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魔法少女の系譜、その159~『機動戦士ガンダム』のミライ・ヤシマについて~


 今回も、引き続き、『機動戦士ガンダム』について語ります。今回は、ララァ・スンからちょっと離れて、ミライ・ヤシマを取り上げます。

 ミライ・ヤシマは、ララァほど能力は高くありませんが、ニュータイプの一人ですね。宇宙戦艦ホワイトベースの副艦長といえる存在で、艦長のブライト・ノアをよくフォローします。ホワイトベースの操舵を任されており、ニュータイプの能力によって、敵の弾道を読んで、回避したりします。

 ミライさんは、ニュータイプである以外にも、いろいろなスペックが高いのですよね。
 まず、彼女の生まれ育ったヤシマ家は、日系の名門の家とされています。彼女の父親は、地球連邦政府の高官でした。お嬢さまなんですよね。
 名家に育ったために、高い水準の教育も受けていました。物語に登場した時は、十八歳ですが、スペースグライダーのライセンスを持っていました。このために、ホワイトベースの操舵を任されることになります。
 彼女は、性格も温厚で、良い人です(^^)
 名門のお嬢さまで、能力も高いのに、まったく偉ぶるところがありません。ホワイトベースの乗員たち、皆によく気を配ります。
 アムロのニュータイプの能力も、いち早く見抜きます。内気でちょっと扱いにくいアムロにも、つらく当たることはありません。
 裁縫が得意で、劇場版のアニメでは、ブライトさんの服を縫う場面があります。「ホワイトベースのお母さん」と呼ばれる所以【ゆえん】です。十八歳ですのに(笑)

 これだけのスペックならば、従来の「ロボットアニメ」であれば、間違いなく、ミライさんがメインヒロインになっていたでしょう。
 しかし、前に書きましたとおり、『機動戦士ガンダム』には、メインヒロインと言える存在は、いません。複数の個性的な女性キャラクターがいて、それぞれが、物語で、重要な役割を果たします。ミライさんも、そのうちの一人です。

 あえて欠点を言えば、ミライさんは、美人ではありません。日系らしい一重まぶたに、小さめの目をしています。
 とりたててブスでもありませんが、はっきりとした美少女のセイラ・マスや、ホワイトベース全男性乗員の憧れの的であるマチルダ・アジャンと比べると、どうしても、容貌の点では、譲らざるを得ません。

 それでも、ミライさんの性格の良さをもってすれば、容貌に多少、難があったとしても―私は、ミライさんはかわいいと思いますが―、彼女が、乗員たちに慕われるのが当然だと思えます。おそらく、『機動戦士ガンダム』のファンの中に、ミライさんを嫌いな人は、ほとんどいないでしょう。
 それを示すように、彼女は、物語中で、異性にモテます。
 日本のテレビアニメ―しかも、主に男性向けのロボットアニメ―で、「美人じゃないのにモテる」女性キャラクターという点でも、ミライさんは、画期的でした。

 ミライさんは、お嬢さまらしく、婚約者がいました。カムラン・ブルームという男性です。
 カムランのほうは、ミライさんを気に入っていました。でも、ミライさんのほうは、「家の都合で婚約させられた」と感じていて、どうしても、彼を好きになれませんでした。カムランとの仲は、一年戦争の最中に、自然消滅してしまったようです。

 ホワイトベースに乗っていた軍人、スレッガー・ロウは、一時期、ミライさんと両想いになります。その矢先に、スレッガーは戦死してしまい、ミライさんは号泣します。

 これは、テレビアニメの『機動戦士ガンダム』の後日談になりますが、結局、ミライさんは、一年戦争が終わった後に、ブライトさんと結婚します。
 ホワイトベースで、ミライさんは、ブライトさんの女房役を務めていました。のちに、文字どおりの女房になりました(笑)

 ミライさんは、スレッガーとブライトさんとの間で、揺れていた時期が長かったのですよね。早くから、ブライトさんにも惹かれていました。
 けれども、わずか十九歳でホワイトベースの艦長になったブライトさんは、神経質だったり、煮え切らなかったりすることもありました。よりたくましく、決断力のあるスレッガーになびいてしまうのは、無理もなかったと思えます。

 今、『ファーストガンダム』を見ると、ブライトさんがわがままでも、「しょうがないよな」と感じます。
 いくら職業軍人でも、十九歳で、いきなり戦争に巻き込まれて、難民を含め、百人以上の乗員がいる艦の艦長にさせられたら、たまったものではないでしょう。文字どおりの意味で、それらの乗員の命を、預からなければならないのですから。
 そりゃ、神経質にもなりますよね。私だったら、胃に穴が開くと思います。

 実際、物語中で、ブライトさんが、過労で倒れる逸話があります。その間、ミライさんが、艦長代理を務めます。
 ブライトさんが、艦を預かるプレッシャーでカリカリしていても、ミライさんが雰囲気を和らげてくれるので、助かっていました。

 と、「メインヒロインではない」ミライさんにも、これだけの深い設定や逸話があります。同じくらいの設定や逸話が、セイラ・マス、フラウ・ボゥ、マチルダ・アジャン、ミハル・ラトキエ、ララァ・スンなど、複数の女性キャラクターにも、ありました。
 これは、昭和五十四年(一九七九年)という放映時期としては、とても画期的なことでした。
 もちろん、複数の男性キャラクターにも、同じくらいの設定や逸話があります。主人公アムロ・レイ以外にも、です。『機動戦士ガンダム』が、いかに人間を丁寧に描いているか、わかりますね。

 また、『機動戦士ガンダム』では、上に書いたスレッガー・ロウのように、名前と台詞があり、それなりに活躍するキャラクターでも、容赦なく死にます。ララァ・スンが死にますし、マチルダ・アジャンも死にます。
 二〇二一年現在に見れば、「戦争ものなんだから、人がどんどん死ぬのは、当たり前」と感じるかも知れませんね。
 ところが、『ファーストガンダム』が放映された昭和五十四年(一九七九年)当時には、そうではありませんでした。

 例えば、『機動戦士ガンダム』より五年前に放映された、『宇宙戦艦ヤマト』を見てみましょう。
 前に書きましたとおり、『ヤマト』には、百十四名の乗員がいます。この『ヤマト』たった一隻で、惑星ガミラスから襲来する大群と戦いながら、旅を続けます。
 当然のことながら、戦いは劣勢で、常に、厳しいものになります。よく、ヤマトの第三艦橋が大破しています。
 にもかかわらず、『ヤマト』では、名前と台詞があるキャラクターは、誰も戦死しません。戦死するのは、敵側のガミラス軍のキャラクターだけです。

 二〇二一年現在では、不自然過ぎて、こんな作品はヒットしないだろうと思えますね。
 一九七〇年代には、これが、歴史に残る大ヒット作になりました。視聴者に受け入れられたわけです。当時は、アニメ作品に求められるリアリティ度が低かったと言えるでしょう。

 こういう世界に、『機動戦士ガンダム』が現われたら、視聴者に衝撃を与えるのは、当然ですね。
 主人公アムロ・レイの初恋の人マチルダ・アジャンが戦死し、ミライさんといい感じだったスレッガー・ロウが戦死し、ニュータイプとしてアムロとわかり合えたララァ・スンも戦死します。どんなに重要なキャラクターでも、死ぬ時は死にます。

 「戦争もの」として見れば、これは、リアルな描写ですね。深みのある人間描写に加えて、このような容赦ない戦争の描写もあったため、『機動戦士ガンダム』は、「リアルロボット系」と呼ばれるようになります。
 『ファーストガンダム』の後、日本のテレビアニメでは、しばらく、「リアルロボット系」の作品が栄えます。ヒット作に追随する作品が出るのは、いつの時代も、同じですね。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『機動戦士ガンダム』を取り上げます。



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