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透明な病と生きる 自律神経失調症 第4章 ”透明な鳥籠”

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透明な病と生きる 自律神経失調症 第3章 ”ゆらめく影は、甦る悪夢” 後編|月 (note.com)

第4章 透明な鳥籠

鳥の目線で見てみる

第3章後編で書いた「きっかけ」を経て、私は自身の仕事と生活に対する考え方を変え、心身の不調を引き起こす原因と戦うことを決めました。
そもそも何故このような状況、自律神経失調症になったのか。いったい何がストレスだったのか。
ひとまずその時に持っていた目線を一旦捨て、俯瞰で自分と周囲を見てみることにしました。
導き出した要因を、1)自分以外に起因する「外的要因」、2)自分自身に起因する「内的要因」に分けて整理してみます。

1) 外的要因
仕事の内容:
・大きな責任を伴う業務であり、無自覚な緊張感を生じていた可能性がある
・専門的な知識や技術を要する業務であり、遂行が容易ではない
・求められる成果のレベルが高い
・担当制であり他者には任せにくい
・業務量が多い、業務の幅が広い(別の職場の同業者なら、通常は行わない範囲まで含まれていた)
・時間的拘束が長い、休日が少ない(規定以外の時間外勤務が多い)
・有給休暇が取れない風潮 多少の体調不良や病気など休む理由にならない

人間関係:
・部長のパワハラ体質 
 基本的に褒められることはまず無い 
 人格を否定するような言動の数々 
 理不尽な命令、要求 
 時間も曜日も関係なく仕事を振ってくる 
  支配的であり言い返すことはほぼ不可能(会社のお偉い方ですら見て見ぬふり)
・部署内の人間関係もそもそも良くない
・先輩が既に職場の環境に毒されている 言いなり状態、しかし裏では毒吐きまくり
・辛いときに相談できる人がいない
・後輩が仕事ができない できるようになろうともしない
(結果、そのカバーで業務量は増えていた)
・仕事外の人間関係も希薄となっていた

2) 内的要因
性格、考え方の傾向:
 ・基本的には真面目 仕事に関しては過不足なくこなしたい
 ・より良いものを提供したいという向上心
 ・「まあいいや」とは思わない 手抜きや妥協は極力したくない 
 ・他人に頼むより自分がやった方が早い、という驕り
 ・求められるとその分だけ頑張ってしまう
 ・多少凝り性なところがある
 ・基本的には怒りやすいほうではない 我慢することが多い

プライベート:
 ・癒しになるもの、幸せだと思うことの欠如
 ・趣味、余暇活動の時間が取れない
 ・友人と過ごす時間を設けることができない(いつ休めるか不確定なため予定が立たない)
 ・一人の時間がほとんどなので、無駄に考えを巡らせてしまう
 ・他者と自分の境遇を比べがち
 ・容姿、性格、社交性へのコンプレックス

他にもたくさんあると思いますが、今思いつくのはざっとこんなところでしょうか。
読者の皆様にも、私もこれ同じかも、と当てはまるところはきっとあるのではないかと思います。
これを基に、さらにまとめてみます。

地獄の俯瞰図

当時働いていた職場では、パワハラ上司の下で過剰な量・レベルのタスクをこなさざるを得ませんでした。性格的に手が抜けない私は、それに応えようと日々研鑽し、なんとか食らいついていきます。しかし少しの粗を探しては罵倒され、謂れのないことで怒鳴られ、業務とは無関係な人格否定発言の数々を受けます(私以外もそうですが)。自分に与えられたタスクは自分がしなければならない、と残業も休日出勤も、心の底では嫌だと思いながらも逃げずにやり続けました。
世の中が休みの日には、同級生たちは皆楽しそうに遊んだり旅行に出かけたりしています。私には息抜きになることが何もありません。そして同級生たちはどんどん身を固めていきます。
私は社会人になって仕事しかしていません。恋愛って何?都市伝説?どこに売ってるの?状態です。ひどい時には、朝仕事をしてから友人の結婚式と披露宴に出席し、仕事に戻って終わらせてから二次会へ、なんてこともありました。異常ですよね。
そしてどんなに苦しい時でも先輩や同僚を頼ることはできません。そのうち先輩は次々退職され、さらに業務量と責任は増えていきます。しかし言っては何ですが同僚たちはどうにもレベルが低く、任せられないことが多い、ミスをカバーしなければならない等で業務量は上乗せの一方。しかしそれでもお気楽な同僚たち。
本来一番頼るべき主任に至っては全くの無能、ついたあだ名はねずみ男。常に部長の顔色を伺い、己の保身を第一に動く。TBSの日曜ドラマなら3話くらいで悪行がバレて主人公にバッサリ切られるかませ犬タイプ。

そんな中で働き続け、次第にイライラしてしまうことが増えていきます。それまでは気にもならなかったような音や声などにも過敏に反応してしまう。ミスを繰り返す同僚が非常に腹立たしい。本当は怒りたくないのに感情のコントロールがつかず厳しくあたってしまう。そして本来の自分とのギャップにも苦しみ、さらなるストレスを生むのです。そしてぐるぐる巻きついていく孤独感、無力感、絶望感。自分などこの世に生きている価値がない。誰にも必要とされていない。物事に対する視野が狭くなり、見えていたはずのものが見えなくなっていく。そのようにしてストレスが癒されることのないまま、多方面からどんどん追い詰められていき自律神経の嵐に巻き込まれていきます。しかし症状が出てからも、周囲からの理解は得られず、誰にも相談できない、解決策が見当たらない。
自律神経失調症になって初めて分かりましたが、おそらく当事者になった人以外にはこの辛さは理解できないと思います。体調悪いとしか言葉にできないのですが、実際は体調悪いとかそんなレベルではありません。とにかく辛いのです。身体なのか心なのか、もうわかりませんがとにかく辛い。
状況と症状が絡み合い、悪循環に陥るとそこからが地獄です。

さて、それならその悪循環のどこにハサミを入れてループから抜け出せばいいのか?

さらば、鳥籠

もう一度冷静になって、第三者的視点で考えます。

そもそもこの仕事って私がしなければならないことなのか?

確かに専門的な仕事ではある。でも「自分にしかできない」仕事ではない。
自分は決して特別な人間ではない。自分ができていることなら自分以外でもできる。
それならやりたい人がやればいい。

自分は「やりたい人」なのか?
答えはノー。
苦痛に耐えてまで仕事を続けて得るものはさらなる苦痛。
経験や知識の蓄積は確かにあるかもしれないけれど、苦痛と天秤にかけると明らかに苦痛が勝つ。
おそらく人的環境を変えることはできないから。

それなら自分の位置を変えればいい。

うん、辞めよう。

むしろその答えを出すのが遅かった。
逃げだと思われるかもしれない。飼われた鳥が鳥籠から出れば、それは「逃げた」と言うかもしれない。

でもこれは違う。飼われてなどなるものか。
自分が、周りが作った、出口が開かれた透明な鳥籠。
そこに居る必要はない。
開いた鳥籠から飛び出して自由を得るのだ。

そう考えるに至った矢先、パワハラ上司からまたもやモチベーションを削ぎ取るような暴言が飛びます。
完全にそれがスイッチでした。

絶対辞めてやる・・・!

その瞬間、瞳に小さな黒い炎が灯りました。
それが「覚悟」なのかもしれません。

それから数日後、上司に退職の意向を伝えました。
もちろん、ただ辞めたいでは通りにくいので、辞めた後どうするのか、という具体的なプランを添えて。
上司は呆気にとられたような顔をしていましたが、正直に「もう限界です」とダメ押しのナイフを投げ、承諾を得たのです。
以降は半年ほどかけて自分の業務の整理や引継ぎを完璧に行い、方々へのお礼を済ませ、年度末で退職を迎えました。やりたくない仕事、と言いながらも自分の仕事への誇りまで捨てるわけではなかったので、ギリギリまで自分にできることを行い、可能な限り跡を濁さず飛び立つことを選びました。
その頃には、処方された薬の上手な使い方がわかってきていたこともあり、ある程度は症状のコントロールがつけられるようになっていました。

当然、退職の話を同僚たちに明らかにしたときに、自分の心身のことも伝えましたが、感覚的にはおそらく誰一人として事の重さを理解してくれてはいなかったと思います。伝えた前後で接し方が変わることは特にありませんでしたし、むしろ「体調悪いらしいから」と少し距離を取られたようにも感じました。
結局、当事者を経験した人以外には透明な病のままなのだと実感したことだけが、今でも悲しいです。

ひとまず、私は諸悪の根源たるブラックな職場から飛び立つことができたのです。

もしも同じように仕事に悩んでいる人、同じような苦しみの中にいる人は俯瞰の目線から考えてみてください。

それは本当にあなたがするべき仕事ですか?
あなたが身を心を傷つけてまでしたいことですか?
知らず知らずのうちに頑張りすぎていませんか?
頑張る自分を正当に評価できていますか?
今の生活の先に、あなたが望むあなたはいますか?

第5章へつづく

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