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技能実習生が日本政府から「生活者」として扱われていない件

▼日本という国家が、外国人労働者をどのように扱っているのか。2020年10月20日付日本経済新聞に載った斉藤善久氏(神戸大学准教授)の論文が興味深かった。

外国人労働者政策の課題/生活者としての環境整備を

▼「生活者」がキーワードだ。要するに「外国人を人間として扱っているのかどうか」が問われている。

記事のポイントは

日本人に不人気な産業が受け入れで延命/人材ビジネスの苦境で働き手確保難航も/受け入れ産業は労働条件・環境の改善を

と、至極真っ当なことが書いてある。この真っ当なことが、なされていないところに、問題の深刻さがある。

専門用語が多いが、読めば大筋はわかるし、日本に来た外国人労働者が劣悪な環境で働かされていることがわかるだろう。適宜改行と太字。

〈転職の自由をうたう特定技能制度(多くの場合、1号のみ5年間)では、業界団体が引き抜きの禁止を申し合わせているなどして就労先の固定化が図られている。またOTITのような監督機関は設置されておらず、技能実習制度では国内で禁じられている人材ビジネス参入が許されるなど、労働者保護の観点からは技能実習制度以上に脆弱な立て付けとなっている。なお、技能実習制度で受け入れ窓口となる監理団体は一応非営利の建前とされている。

 技能実習制度および特定技能制度1号の場合外国人労働者には家族の帯同が許されず、期間満了後は日本に住み続けることも許されない。21年に試験が開始される特定技能制度2号ではこれらに道が開かれるが、対象は建設と造船・船舶工業に限られている。

 従って多くの若者が最大で10年間(技能実習3号を修了し特定技能1号に移行した場合)、子どもの教育や老後の福祉といった行政サービスを享受することなく、家族から離れて就労し、期間が満了すれば帰国を迫られる。彼ら彼女らに単なる「出稼ぎ」労働者として以上の愛着を会社や日本社会に持ってほしいというのは虫の良すぎる話だろう。

▼「虫の良すぎる話」という一言に、斉藤氏の怒りが込められている。

斉藤氏はこの後、そもそも論に突っ込んでいく。これも説得力のある議論だ。

そもそも日本の賃金水準は他の先進諸国より低く労働条件のみからみれば、とうに魅力的な出稼ぎ先ではなくなっている。

言語も難解で、しかもほぼ日本でしか使えない。苦労して覚えても、来日した若者たちの大半は、期限が来れば帰国を余儀なくされる。

少子高齢化などで今後大幅な経済発展も見込めない。

 それでもなお、特に外国人技能実習制度の下で多くの若者たちが来日してくれた理由は、日本社会の安全、秩序、清潔や日本人の礼節、親切、勤勉などに対する信頼だ。

コロナ禍にあり、日本の地で様々な困難に直面する彼ら彼女らを私たちがどうサポートしていくかが、送り出し国の人々の日本に対するイメージを大きく左右することになろう。〉

▼そもそも、すでに日本は魅力的な出稼ぎ先ではない、という事実は、日本語圏で知っている人はとても少ないのではないだろうか。

なぜ外国人が日本を選んでくれるのかというと、それは賃金でもなく、労働条件でもない。他国と比べて賃金は安いし、労働条件も過酷な職場が多い。なぜ外国人が日本を選んでくれるのか。

その理由は、類(たぐい)まれな「安全」や、目に見えない「信頼」にあるというのだ。

▼しかし、今のままの「移民」対策を続けていれば、間違いなく、日本に「移民」は来なくなる。つまり、建設業も造船業も回らなくなる。もう少し極端な例を挙げれば、日本中のコンビニや飲食店から店員がいなくなり、日本社会が、少なくとも部分的に回らなくなる。

行政サービスも与えず、働かせるだけ働かせたら追い出す。それは外国人の「信頼」を毀損(きそん)する政策だ。

外国人が「安全」だと感じ、「信頼」を持ち続けてくれるかどうかの瀬戸際に、いま日本社会は立たされている。

ただし、見通しは明るくない。

(2020年11月12日)


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