の壁、薄い木の隙間に目を近づけた。
中は真っ暗で何も見えないが、何やら物音が聞こえる。
誰かがすすり泣く声・・・・・・だ。

「・・・!これは!!?」
ココロが何かに気づいたとき——



"ガサッ!"
「っ?!」
背後から気配を感じ、振り返るココロだったが・・・


"ドスッ!!"


鈍い音と共に頭に強い衝撃がはしる。

「・・・っう・・・」
同時に身体が上手く動かず、ココロは雪の中に倒れた。

"・・・ガサッ"
遠のく意識の中、ココロは自分を殴った者の姿を見ようとしたが、そのまま気を失い倒れてしまった。

ココロは倒れる時、小屋から子供のすすり泣く声・・・・・・・・・を確かに聞いていた。





♢♢♢♢♢♢☀♢♢♢♢♢♢


一方、地上に残された幸十は黙々と氷山を登っていた。

『あまり遠くには行くなよ。』
ココロに言われた言葉を思い出しながら。
しかし——

"ガサッ"
「チュウ・・・」
「あ。」

幸十の目の前に、1匹のネズミ・・・・・・が現れた。
土色の毛で覆われ、青色の瞳をしたネズミだ。
「ネズミ。」

暫くネズミと幸十はじっと見つめ合っていると、先に動き出したのはネズミだった。

「あ。」
まるでネズミに誘い込まれるかのように、幸十はどこかに向かうネズミを追いかけ始めた。



『あまり遠くには行くなよ。』
そんなココロの言葉をすっかり忘れて。


ーー次回ーー

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