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音楽業界でディレクターになる資格 - 世界の不条理。 売るんじゃなく、救う。

 音楽だから楽しい! / 音楽だけが楽しい。
 それこそが、音楽のプロになるための資格だ。

 僕も、音楽に救われて、ここにいる。

 レコードメーカーには「A&R」というプロフェッショナルがいる。ディレクターと言った方が、馴染みがあるかも知れない。「アーティスト・アンド・レパートリー」の略で、アーティストにまつわる「あらゆるを担う」という意志が込められている。

 そして、僕は、1人のA&Rの存在意義 = 正義は、誰かの人生を、あるいは、その内の1日を、もしかすると、たった数分かも知れないけれど、音楽で救うことにあると思っている。

 言うまでもなく、救うなんて簡単ではない。

 だから、音楽のプロになる資格はあっても、音楽だから楽、音楽だけが楽では、A&Rにはなれない。辛い想いをすることも人並みにある。

 A&Rもまた、他のご職業の皆さんと同じように『世界の不条理』に挑戦し続けなければならない。

 - - - - -(世界の不条理って?)

「 数 字 と い う 存 在 に つ い て 」

 数字というのは、一定の平等性を保つ評価手段として、現時点では、ベストに近いソリューションだが、表裏一体、ペテン師の顔も持っている。

 ペテンというのは、当たったら当たったと主張できて、当たらなかったらそっと闇に葬れるようなコトだ。

 真剣にやっている人であればあるほど、いつか、その不条理と真正面から対峙することになる。そういう人の真面目さから生まれる「非楽観性(※)」は、おそらく「逃げる」という選択肢を示さないだろう。そして、ときには、心が折れそうになることさえある。

※ 悲観することはないが、楽観することもない。

 音楽業界でも、これまで、多くのA&Rが、数字に一喜一憂してきた。数字的な結果を出せていないときは、とんでもなく苦しい。低い数字や叶うことのなかった数字に、恥ずかしさすら覚える人もいるかも知れない。

 でも、その感情こそ、真剣さの証なのだ。
 必ず、次への原動力に繋がる。

 少なくとも、僕は、そう感じられる人を、心から尊敬している。僕が尊敬するA&Rは、以下の2種類のいずれか、もしくは、その両方を兼ね備えている人だ。

▶︎ 今はまだ売れていないだけのアーティストに、 一所懸命になれる人(その瞬間に全身全霊を賭けられる人)

▶︎ 今はもう売れていない(そうなりそうな)アーティストに、一生懸命になれる人(その人生にずっと寄り添える人)

 こういうA&Rは、あるときは簡単で確かだと感じていた数字が予測不能な怪物と化しても、ただそれに打ちのめされるのではなく、そこから何度も立ち上がれる性質を持っている。

 その不都合な現実から逃げ出せないなら、しなやかになるしかないことを思い知っているからだ。

 弓が、後ろに引かれた分、より速く遠くまで矢を飛ばせるように、後退させられた分、より長く前進することができるチョロQみたく、後ろに下がるしかなかった苦い経験(傷)を持つ人だけが、新たな時代 = ムーヴメントまで巻き起こすような新人をヒットさせることができるのかも知れない。

 数値目標を立てることは、社会的な評価のために、とっても大切だし、必要だけど、それだけが目標だと、決して、思わない方がいい(少なくとも僕にはそうだった)。

数 字 に は 、未 来 に お け る 希 望 や 願 い を 表 現 す る 機 能 も
予 測 不 可 能 な 結 果 を 正 し く 「 定 量 目 標 化 」す る よ う な
サ ー ビ ス も 付 い て い な い 。

 だからこそ、どうか、数字では表せない
 本当の結果が出るまでやり遂げて欲しい。

 それが何なのかは、僕にも、今のあなたにも、誰にも分からない。それは、未来、やり遂げたあなたにだけ分かる感覚や感動だ。

 それは、売れようが、売れまいが、きちんと訪れる。チャンスは確かに少ないが––––「あぁ、自分はこの瞬間のためにここまで来たんだな」と思える日が、きっと、やって来る。

 売れると信じている新人(プロジェクト)が、なかなか芽吹かないとき––––

 売れていたアーティスト(プロジェクト)が、どうしても下り坂になっていくとき––––

 数字の残酷さに、打ちのめされ過ぎないために。

 - - - - -

「 言 語 化 す る 大 切 さ 」

 本来、万能ではない数字を「確実性のある物差し」として、あらゆる場面に導入する現代社会は、本来、文章(想いや言葉)にすべきことまで、数字にして、判断しようとする。

 たとえば、KPIという言葉の「I」は、インジゲーター(指標)という意味あって、KPI = 数字とは限らない。

 僕は、映像作家やクリエイターという立場で、一流の経営者の方々とお仕事する機会に恵まれたが、彼らの誰ひとりとして、新規事業のKPIが数値化できるなどという幻想を信じている人はいなかった。

 むしろ、新規事業における目標を、簡単に数値化すべきではない = 安易に真実から目を背けるべきではないからこそ、後述する「言語化」や「明文化」すること、そして、それを文章のまま判断するシステムの構築に、大変な苦労をされていた。

A & R も 、

言 語 化 せ ね ば な ら な い コ ト
数 字 で は 伝 え ら れ な い コ ト

か ら 、 決 し て 、 逃 げ 出 す べ き で は な い 。

そ し て 、 A & R が 言 語 化 す べ き コ ト と は 、
マ イ ノ リ テ ィ ( 少 数 派 ) の 「 願 い 」 だ 。

 石鹸の香りには、一定の「正解」=「良い」の範疇があるし、良い自動車の条件にも(クラシックカーのマニアなどは別として)幅がある。

 ここで言う「正解」とは、
「マス = 大多数が望むコト」と同義。

 石鹸市場において、誰かにとってはクソみたいな匂いが、他の誰かにとってバラの香りなんてことはあり得ない。

 ビジネスでは、多くの場合、マジョリティの願いを平均化したモノを売っている。それが、たとえば、石鹸や自動車(のほとんど)だ。それは、それで、とても大変なことだと思う。

 一方、音楽市場は基本、ニッチなマーケット = 少数派の集まりだ。

 どれだけ大きい商材(人気のアーティスト)でも(たとえば、日本でCDは1000万個も出ないし、コンサートのチケットも50万枚売れるなんて稀有)マス向けの他業種からすると、かなり小さな市場だ。

 だからこそ、
 マイノリティの願いに応えるのが、
 我々、音楽業界の使命なのだ。

 その「重要性」=「需要」を、まず自覚すべきだ。これ以上に大切な覚悟など、A&Rにはないかも知れない。

 音楽(アート)というのは––––

 誰かの「薬」が、他の誰かにとっては「毒」になり、その誰かの「毒」は、また別の誰かの「薬」になるような、多数決で導き出せる正解がないビジネスだ。

 必然、あなたが音楽業界に入って生み出す「音」も、誰にでも効く万能薬ではないが、逆に言えば、あなたが生み出す「音の薬」でなければ、効かない人も必ずいる。

 極論、音楽業界にとって「売れる」という結果や現象は、誰かにとっては「毒」かも知れない「あなたらしい薬」のみが効く傷を持つ人が何人いるか? の数だ。

 新人を立ち上げるとき、あるいは、新人がまだ売れていないとき、あるいは、これまで売れていたアーティストが伸び悩んでいるとき、まずフォーカスすべきは、数字よりも、もっと原点、そのアーティストとあなたのコンビにしかつくれない「薬」が必ずあるという点。

 その「音」でしか癒せない傷を持つ人が、必ず一人はいるはずだと、僕は、思う。その人を癒せるのは、世界中を見回しても、歴史上を見直しても、あなただけしかいない––––そう、心底、思うのだ。

数 字 で は
未 来 に お け る 希 望 や 願 い を 表 現 す る こ と も
予 測 不 可 能 な 結 果 を
正 し く 目 標 化 す る こ と も で き な い 。

必 要 な の は
言 葉 = 思 い の 丈 。

言 葉 で 示 す べ き は
少 数 派 の 願 い 。

 あなたが、いつか、新人を立ち上げるとき、素晴らしい音楽をプロデュースする自信は、すでにあるはずだ。確実性 = 自分なりの正解も描けているはず。クリエイションのイメージは、もう、出来上がっているのはないだろうか?

 もう1度、書くが––––

 音楽だから楽しい! / 音楽だけが楽しい!
 それこそが、音楽のプロになるための資格だ。

 あなたなりにやるべき音楽の正解のイメージは、ずっと昔から、あなたの中にあって、だからこそ、音楽業界を志し、そんな熱をくすぶらせ続けて、ここまで来たはずだ。

 そして、きっと、それは、正しい。
 周りもきっと言ってくれる––––
「いい曲だね」「すごく刺さったよ」など。

 でも、同じような感覚で、確実な数字目標を宣言できるだろうか? 想像が付くだろうか? それに関しては、周りもあやふやなことしか言えないはずだ。もし、「この曲は、2567枚のCDが売れる!」と予測して、きっかり当てた人がいたら、それは、偶然か、ペテンの類いだ。

 繰り返しになるが、ペテンというのは、当たったら当たったと主張し、当たらなかったら、そっと闇に葬り去れること––––

 ––––数字には、常に、歓喜の裏に、このような不条理が付き纏う。

 でも、そういった倫理観や当たり前の通じない世界がビジネスであり、他に漏れず、音楽業界なのだ。

- - - - -

「 あ な た で あ る 意 味 」

 レコードメーカーは、とっくに、
 どこでもドアがある世界の
 鉄道会社として生きている。
(詳しくは、以下の記事にて)

 企業にとって、不利なことが多いが、
 リスナーやユーザーにとっては、
 夢のようなことだらけでもある。

 レコード店の在庫をビル1棟分集めても、到底、収まり切らない大量の音楽に、手の平で収まる小さなスマホから、いつでも、どこからでも、アクセスできる今、音源の聴取体験に関しては、タイムスリップもワープもし放題だ。

 レコードメーカーにとって、音楽だから不利なこと/音楽だけが不利なことは、リスナーにとっては、音楽だからできること/音楽だけができること。

 あなたも、そんな音楽に救われて、
 音楽だからこそ、そこにいるはずだ。

 もし、音楽業界を目指すなら、
 かつての自分がそうだったように、
 いつか、自分のような誰かを
 あなたらしく救うにはどうするべきか?
 を、考えるのが、最短ルートだ。

 だって、それができるのは、
 世界中の音楽業界で、これまでもこの先も、
 あなただけしかいないのだから。

 人によって薬にも毒にもなる音楽(アート)は、平均的かつ万能な正解(の物差し)がない存在。

 数字よりも大切に想うべきは、あなたにしかつくれない「薬」が必ずあるということ。そして、その「音」でしか癒せない傷を持つ人が、必ず、1人はいるということ。

 A&Rは、
 その人こそを……
 その孤独こそを……
 救う義務と権利、
 そして、パワー(企業は現代の特権階級)を
 持ち得る。

 誰に売るか? ではなく、誰を救いたいか?
 それは、誰のための正義なのか(その正義は誰を救うためにあるのか)?

 あなたというA&Rが生まれる意義は、かつて、自分が救われたように、あなたにしか生み出せない世界観 = 正義を持った音楽で、誰かの人生を、あるいは、その内の1日を、もしかすると、たった数分かも知れないけれど、あなたらしく救うことにある。

 A&Rは、まだどんな道もあらゆる標識もない真っさらな荒野に、1本、また、1本と、小さく泥臭い旗を立てていく仕事だ。

 ずっと昔から、あなたの中で燻り続けた
 音楽の正解イメージ。
 それは、誰に向けたどんな救いになるのか?
 きちんと言葉にして、語れることが大切だ。

 新人を売るとき、アーティストに向き合うとき、もっとも大切にしないといけないこと––––心の中心にしっかりと置いておくべきは、尖ったセンスでも目新しいアイデアでもない。

あ な た に し か 見 え て い な い
サ イ レ ン ト ・ マ イ ノ リ テ ィ の
声 に な ら な い 願 い だ 。

 それは、アーティスト × A&Rという「個人 × 個人」がこの世にいなければ、決して、マーケット(コミュニティ)にはならなかった正義。

往 々 に し て
少 数 派 の 正 義 は 、 世 間 一 般 か ら は
イ タ い ん だ 。

 そこを、恥ずかしがらなくていい。
 極論、あなたにさえ自信があればいい。
 A&Rは、イタいまま大人になる職業だ。
 青くさい願いを抱えたまま、
 不条理な数字と対峙する––––
 これは、エンタメ業界統一の正義だ。

 そして、願わくば、いつか、あなたのその「イタさ」が
 色々な「痛み」を乗り越え、多くの人から
「かっこいい」と言われる日が来ることを、
 願っている。

 そのためにも、まずは、暗闇の中で
 1枚、1枚、ひっくり返していく––––
 今はまだ誰にも分からない、
 あなただけの感覚で
 世間の常識を、1つまた1つと
 ひっくり返していく––––

 ––––ひっくり返したその数が
 たとえ、1枚であっても、
 百万枚であっても、
 僕は、その両方に価値があると思っている。

 孤独を感じるとき、せめて、数字では表せない希望に縋れるように––––
 あるいは、数字にならない絶望に抗う勇気を少しでも持てるように––––

 ––––数字なんかじゃ、到底、追い付けない
 ––––だからこそ、絶対、手遅れにならない
   言葉を選んだつもりだ。

 それが、音楽を「売る」んじゃなく、
 音楽で「救う」という「救い」だ。


【 マ ガ ジ ン 】

(人間に限って)世界の半分以上は「想像による創造」で出来ている。

鳥は自由に国境を飛び越えていく
人がそう呼ばれる「幻」の「壁」を越えられないのは
物質的な高さではなく、精神的に没入する深さのせい

某レコード会社で音楽ディレクターとして働きながら、クリエティヴ・ディレクターとして、アート/広告/建築/人工知能/地域創生/ファッション/メタバースなど多種多様な業界で仕事してきたボクが、古くは『神話時代』から『ルネサンス』を経て『どこでもドアが普及した遠い未来』まで、史実とSF、考察と予測、観測と希望を交え、プロトタイピングしていく。

音楽業界を目指す人はもちろん、「DX」と「xR」の(良くも悪くもな)歴史(レファレンス)と未来(将来性)を知りたいあらゆる人向け。

 本当のタイトルは––––

「本当の商品には付録を読み終わるまではできれば触れないで欲しくって、
 付録の最後のページを先に読んで音楽を聴くのもできればやめて欲しい。
 また、この商品に収録されている音楽は誰のどの曲なのか非公開だから、
 音楽に関することをインターネット上で世界中に晒すなんてことは……」


【 自 己 紹 介 と 目 次 】

【 プ ロ ロ ー グ 】



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