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視覚に囁く『小ご絵』

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いつも大きくて立派な扉ばかり見せられてきたように思う。 深く考えることなく、大きくて立派な扉ばかり追いかけてきたように思う。 だけどいつもうまく開けられるわけじゃない。 ある… もっと読む
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#小説

Today

 英語もろくに喋れないくせに、もてる資金の尽きるまで過ごせるだけ過ごそうと渡米した区切り…

旅行雑誌編集者-3 走る。

 原稿を書くのにも勢いが要る。ハンマー投げで勢いをつけるのと似ている。勢いをつけるのに幾…

旅行雑誌編集者−1 プロローグ

 社会人になって、旅行雑誌の編集業という職に就いた。今でこそアーカイブと現地の臨時スタッ…

秋よ、来い。

 空腹も満たせば次に新しくしたいことを好奇心が探し始める。今年は特段、刻まれる夏だった。…

誤算。

 人見知りな私でも挨拶以上の会話を交わせるようになったこの街を去ることに躊躇いはあった。…

夢の睡眠。

 睡眠の質が語られるようになった。乳酸菌が効くだの、マットレスが関係するだの、枕を替える…

それぞれに少し不幸だけど、幸せに見えなくもないあの人たちが気に掛かって仕方ない。

 秀一の父・建造は、真里亞を妻に取ったが仲違いで袂を分かち、秀一は同級生の健人に思いを寄せ、健人は秀一の気持ちに気づいていたがマイノリティの愛は完全御免で女の子でなければいけなかったし、そんな健人に少なからずの好意を抱いていた1級上の真由美はこれまで幾度となく健人にアタックしたけれども、女にしとやかさを求める健人は真由美の勇猛果敢なアタックにいよいよ恐れをなしていた。  秀一の父・建造は漁協で管理の仕事をし、恭子が競りに魚を買いに来ることが日々気になって仕方がなかった。  恭

喜劇役者の生きた道。

 長年溜めてきた疲れは腰に出る、足に出る。 「よっこらしょ」  たいした所作ではないのに、…

虚劇『懐かれる男』

 妙に子供に懐かれる。そんな特技があったお覚えはないが、最近になって子供のほうから声をか…

実に向けて虚の舵を取る。

 雑誌編集をやっていると、妙なところでライバル心が生まれる。読者ファーストでいかなければ…

それぞれの恋の行方。

 ナオミはマイケルの膝に乗り、さわりあっている。親友のヒロコは早々と結婚したタケルとダイ…

人それぞれの都合によって。

 窓を開けた勉強部屋に漂ってくる都会の野良猫の糞尿被害に我慢の堰を切った少年が、犯人と思…

【楽器の手招き-2】ファイフ

 高校の先輩が吹奏楽部で、彼はフルートを吹いていた。彼に憧れていた女子は何人か知っていた…

終戦は繰り返される。

 父は傷痍軍人に、持てる小銭をぜんぶあげた。軍人の片足はあるべきところになく、埃でくすんだ包帯があの世を拒絶する結界に見えた。あちこちをぶつけて傷とへこみと土埃にまみれた空き缶に入れられた小銭は、体に似合わず重い音をたてる。光を吸い込む暗い洞窟が缶の底に仕込まれているみたいに妙にくぐもった音で、落ちたら最後、二度と這い上がれなさそうな響きを周囲に一度だけ広げて消えた。  兵隊さんの帽子を目深に被った軍人さんは目をあげることなく頭を深く下げる。その頭が再び上がるまで、弾いてい