『ポケモンスリープ』が危険すぎる。
先日、彼女と一緒にミスタードーナッツに行った。
明るい店内に入ると、芳醇な小麦粉と砂糖の香りがした。
彼女はショーケースを行ったり来たりしながら、ドーナッツを選んでいた。
「ハニーチュロがいい」
僕は即決だった。
彼女を待っているあいだ、たくさんのドーナッツを眺めていると、そこに見慣れない形のものが置かれていることに気づいた。
よく見ると、それはポケモンのコダックだった。
コダックは何かを考えているようで、何も考えていないような瞳でこちらをみつめていた。
僕はコダックは特別好きでもないのだが、これが例えばクチートとかエルフーンとかヒトモシとかバチュルなんかのドーナツなら在庫をすべて買い占めていてもおかしくなかったな、と思った。
コダック好きじゃなくてよかったな、と思った。
現在ミスドではポケモンコラボをしているようだった。
持ち帰りのとき、とてもかわいい袋に入れてくれて、テンションがあがった。
その紙袋の側面に、『ポケモンスリープ』というアプリの広告が印刷されていた。
気づいたら、インストールしていた。
広告が無意識下に及ぼす影響について、おそれをいだいた。
しかしこのアプリはどうやら我々の生活の時間を奪うどころか、睡眠を規則正しく管理する助けになるようなものらしい。
その日はわくわくしながら眠りについた。
そして、翌朝。
枕元に置いた僕のiPhoneSEの画面に、ポケモンたちが訪れていた。
中央にはカビゴンが寝ており、それを囲むようにゼニガメ、ピチュー、ウソハチ、ドードーというポケモンたちがやってきて、各々ちがった眠り方をしていた。
カビゴンの傍らに寄り添うように、ヨーギラスも寝ていた。
ヨーギラス、めちゃくちゃかわいかった。
朝イチから胸が暖かな気持ちでいっぱいになった。
と、同時に「これはヤバい」と思った。
僕のような意志の弱い人間は、こんな報酬を用意されては抗うことなどできない。
その証拠に寝起きだというのに、もう次の睡眠について考えていた。
現在『ポケモンスリープ』には、一日の計測は二回までという制限があった。
少なくとも、二回という制限の中では8時間×2、つまり16時間はポイント稼ぎのために寝るということがあり得た。
いつかニンテンドーのはからいにより、この制限が取り払われたあかつきには、僕は『ポケモンスリープ』を計測したいという欲求のために、一日中眠りこけることは想像に難くなかった。
これは『ポケモンGO』のときと同じ現象だった。
ポケモンを捕まえたいから外出する、ということがあり得るように、ポケモンを捕まえたいから眠る、ということが容易に起こりうるのだった。
僕が目を覚ますのは、自分と彼女とカビゴンのお腹を満たすため。
そう考えると『ポケモンスリープ』、とても危険な代物におもえるのだった。
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