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僕はおまえが、すきゾ!(30)

「何々?彼女?」
デイケアで、椅子に座ってスマホのディスプレイをボンヤリ顔で見ていた僕に向かって、看護師の佐々木さんが言った。
僕は慌てて、スマホを佐々木さんの目の届かkない所に隠した。
「新しい恋は始まったのかな?」
彼女は自分の事のように、嬉しそうに言った。
「違いますよ!そんなんじゃないです!」
僕の叫んだ大声は、デイケア中に響いた。
しかし、デイケアにいる人達は、自分の事に精一杯のようで、僕の方を見る人はいなかった。
「どこまでいったの?その彼女とは」
どこまでも、人の心に土足で踏み込む佐々木さん。悪気は無いのだけれど、ちょっと放っておいてほしい。
「僕、誰とも付き合う気、無いですから」
僕がそう言うと、佐々木さんは不思議そうな顔で言った。
「どうして?武田さん、女の子にモテるでしょ?」
「僕は一人でいいんです」
彼女はいかにも不思議そうに、再び聞いた。
「どうして?どうして?」
僕は、ため息を吐いて、言った。
「だって僕の病気の事知ったら、みんな、離れて言っちゃうよ」
僕には、僕を十分理解してくれる優作だけいればそれで良かった。優作なら僕の全てを受け入れてくれるからだと思った。
「その彼女に、病気の事、話てみたらいいじゃない」
「え?」
僕は考えもしなかった佐々木さんの言葉に戸惑いを隠せなかった。
「案外、しっかり受け止めてくれるかもよ」
油科さんには、多くの嘘を吐いていた。
僕は工学科の大学生ではなく、予備校に通っていて、それも今は、休んでいる。
嘘を吐いて、人と付き合っていくのは、
とても疲れそうに思った。
優作となら、そんな事は無いのに……。
それが今の僕の全てだった。
 
 
 

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