チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷
イタリアのルネサンス期に生きた男、チェーザレ・ボルジアを描いた本です。
沢木耕太郎さんの解説文にあるとおり、「歴史でもなく、伝記でもなく、小説でもなく、しかし同時にそのすべてでもある」文章です。
この文章が好きかどうかで、本書の評価は、分かれるでしょう。
内容については、文句なしに面白いです。取り上げられているチェーザレの生涯が、劇的で面白いからです。人生の起伏と、陰影に満ちています。
チェーザレ・ボルジアは、イタリアの名門、ボルジア家に生まれました。父親は、ロドリーゴ・ボルジアです。ロドリーゴは、のちに、ローマ教皇アレッサンドロ六世となりました。
と、これを読んで、「ん?」と思う方がいるでしょう。
「聖職者は、姦淫を禁じられているはずなのに、なぜ子供がいるのか?」ということです。
じつは、当時のカトリック教会は、現代から見ると、腐敗していました(^^;
聖職者でも、愛人を何人も抱えていて、子供もおおぜい持っている、なんていう人が、ローマ教皇になれたのです。
カトリック教会は、事実上、権力闘争の場でした。
加えて、当時のイタリアの状況が、混乱に拍車をかけていました。
イタリアが統一国家となるのは、ずっと後のことです。それまでは、地方ごとに、独立した国々でした。ナポリ王国、ヴェネツィア共和国、ミラノ公国のように。
日本の戦国時代みたいなものですね。時代的にも、ちょうど、日本の戦国時代と重なります。
これらの国々は国々で、また、闘争を繰り広げていました。そこには、当然、複雑な駆け引きや、勝負のあやがあります。
ボルジア家は、ローマを中心とした地方を、縄張りとしていました。
ここを拠点に、数々の闘争、陰謀、政略、外交がありました。狐と狸の化かし合いの合間に、時々、戦争という感じです。
チェーザレは、まだ十代のうちから、その中心にいました。
チェーザレは、決して、善玉には描かれていません。かなり悪辣【あくらつ】なこともやっています。ヒーローというよりは、アンチヒーローです。
そもそも、倫理的にはあり得ない「聖職者の子供」に生まれた時点で、彼の人生には、翳【かげ】がさしていました。
とはいえ、彼が優れた人間であったことは、間違いありません。毒を含んだ部分も、魅力になっています。
混沌の時代を駆け抜けた、若き風雲児の人生を、お楽しみ下さい(^^)
途中で、イタリア・ルネサンス期の天才と、チェーザレとが出会う場面もあります。
歴史に「もし」は禁物ですが、彼とチェーザレとの関係が、もっと長く続いた結果を、見てみたかったと思います。いったい、どれだけの傑作が、生み出されたことでしょう!
誰が登場するのかは、読んでのお楽しみです。
ヨーロッパの貴族に興味がある方、カトリック教会に興味がある方、イタリアに興味がある方、また、大奥のような陰謀劇が好きな方に、本書をお勧めします。
以下に、本書の目次を書いておきますね。
十五世紀末のイタリアの政治地理
チェーザレの勢力分布図
ボルジア家の系図
第一部 緋衣
第二部 剣
第三部 流星
解説 沢木耕太郎
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