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魔法少女の系譜、その116~『恐竜大戦争アイゼンボーグ』~


 今回も、前回に続き、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』を取り上げます。
 八つの視点で、『アイゼンボーグ』を分析します。

[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

の、八つの視点ですね。


[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?

 『アイゼンボーグ』のヒロイン、立花愛は、サイボーグです。彼女の超常的な能力は、サイボーグであるゆえです。人工型の魔法少女ですね。

 ただし、彼女は、のちに事故に遭って、アイゼンボーへの変身能力など、さらなる超常能力を得ます。『ザ・カゲスター』と同じく、大電流にさらされるという事故です。

 これにより、立花愛は、「人工型+事故型」の魔法少女になります。複合型の魔法少女ですね。これは、珍しいです。


[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?

 立花愛の年齢は、不明です。外見からは、成人しているように見えます。なので、「未熟な少女が、超常能力を得てしまって、これからどうなるのか?」という危機感は、ありません。最初から、大人ですからね。

 じつは、『アイゼンボーグ』は、「魔法少女のその後」が、はっきりと描かれた作品です。最終回の一つ前の第三十八話で、立花兄妹は、ムサシという青年に出会います。彼が、立花兄妹の「その後」を決めるキーマンでした。

 ムサシの正体は、宇宙の平和を守るスペリオ星人でした。彼は、立花兄妹に協力して、恐竜魔王ゴッテスと魔女ゾビーナを倒します。けれども、その戦いで重傷を負い、自分の正体を立花兄妹に明かして、絶命します。立花兄妹は、ムサシの遺志を継いで、宇宙の平和を守るべく、地球から宇宙へ旅立ちます。

 超常的な能力を持つ敵がいなくなれば、立花兄妹の超常的な能力も、無用の長物です。それどころか、日常生活では、危険なものとなりかねません。平和になった地球には、彼らの居場所はありません。
 立花兄妹は、彼らの超常的な能力が生かせる場所へ、旅立つわけです。

 これは、『ウルトラマン』や『魔法使いサリー』など、異世界から来た超人が、最後に異世界へ戻るのと、同じですね。立花兄妹の場合は、地球生まれ―普通のこの世の人―ですので、「戻る」ではなく、「旅立つ」になります。

 超常的な能力を持つ人は、多くの場合、ずっとこの世界にいることはできません。上記のとおり、普通の日常生活を送るには、オーバースペックだからです。それを解決するために、異世界から来た人なら、ほぼ例外なく、異世界へ帰ります。
 立花兄妹は、もとから地球の人でしたが、サイボーグという超常能力者になってしまいました。サイボーグから普通の人間へ戻ることは、できません。敵を倒した後は、超常的な能力を隠して生活するか、異世界へ行くか、どちらかの道を選ぶしか、ありませんでした。都合良くムサシという人物が現われたおかげで(笑)、彼らは、ムサシが示してくれた異世界へ行くことになります。


[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?

 立花愛は、サイボーグになったために、アイゼンI号と合体して、スーパーメカのアイゼンボーグ号に「変身」します。「魔法少女が、メカと合体して、自分もメカになる」のは、非常に新しい試みでした。二〇二〇年現在でも、同様の設定の作品は、ほとんどありません。この点は、評価すべきだと思います。
 この変身には、立花善と立花愛、二人が揃わなければなりません。善のほうは、アイゼンボーグマンに変身し、アイゼンボーグ号を操縦して、敵と戦います。

 途中で、立花兄妹は、「二段階変身」をするようになります。アイゼンボーグマンとアイゼンボーグ号に変身した後で、アイゼンボーグマンとアイゼンボーグ号とが合体して、アイゼンボーという巨大な超人に変身します。

 『アイゼンボーグ』より前に、二段階変身をする変身ヒーローがいなかったわけではありません。例えば、特撮ヒーロー番組の『イナズマン』は、サナギマンからイナズマンへと、二段階変身しますね。『イナズマン』が放映されたのは、昭和四十八年(一九七三年)から昭和四十九年(一九七四年)です。
 とはいえ、男女二人組が揃って二段階変身するとなると、『アイゼンボーグ』より前にはないと思います。もし、そのような作品があれば、教えて下さい。

 男女二人組が合体・変身するのは、『ウルトラマンA【エース】』という先例がありますね。『アイゼンボーグ』も『ウルトラマンA』も、円谷プロダクション制作ですから、この点は、当然、意識されたでしょう。


[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?

 大道具として、アイゼンI号がありますね。戦闘車両です。アイゼンI号は、立花愛と合体して、スーパーメカのアイゼンボーグ号になります。
 この時、立花愛は、人間としての姿を失い、話す能力もなくします。完全に、メカと一体化しています。
 この点が、『マジンガーZ』などのロボットものと、違うところです。マジンガーZなどのロボットには、普通の人型をした人が乗り込んで、その人の意思でもって、操縦されますね。もちろん、操縦者は、普通に話すこともできます。

 のちに、アイゼンボーが登場すると、アイゼンボーグ号は、アイゼンボーに吸収され、その一部になります。

 なお、アイゼンI号に対して、アイゼンII号も存在します。アイゼンII号も戦闘車両ですが、攻撃はほとんどせず、アイゼンI号の支援に徹します。アイゼンII号には、D戦隊の隊員の神原五郎と黒沢一平とが乗ります。


[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?

 『アイゼンボーグ』には、マスコット役は登場しません。


[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?

 『アイゼンボーグ』は、魔法少女ものではなく、変則的な変身ヒーローものと見なされていました。このため、魔法少女ものらしい呪文は、登場しません。ヒーローものらしく、技名を叫びます。

 立花善がアイゼンボーグマンに、立花愛がアイゼンボーグ号に変身する時には、二人揃って、「アイ、ゼン、クロス!」と叫びます。そのあと、アイゼンボーに変身する時には、アイゼンボーグマンのみが、「ボー・チェンジ!」と叫びます。アイゼンボーグ号になった愛は話せないので、声はありません。


[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?

 超能力を持った恐竜たちが、人類に対して戦いを仕掛けていることは、秘密にはされていません。怪獣化した恐竜に対抗するD戦隊も、秘密にはされていません。したがって、立花善と立花愛がサイボーグであり、変身して戦っていることも、秘密ではありません。

 このために、『アイゼンボーグ』では、外在的な視点が多いです。内在的な視点は、少ないですね。内在的な視点を多用すると、話が重くなるからでしょう。

 立花善と立花愛は、幼い時に母親を亡くしています。加えて、対恐竜戦闘車の開発中に、父親も亡くし、自分たちはサイボーグになってしまいます。おそらく二十代前半のうちに、両親とも亡くしてしまって、自分たちの体は、二度と「普通」には戻れないサイボーグにされたわけです。
 考えてみれば、重い設定ですよね。普通の神経の人間なら、重いうつ病を患っても、不思議はありません。といいますか、大したショックも受けた様子なく、戦っている善と愛とが異常です。
 こんなところを心理的に掘り下げたら、子供向けの娯楽作品としては、重くなり過ぎます。外在的な視点を多用するのが、正解だったと思います。


[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?

 女性でサイボーグになり、変身して戦うのは、立花愛一人です。男性でサイボーグになり、変身して戦うのも、立花善一人です。

 『アイゼンボーグ』という題名が示すとおり、この作品は、善と愛とでワンセットです。片方だけでは、サイボーグとしての能力は発揮できても、変身できないので、怪獣化した恐竜に対しては、無力です。

 「二人揃わないと変身できない」点は、『ウルトラマンA』の前期と同じですね。
 しかし、『ウルトラマンA』では、途中で、変身ヒロインの南夕子が離脱してしまいます。その後は、北斗星司が一人で変身するようになり、それまでのウルトラシリーズと同じ「男性一人の変身ヒーロー」になってしまいます。
 『ザ・カゲスター』では、ヒーローとヒロインとが、別々に変身します。変身ヒロインのベルスターは、最後まで離脱せず、ヒーローのカゲスターとともに戦います。でも、題名は、『ザ・カゲスター』なんですよね。
 『アイゼンボーグ』になると、題名に、愛と善との名前が入っています。二人揃って変身し、最後まで二人で戦います。

 男女ダブル主人公の変身ヒーロー/ヒロイン作品において、少しずつ、変身ヒロインの地位が上がっているのが、わかりますね。
 けれども、このような男女ダブル主人公の特撮作品―『アイゼンボーグ』は、特撮・アニメ合成作品ですが―の流れは、『アイゼンボーグ』で途絶えてしまいます。
 アニメでは、『タイムボカン』と『ヤッターマン』とが、大好評を博したため、男女ダブル主人公の『タイムボカンシリーズ』が、しばらく続くことになります。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『アイゼンボーグ』を取り上げる予定です。



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