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[小説]『道』

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『道』

 道はその一つしかなかった。なにもかもがここを通り、そのすべてが過ぎ去った今でもここにあった。
 湿っているのか乾いているのか誰もわからないその道で、交わったものは何一つとして存在しない。道の先には道があり、その先には何もなく、そこでようやく皆は交わった。
 誰か・が道の中心ですべてを見ている。道と同じく誰か・の目も一つだけであり、その目は上下だけをただただ見ていた。皆は、すべての内にあるすべてを見ている誰か・とだけ交わることができたが、そのことに気付いたものは誰もいない。誰か・だけがそれを知っていた。
 誰か・が知らないことは一つしかなかった。知らないことがあるということを、誰か・は知らなかった。
 それは道の先の、そのまた先にある空間ですべてのものが交わっているということだった。

 道はその一つしかない。その一つの内には今や上下だけを見つめる目しかなく、その目を見つめるものは何一つとしてなかった。



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