魔法少女の系譜、その172~『透明ドリちゃん』を八つの視点で分析~
今回も、前回に続き、『透明ドリちゃん』を取り上げます。 昭和五十三年(一九七八年)に放映された、実写(特撮)テレビドラマですね。
今回は、八つの視点で、『透明ドリちゃん』を分析します。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
の、八つの視点ですね。
[1]魔法少女の魔力は、何に由来しているか?
ヒロインのドリちゃんは、ドリームボールと、フェアリーベルという、二つの魔法道具の力で、魔女っ子―放映当時は、魔法少女という言葉が普及していません―に変身します。魔法道具型の魔女っ子ですね。
ドリームボールとフェアリーベルは、フェアリー王国の王さまから授かったものでした。
最終回になるまで、ドリちゃんが、フェアリー王国のゼリアン王女ではないことが、伏せられます。視聴者は、「ドリちゃんが、生まれつき型の魔女っ子かも知れない」と、誤誘導されます。ここが、物語的には、上手いです(^^)
[2]大人になった魔法少女は、どうなるのか?
最終回で、魔法道具のドリームボールとフェアリーベルは、どちらも力を失ってしまいます。本物のゼリアン王女も現われて、無事にフェアリー王国へ帰ります。このため、ドリちゃんは、もう魔女っ子ではなくなり、普通の小学生に戻ります。
普通の小学生のドリちゃんは、普通の大人になることが示唆されます。そこに葛藤はなく、めでたしめでたしの最終回です。
[3]魔法少女は、いつから、なぜ、どのように、「変身」を始めたのか?
ドリちゃんが預かった魔法道具のうち、ドリームボールが、ドリちゃんを変身させる力を持ちます。
でも、考えてみれば、ドリちゃんが、魔女っ子に変身する意味は、特にないはずなんですよね。ドリームボールの力を使えば、ドリちゃんは透明になって、普通の人間には見えなくなるんですから。
『透明ドリちゃん』以前の魔女っ子ものでは、ヒロインが変身しないほうが、普通でした。『ドリちゃん』と同年に放映された、大場久美子さん主演の『コメットさん』でも、『魔女っ子チックル』でも、ヒロインは変身しませんよね。
変身要素が、魔女っ子として必須ではなかった時代に、あえてヒロインを変身させたのは、英断だったと思います。
『ドリちゃん』は、妖精が大きなテーマだったので、フェアリー王国(=妖精の国)の王女さまっぽさを出すために、そうしたのでしょう。
『ドリちゃん』は、原作が石ノ森章太郎―放映当時は、石森章太郎―さんであることが、変身要素に関わっていることは、ほぼ、間違いありません。
石ノ森さんは、「変身」にこだわりがある方でした。一九七〇年代、石ノ森さん原作の特撮テレビドラマのラインナップを見れば、どなたでも、気づきますよね。代表例を挙げれば、『仮面ライダー』シリーズです。
男児向け作品の変身要素を、女児向け作品に応用した先例としては、『好き!すき!!魔女先生』があります。この作品も、石ノ森さん原案でした。『ドリちゃん』は、『魔女先生』からの流れを、直接、引いていると言えますね。
[4]魔法少女は、「魔法の道具」を持っているか? 持っているなら、それは、どのような物か?
何度も書いているとおり、ドリームボールとフェアリーベルという、二つの魔法道具が登場します。ドリームボールは、ヒロインを透明にするもので、フェアリーベルは、フェアリー王国の妖精たちを呼び出すものです。
ドリームボールとフェアリーベルとは、どちらも、フェアリー王国の道具です。人間界ではない、異世界の道具なので、魔法の力を持ちます。
[5]魔法少女は、マスコットを連れているか? 連れているなら、それは、どのような生き物か?
『ドリちゃん』には、マスコットらしいマスコットは、登場しません。
あえて言えば、ドリちゃんの弟の虎男が、マスコット的存在です。虎男も、ドリームボールの力で、姉と同じように透明になれますし、「魔法少年」の姿に変身します。フェアリーベルも、姉と同じく使えます。
ドリちゃんは、小学五年生にしては、しっかりした子です。とはいえ、子供らしく、失敗もします。虎男が、ドリちゃんをフォローしてくれることもあります。むろん、虎男がやらかすこともあります(笑)
[6]魔法少女は、呪文を唱えるか? 唱えるなら、どんな時に唱えるか?
ドリちゃんや虎男が透明になる時、ドリームボールを片手に持って、「ベルカイアルアマサラク、ナイナイパ!!」という呪文を唱えます。
放映年が同じ『魔女っ子チックル』でも、頻繁に呪文が使われました。『ドリちゃん』の二年前に放映が始まった『ぐるぐるメダマン』でも、呪文が使われます。
つまり、この頃の魔女っ子ものとしては、普通に、『ドリちゃん』も呪文を使いました。
[7]魔法少女の魔法は、秘密にされているか否か? それに伴い、視点が内在的か、外在的か?
ドリちゃんと虎男は、初回で、フェアリー王国のガンバス大王から、「妖精界の秘密を他の人間に知られないように」と厳命されます。はっきり、秘密にされているわけです。
このために、物語は、ほぼ常に、ドリちゃんか、虎男の視点で描かれます。
[8]魔法少女は、作品中に、何人、登場するか?
少女は、ドリちゃん一人ですね。少年を入れるなら、虎男もいます。
妖精たちまで入れていいなら、フェアリー王国の王妃や、水の精オンディーヌなどが、女性型ですね。
こうして見ると、『透明ドリちゃん』は、『ぐるぐるメダマン』に似ています。
ヒロインが、魔法道具型の魔女っ子で、最後には魔法道具を手離して、普通の人間に戻ります。お化けや妖精といった、超常的なキャラクターが、多数登場して、活躍します。ヒロインは、事情により、お化けや妖精と関わることになって、彼らの力を借りて、いろいろな事件を解決します。逆に、事件を起こしてしまうこともありますが。
違いもあります。
『メダマン』のほうでは、題名にあるとおり、主役は、人間ではなく、お化けたちのほうです。メインヒロインがお化けのアズキアライなのか、人間の高坂マミなのかは、微妙です。事実上、ダブルヒロインです。
『ドリちゃん』のほうは、これまた題名にあるとおり、人間のドリちゃんが主役です。他の女性キャラクターは、ドリちゃんに比べれば、全然、目立ちません。ドリちゃんのメインヒロインぶりは、揺るぎません。
違いがあっても、ほぼ同時代の同じ特撮というジャンルです。「こういうのがウケる」と考えられて、作られたのは、どちらの作品も、同じでしょう。
『ドリちゃん』は、変身要素がある点といい、普通の少女が、いわば選ばれて魔法少女になる点といい、二〇二〇年代の魔法少女ものに通じる要素を持ちます。
これで、戦闘要素があって、マスコットが登場したら、今の『プリキュア』シリーズと、あまり変わりませんよね。魔法少女のチームはありませんが、協力してくれる妖精たちのチームがいます。
二〇二一年現在では、『透明ドリちゃん』は、忘れられた存在と言えます。けれども、マイナーな作品の中にも、このように、のちに通じる重要な要素がありました。
今回は、ここまでとします。
次回は、『ドリちゃん』とは別の作品を取り上げる予定です。