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洋服が売れない理由

近年、洋服が売れないと言われています。アパレル、ファッションが好きな方はご存知だと思います。可処分所得が減ったとか、通信費が増えたとか、外的理由ももちろんあるでしょうが、ここではアパレル業界に内在している「洋服が売れない理由」を考えたいと思います。ちなみに私はアパレルとは違う業界でマーケティングの仕事をしており、外から見たマーケター目線での考察です。

私が考えた理由としては3つ。「垂直統合」「EC」「トレンドの落とし込み」です。


1.垂直統合

SPAという言葉を聞いたことはあるでしょうか?SPAとは、「specialty store retailer of Private label Apparel」の略で、製造小売業と呼ばれる業態です。ZARA、GAP、ユニクロなど世界規模で展開しているアパレルメーカーはみなSPAです。また、かつてセレクトショップと呼ばれていたショップも、近年はほぼ自社製品の製造〜販売が中心となっており、ユナイテッドアローズ、ベイクルーズ 、SHIPSなど有名セレクトショップもSPAと呼んで間違い無いでしょう。

このSPAは製造から小売までを一貫して行うため、売り場のデータを活かして製造が可能になります。そのため売れ筋商品の増産や製造から販売までのリードタイムを短くするなど、「売れる洋服」を作る仕組みを作ることができます。これまでメーカーは製造に特化し、それを代理店に卸し、小売店がそれを販売する流れでしたが、それらを垂直統合することで流行に合わせた適切な製造販売が可能になったわけです。アパレル業界はそもそも需給予測がたてにくいため、このSPAは経営効率も良くなります。では本来なら洋服が売れるはずの仕組みが、なぜ売れない理由になったのか?それは、水平分業時代に各プレーヤーが抱えていたリスクをすべてメーカーが持つことになるからです。

昔は、メーカーは洋服を作って卸しに売ってしまえば在庫リスクを持つ必要がありませんでした。在庫というのは資産のため、本来なら1日でも早く無くしたい性質のものです。代理店へマージンを払う代わりに在庫リスクも持ってもらうことができました。現在はこれらをメーカー自身が持つため、「売れる洋服」を作る必要があるわけです。この「売れる洋服」作りこそが「売れない洋服」を作ることに繋がっていると私は考えています。

あまり意識したことは無いかと思いますが、イオンやパルコなどの商業施設に入っているアパレルブランドはほぼ全てSPAです。つまり、皆同じことをして同じリスクを抱えながら運営しています。先ほどの「売れる洋服」を全ブランドが作った場合どうなるでしょうか?「どのお店に行っても同じ服が売っている」状態になってしまいます。これは仮定の話ではありません。実際にそれが起こっているわけです。

たとえば2019 A/Wの流行はチェックや茶系の色味ですが、どの店舗に行っても同じような商品が並べられています。

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上の2つの商品は違うブランド(EDIFICEとBEAUTY&YOUTH)の今期のパーカーです。見て違いがわかりますか?どちらも特徴は3つあり、「素材感」「流行色」「ポケットの形」だと思います。ですがその特徴がどちらも一緒なため、同じ商品が並んでいるように感じてしまいます。

「売れる服」を作ろうとしたために、それぞれのブランドの個性がなくなってしまい、ただ流行(トレンドセットされたもの)を形にしただけの洋服が作られていく。それがどの店舗に行っても売っているため、購買意欲が掻き立てられない。

私はこれをSPAパラドックスと呼んでいます。

2.EC

洋服が売れない理由の2つめは、ECです。いつでもどこでも洋服が買えるので、例えばベイクルーズ など自社ECに積極的に投資して環境構築している企業は順調に売る上げを伸ばしています。一見するとECはアパレル産業の一助となるように感じますが、実際はどうでしょうか。

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矢野経済研究所によるデータで確認する限り、少し前のデータですがほぼ横ばいです。

ZOZOが洋服の売り方を変えたことは間違いありません。ZOZOTOWNが始まった当時、「ネットで洋服が売れるわけがない」と言われていたわけですから。と同時に、各アパレルメーカーも自社ECサイトを構築し、顧客とのタッチポイントを増やしていきました。ベイクルーズ は2019年現在、売上金額におけるEC比率が30%以上と、アパレルにおけるECが販売チャネルにおいていかに重要かがわかります。

しかしながら商品を写真でプレゼンテーションして販売するECサイトは、販売機会としては機能しますが顧客とのコミュニケーションはほぼできません。ここ数年、アパレル業界はEC比率の向上を目指して販売機会を作ってきましたが、これは他社需要を食う活動であって、顧客に目線が向いているものではないと考えます。つまり、各アパレルメーカーの直近の販売活動は、顧客をナーチャリングできていないのです。業界全体が刈り取り偏重型になってしまっています。

一昔前を考えてみます。洋服を買うためには店舗に行く必要がありました。店舗に行くと、店員さんが売り場の洋服を身につけ、コーディネートを学ぶことができました。また、洋服を手に取るとその洋服の素材やシルエット、ブランドについて、またはトレンドについてなど、様々な話を聞くことができました。それらの店舗における顧客体験によって、ユーザーは洋服について学ぶことがき、上質を理解する目を養うこともできました。だからこそ、「洋服はネットでは売れない」と言われていたわけです。

ECはこの顧客体験を破壊することでシェアを急速に伸ばしていきました。つまりそれは顧客のナーチャリングをやめたと言い換えることができます。実際にいま売れている洋服はどんなのでしょうか?

「無地のTシャツ」「KANGOLやchampionなどのロゴが入った服」などいわゆる無難・わかりやすい・失敗しない洋服ばかりです。これは、かっこいい洋服とは何か?どんな洋服が自分に似合うのか?といった、洋服の選び方がわからなくなってしまっていることを表しているのではないでしょうか。

現在、各アパレルメーカーが向かい合っているのは競合他社の需要であって顧客では無い。育てるのはECサイトではなく顧客。顧客を育てなければ、次のニーズが生まれません。


3.トレンドの落とし込み

パリコレクションやミラノコレクションといった、プレス向けコレクションはみなさんご存知でしょうか。奇抜は服を着たモデルがキャットウォークを歩く姿は、一度は見たことあるのではないでしょうか。「一体こんな服を誰が着るんだ!?」と思うと思いますが、そうです、あの服は一般コンシューマーが着ることを目的とした服ではありません。我々がいつも着ているブランド、メーカーのために作られた服といっていいでしょう。つまり4大コレクションのような場で並ぶ服は「上位概念」であり、そこで発表されたトレンドを各ブランドが自分たちの世界観に落とし込みながら洋服を作ってきました。

この「上位概念のプロダクトへの落とし込み」が非常にうまくなったブランドがあります。そうです、ユニクロです。一昔前のユニクロは、みんなが着られるスタンダードな服を製造・販売していました。現在もその立ち位置は変わりないのですが、明らかにトレンドの落とし込みがうまくなっています。

「ユニクロはダサい」

いまそう思っている人がどれだけいるでしょうか。いまでは全身ユニクロでも旬のトレンドを抑えることは簡単にできるようになりました。しかも低価格帯でかつ高機能な素材で。はっきり言って、ユニクロに勝てるアパレルは世界中どこを見ても存在しないでしょう。

これまでマスをターゲットとして展開していたブランドが、トレンドの落とし込みがうまくなった。その結果、さらにターゲットが広がりました。そう、いわゆる中間層と呼ばれる人たちやブランドです。アローズに行かなくても、nikoandで洋服を買わなくても、ユニクロである程度トレンドを抑えたスタイルが成立してしまうのです。かたや中間層は「売れる服作り」にベクトルが向いています。結果、同じところで落ち合ってしまっているのが現在のアパレル業界の構図です。


まとめ

ここで紹介した服が売れない理由は、あくまで私個人が業界の外から見た視点で解説したものです。しかしながら、一人の洋服好きな人間として、いまのアパレル業界が非常につまらないプロダクトばかり作っていることに憂いでいるのも事実です。昔はもっと特徴的な洋服が店頭に並び、ブランドごとに特徴がはっきり出ていました。だから何度も店舗に足を運ぶ労力をかけてでも、洋服を見に行ったわけです。無難な流行を作りだし、どこに行っても同じ洋服が並ぶ現在のアパレル業界は、将来性が乏しいと思います。

アパレル業界のみなさん、ちょっと手間とコストがかかるかもしれませんが、もう一度着るのが楽しくなる洋服を作ってみませんか?何度も店舗の足を運びたくなる世界観を作りませんか?

もう一度、アパレルの楽しみを若い世代に教えてください。

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