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僕はおまえが、すきゾ(26)

僕と佐々木さんは、ブティックしまむらに来ていた。
「これいいんじゃない?」、佐々木さんはそう言って、僕を手招きした。佐々木さんと言うのは、僕が通っているデイケアの女性看護士の事だった。佐々木さんはショートカットで化粧っけの無く、ジーパンとTシャツの似合う女性だった。
僕は、佐々木さんにいつも見慣れているデイケアのユニフォームともまた違う印象を受けた。すっぴんに近いその顔は、まだ20代後半を思わせるようだった。佐々木さんはK―POPが好きな女性だった。だから彼女が僕に似合うといって体に当てたTシャツも、僕には派手に思えるような、黒地に蛍光色のペンキを零したようなものだった。
僕は、彼女が選んだTシャツを手に取り、
値段を見た。1900円、この夏着倒せるくらいTシャツはしっかりとした生地で作られていた。
僕はその派手派手なTシャツをレジに持って行った。
カッコいいTシャツを買って、気持ちが多少上がったものの、やはり明日の事を思うと、ため息ばかりが出て来た。
レジでお会計を済まし、僕と佐々木さんは店を出た。
佐々木さんは「これからカラオケでも行かない?」と僕をカラオケに誘ったのだ
ったが、僕はそれを断った。
「明日、カラオケにも行くかも知れないじゃない、今から練習練習」とそれでも彼女は僕をカラオケに誘ったが、やはり僕はその申し出を断った。
僕は佐々木さんにお礼を言って、別れた。
明日は優作は親の車を借りて、迎えに来るそうだ。優作は高校三年生の時に車の免許を取った。その時、優作はもう既に二十歳を迎えていた。何でも器用にこなす優作は、免許取得も一発合格だった。
僕は病気のせいで、運転免許は取れなかった。そんな僕を、よく自分の練習がてらドライブに誘ってくれたのも、優作だった。優作は父親のホンダNワゴンでどこへでも連れて行ってくれたっけ。そんな思い出に浸っていると、明日のダブルデートの事も、憂鬱じゃなくなってくるような気がした。

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