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魔法少女の系譜、その155~『機動戦士ガンダム』~


 今回は、前回までの『ベルサイユのばら』とは、違う作品を取り上げます。『ベルばら』は、魔法少女作品ではありませんでしたが、魔法少女作品を語るために必要なので、取り上げました。
 今回も、魔法少女作品ではない作品を取り上げます。日本のアニメを語る上では、どうしても欠かせない作品だからです。

 その作品は、テレビアニメです。昭和五十四年(一九七九年)から、昭和五十五年(一九八〇年)の初めにかけて、放映されました。『ベルばら』のテレビアニメと、ほぼ同時期に放映されていました。
 その作品とは、『機動戦士ガンダム』です。もはや、説明の必要もないほどの有名作品ですね。
 二〇二一年現在では、『ガンダム』はシリーズ化されて、一つのジャンルと言えるほどになっています。けれども、『機動戦士ガンダム』、いわゆる『ファーストガンダム』が放映された当時は、「ロボットもの」、もしくは、「戦争もの」というジャンルでした。

 およそ、魔法少女ものとは関係なさそうですね。ちなみに、何度も書いていますとおり、ファーストガンダムを放映していた頃には、まだ、魔法少女という言葉は、存在しません。魔女っ子という言葉だけがありました。
 なぜ、『魔法少女の系譜』シリーズで、『機動戦士ガンダム』を取り上げたかといえば、ララァ・スンという登場人物が、魔法少女だからです。ララァは端役ではなく、主人公アムロ・レイの成長にからむ重要な役どころです。

 あまり説明の必要はないかと思いますが、一応、以下に説明しておきます。
 『機動戦士ガンダム』の世界は、現代より未来、人類が宇宙に進出した時代です。スペースコロニーに住む人類の一部が、ジオン公国を名乗って、地球連邦政府に対し、独立戦争を仕掛けます。
 主人公のアムロ・レイは、地球に住む普通の少年でした。それが、ヒト型ロボット兵器「機動戦士【モビルスーツ】」ガンダムに乗って、思いもかけない活躍を見せます。その才能が地球連邦軍に買われて、アムロは、否応なく戦争に巻き込まれてゆきます。

 「機動戦士ガンダム」の世界には、ニュータイプと呼ばれる人間が、少数います。ニュータイプは、一種の超能力者です。予知能力やテレパシー能力といえる能力を持ちます。アムロは、このニュータイプでした。
 ニュータイプの人間は、戦闘において、卓越した能力を見せます。このため、一年戦争―ジオン公国が仕掛けた独立戦争は、のち、こう呼ばれるようになります―では、ニュータイプは、兵士として重用されます。

 ニュータイプは、生まれつきの才ですが、生まれた直後から、才能が開花するとは限りません。むしろ、戦闘の中で才能が磨かれ、目覚めることが多いです。
 ニュータイプと呼ばれる人間が、なぜ、生まれるようになったのか、作品中では、直接的な説明はありません。ただ、人類が「宇宙」という異世界へ進出したことで、そこへの適応として現われたのではないかと示唆されます。

 ニュータイプは、地球連邦軍にも、ジオン公国軍にもいます。アムロは、地球連邦軍の中では、飛び抜けたニュータイプでした。ジオン公国軍には、アムロに匹敵するニュータイプとして、シャア・アズナブルがいます。モビルスーツの戦闘では、天才的な強さです。
 シャアは、アムロの宿命のライバルとなります。

 シャアは、アムロより少し年上で、一年戦争当時は、二十歳でした。この若さで、少佐です。ジオン公国軍で、いかに彼が評価されていたか、わかりますね。
 シャアは、放映当時から、主人公のアムロを超える人気を誇りました。強くて格好いいのに加えて、複雑な過去があり、人間的な深みがあります。しかも、中二心をくすぐる仮面をかぶったキャラです。

 ララァ・スンは、シャア・アズナブルの部下に当たる人物です。アムロやシャアをも超える、優秀なニュータイプです。その才能をシャアに見出されて、兵士となります。年齢は明記されませんが、シャアよりも少し年下で、少女と表現されます。外見上は、アムロと同い年くらいの十代後半に見えます。

 兵士としてのララァは、期待を裏切りません。エルメスという有人操縦式の兵器に乗り、地球連邦軍を次々と撃破します。エルメスは、ガンダムのようなヒト型ロボットではなく、ぱっと見は帽子のような飛行艇型です。
 エルメスは、優れたニュータイプがパイロットになることを前提に作られた兵器で、事実上、ララァの専用機です。
 この点を見れば、ララァは「ニュータイプ」という名の魔法少女であり、戦闘少女でもあると、わかりますね。彼女は、変身はしませんが、変身する代わりにエルメスに乗り、戦います。

 戦闘を離れれば、ララァは、決して好戦的ではなく、心優しい少女です。彼女が戦いに身を投じたのは、シャアを喜ばせたいからです。彼女はシャアを尊敬し、愛していて、シャアが喜ぶことなら、何でもしたいと考えています。それをよく表わすのが、「シャアをいじめる悪い人!」というララァの台詞です。
 ララァの過去については、少なくとも『機動戦士ガンダム』の放映時点では、明らかにされません。どのようにシャアと出会ったのかも、不明です。
 わずかに、ララァは、過去に、恵まれない生活をしていたことがうかがえます。そこから救い出してくれたシャアに恋愛感情を抱き、彼に付いてゆきます。
 シャアのほうも、彼女を愛します。シャアとララァとは、公私ともにパートナーです。同じように恵まれない過去を持ち、同じように優れたニュータイプである二人は、互いに理解し合える、かけがえのない存在でした。

 アムロは、シャアとララァとの間に割り込む形になります。
 アムロとララァとは、戦闘ではない場面で、最初に出会います。その時は、互いに敵軍の兵士同士だとは、知らないままでした。
 のちに戦場で出会った時、アムロとララァとは、その優れたニュータイプ能力により、「あの時、会った人だ」と気づきます。一種のテレパシーにより、二人は交感し、理解し合います。
 しかし、二人は敵同士であり、殺し合わなければならない相手同士でした。理解し合えた直後に、ララァはシャアをかばって、戦死してしまいます。

 アムロは、この時初めて、「自分がただ敵だと思って倒してきた相手も、自分と同じ人間だった」ことに気づきます。心から後悔して、涙を流します。この時のアムロの「取り返しのつかないことを」という台詞が、有名です。
 シャアにとっても、ララァの死は、とてつもない痛手となります。のちの『ガンダム』シリーズで登場するシャアは、いつまでも、ララァの影を引きずります。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『機動戦士ガンダム』を取り上げます。



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