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災いのない世への祈り…いま能『翁』が掛かること、みることの意義

みなさま、寒中お見舞い申し上げます。元旦の大地震のあと、悲しい気持ちが心から離れない日々です。いまだ行方のわからない方々、どうかご無事でいらっしゃいますように…

天下泰平、国土安穏、五穀豊穣を祈願する『翁』は、本来であればお正月ムードにピタリとあう演目です。わたしが勝手にパワースポット認定している矢来能楽堂での上演ということで、幾重にもありがたいです。

🎭1月6日(土) 12:30
観世九皐会 一月定例会
矢来能楽堂 (神楽坂)
第一部 以下、敬称略
『翁』長山耕三
連吟『鶴亀』
観世喜正・光岡良典・高橋康子・久保田宏二・坂井隆夫・柴田孝宏・平野真樹・深津 紘・筒井陽子
狂言『鬼瓦』善竹十郎
※翁と鬼瓦にご出演のみなさま全員のお名前は、下記サイトのチラシPDF裏面に記載されています。
https://yarai-nohgakudo.com/archives/11462

いつも爽やかな矢来能楽堂

神楽坂の繁華なエリアから少し離れたところにある、木造のお屋敷のような建物です。耐震工事が3月に終わるようです。

自然光が能舞台に差し込むので時間によって空間の表情が変わります。なぜかものすごく空気が爽やかで、訪れる人々もみなおおらかで血色がよいのです。

左のポスターは金沢能楽美術館

始まる前から泣くおすしさん

お客さんの多くが今いちばん願うことは、今も余震が続いている北陸地方に平穏な暮らしが戻ることでしょう。共通の気持ちがパワースポットに集結し、『翁』を通じて祈る…。

ものすごい霊的エネルギーの高まりにガクガクぶるぶるで、おすしちゃんは始まる前からすでに涙です。わたしも含めた先祖代々そういった体質の人々が、こういうところにはちょいちょいいらっしゃってるなとわたしは感じました。

静謐な祈りの時間

もう完全にそういう気持ちで場に居合わせているものですから、演劇としてどうだったかということが完全に記憶にありませんね…。エアコンの音と床のきしみ、お客さんの呼吸だけが聞こえてくる、ものすごい時間でした。

いかにも剛の者な三番三

『翁』の後半、緊張していた空気がフッ…と軽く柔らかく変わりました。ずっと後ろ向きで待機していた三番三の出番です。この方がとてもいい。好き。

歌舞伎の『三番叟』は見目麗しい役者さんが踊りますので、みなさんすごく細いんですよね。その思い込みがあったので、意外性にハッとしました。

善竹大二郎さん、かなり恰幅の良い方で、キャラが素晴らしいですね。ひとつひとつの動きから目が離せない。台詞?掛け声?も、ただ強いだけではない愛おしさがありました。癒されますね…大好き…。

とにもかくにも穏やかな日々を願う

『翁』のあとにはおめでたい連吟『鶴亀』、そのあとにはおおらかで可愛らしい狂言『鬼瓦』でした。

鬼瓦の大名は国元の妻を想ってわーんわーんと泣きます。よりによってその妻の顔を思い出すきっかけが鬼瓦…なのですが、最後は「もうすぐ会える、笑って帰ろうよ」といって帰っていきました。なんとなく重たかった気持ちが少しやわらぐよい終わり方でした。

体力がゆるせば第二部も通しで拝見したかったのですが、確実に尻が痛くなるので、右腕負傷のこともあるし、今回は遠慮いたしました。

はからずも祈りの意味合いがもと期待していたお正月らしさとは違ったものにならざるをえなかった今年の『翁』。いちおう疫病がひと段落したことによって、あの場所でみんなが心を合わせ祈ることができました。芸の研鑽を積むみなさん、素晴らしい能楽堂を守るみなさん、そしてたくさんのお客さんの、みんなにありがとうの気持ちでいっぱいになりました。

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