魔法少女の系譜、その49~『紅い牙』~
今回からは、新しい作品を取り上げます。
その作品も、テレビアニメではありません。漫画です。『超少女明日香』より数か月遅れて、『明日香』と同じ昭和五十年(一九七五年)に、連載が始まりました。
連載されたのは、少女漫画誌の『マーガレット』―より正確には、『別冊マーガレット』と『デラックスマーガレット』―です。のちに、同じく少女漫画誌の『花とゆめ』に移りました。
連載は、断続的に、平成元年(一九八九年)まで、続いています。十年以上続いたのですから、人気作品ですね。
その作品のシリーズ名は、『紅【あか】い牙』です。『明日香』と並び称せられる、超能力少女ものです。
『魔法少女の系譜』シリーズでは、基本的に、テレビ番組の魔法少女を取り上げることにしています。その他の作品まで取り上げることは、私の手に余るからです(^^;
が、例外はあります。『紅い牙』は、『明日香』と同じように、日本の魔法少女を語る上では、外せない作品だと判断したため、ここで取り上げることにしました。
『紅い牙』の主人公(ヒロイン)は、小松崎蘭【こまつざき らん】―通称ラン―という少女です。物語が始まった時点では、普通の高校生女子です。
ランには、必死に隠している秘密がありました。
彼女は、幼い頃に事故に遭って両親を亡くし、その際に、五年間も、行方不明になっていました。再び発見されるまでの間、なんと、彼女は、オオカミによって育てられていました。そのために、異常な体力や、暗闇でも見える眼などを持つようになりました。
このような「オオカミ的能力」を周囲の人に知られれば、いじめられるから、ということで、彼女は、それを、必死に隠していたのですね。
そこへ、寄木冴子という生物の教師が、ランの高校へ赴任してきます。じつは、彼女は、ランの能力を知っていて、彼女を自分のものとするために、やってきたのでした。
冴子の陰謀により、ランは、殺人の汚名を着せられ、追われる身となります。その過程で、ランは、自身の能力の真実を知るのでした。
ランは、オオカミ的能力とは別に、すさまじい超能力を持っていました。大きな物体を、念力で動かしたりできる能力です。その超能力は、人為的に「復活」させられたものでした。
古代に、現人類とは別に、超能力を持った超人類がいました。超人類は、何らかの理由で、現人類に滅ぼされてしまいます。ある組織が、その古代超人類の存在を知り、現人類の中にわずかに残った超人類の血統を集めて、人為的に、超人類を復活させました。それが、ランです。
ランを復活させたのは、タロンという秘密結社です。タロンは、古代超人類の超能力を利用して、人類を支配しようとしていました。悪の秘密結社ですね。
タロンのために働いていた科学者が、その理念に嫌気がさして、ひそかに、ランを逃がしたのでした。その途中で、事故が起こって、ランは、オオカミに育てられることになったわけです。
寄木冴子は、もちろん、タロンの人間です。
ランの超能力は、古代超人類直系のものです。古代超人類の「集合無意識」のようなものが、現代にも残っていて、その「集合無意識」が、ランの体を通じて、超能力を発揮します。
古代超人類の「集合無意識」を、名づけて、「紅い牙」といいます。作品のシリーズ名は、これに由来します。
「紅い牙」は、とんでもなく強力です。その気になれば、町一つを滅ぼすくらいのことができます。力の強さでいえば、自然界の力を借りられる、明日香の力にも匹敵します。
しかも、「紅い牙」は、自分たち(古代超人類)を滅ぼした現人類に、怨みを持っています。隙あらば、現人類を滅ぼそうとします。厄介な力です。
ラン自身は、善良な人で、他人を傷つけようなどとは、まったく思っていません。けれども、ランの精神力では、「紅い牙」を制御しきれず、たびたび暴走します。
ただし、「紅い牙」は、ラン自身は、絶対に守ります。彼女が、古代超人類の子孫だからです。
このために、ランは、絶体絶命の危機に陥ると、「紅い牙」に助けを求めることがあります。「紅い牙」の恐ろしさは知っているので、ランは、なるべくなら、その力を使わずに済まそうとします。
「紅い牙」が発動すると、ランは、変身します。普段は、黒いストレートヘアですが、髪の色が赤くなって、逆立ちます。
寄木冴子によって、高校を追われたあと、ランは、ずっとタロンに追われることになります。
タロンには、超能力者が何人もいて、ランの追手として、次々に現われます。
いっぽう、タロンの正体を知り、反撃する人々もいて、こちらにも、何人も超能力者がいます。ランは、超能力者の友人や味方を、何人も見つけます。彼らと一緒に、タロンと戦います。
話が進むうちに、タロンのほうも、一枚板ではないことがわかってきます。また、彼らは、ただの悪辣な秘密結社ではなく、中には、崇高な理念を持って活動する人物もいることがわかります。
タロンの超能力者の一人に、ソネット・バージという少女がいます。彼女は、超能力者であるとともに、サイボーグでもあります。持ち前の超能力を、より生かすために、自ら進んで、タロンでサイボーグ手術を受けたのでした。
サイボーグ化されたソネットは、非常に強力な超能力者として、ランたちの前に立ちふさがります。
『紅い牙』シリーズの後半は、ランとソネットとの、ダブルヒロイン体制になります。ソネットが登場してからは、『紅い牙』シリーズ内のサブシリーズ『ブルー・ソネット』という題名になります。こちらの題名で、この作品を記憶されている方も、多いでしょう。
私が聞いた範囲では、「ランよりもソネットのほうが好き」という方も、いますね。ソネットと、彼女をサイボーグ化したタロンの科学者ヨゼフ・メレケスとの師弟愛に涙した、という方もいらっしゃいます。
『ブルー・ソネット』では、人気・実力ともに伯仲したラン対ソネットの戦いになります。「オオカミ的能力+古代超人類の能力」対「超能力+サイボーグの能力」ですね。
ここまで読んで、「なんて中二病的設定だ」と思った方が、おられるでしょう。
昭和五十年(一九七五年)当時、中二病などという言葉は、ありません。それが生まれるのは、二十年以上後の、一九九〇年代末です。
言葉こそありませんでしたが、現象としての「中二病的設定」といえば、まさに、そうですね。『紅い牙』は、少女漫画における「中二病的作品」の先駆けだと思います。少年漫画を含めても、早いほうではないでしょうか。
断っておきますと、「中二病的設定」が悪いと言っているのではありません。むしろ、逆です。先駆者として、褒められるべきです(^^)
『紅い牙』が、少女漫画であることに、驚く方もいらっしゃるでしょう。
何も知らない方に、今、設定とあらすじだけを聞かせたら、間違いなく、少年漫画誌の連載作品だと思うでしょうね。昭和五十年代(一九七〇年代後半)には、これを、少女漫画誌でやっていました。
繰り返しますが、掲載誌は、『マーガレット』―『別冊マーガレット』および『デラックスマーガレット』―と、『花とゆめ』ですよ。ターゲット読者は、十代の少女です。少年ではなく。
しかし、私の知る範囲では、『紅い牙』は、連載当時から、男性読者の多い少女漫画でした。漫画好きの男性―当時は、まだ、「おたく」という言葉は、生まれるか生まれないかの時期です。少なくとも、普及はしていません―が、「戦闘少女」や「魔法少女」の魅力に気づくのに、大きく貢献した作品だと思います。
二〇一六年現在、『プリキュア』シリーズなどを楽しんでいる「大きなお友達」の下地を、用意した作品といえるでしょう。
今回は、ここまでとします。
次回も、『紅い牙』を取り上げます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?