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[小説]『鍵』

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『鍵』

 扉がある。その扉を開ける鍵もあった。その鍵は、鍵が扉を開けるために存在しているのではなく鍵のために扉が存在していると認識していた。
 その鍵を持つものは誰も現れない。鍵は自分と扉以外に存在するものが存在していることを知らなかった。鍵にとっては、その扉こそが世界だったのだ。
 鍵が扉を開くことはなかった。鍵は言い続けた。

 開けることができなかったのではない。扉が何も言うことはなかったから。

 やがて存在を超える時空の中で、扉の前に誰かが現れた。鍵はそれを見ていた。ようやく彼は鍵と扉以外の存在を認識したのだ。
 しかしその誰かが鍵を見ることはなかった。彼の目には扉しか見えていなかった。鍵はそれを見て笑った。すぐにその笑顔は存在とともに消え失せた。彼が彼自身の力で扉を開けたのだ。
 扉はそこから消えた。すぐに彼も消えた。それでも二つは未だに存在している。鍵だけが、存在を超える時空の中から消えてしまっていた。



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